★★ローストしたクルミ
グレイル視点
「……殿下、何人か人を送り隣国の様子を探らせましょう。魔石輸出の件は保留ということでよろしいですか?」
「ん?あ、ああ。そうだな」
戦争準備のために魔石を集めているのだとすれば、敵にわざわざ塩を送ることもない。
……逆に、こちらとして戦争の意志はないと言うことを伝える必要もある。陛下は外交もおろそかにしていた。
確か北の隣国の姫の一人を妃として迎え関係を強化するような話も出ていたはずだが……それも袖にしていた。
ダンが、何を思ったのか唐突に俺の肩を叩く。
「早急に黄色い花を集めさせますよ」
「は?」
「贈りたい相手の望む花ではないかもしれませんが、花を贈られて嫌な気持ちになる女性はいないでしょう」
……花を贈ったことなどないから分からないが、確かにリツも花を貰ったら喜んでくれるだろうか?
「いや、だがダン、急にどうしたんだ?」
「お詫びするんでしょう?謝罪は速い方がいいのでは?」
あ、そうだ。喜ばせたいから贈るんじゃなかった。俺のしでかしたことの罪滅ぼしを少しでもできればと思ってのことだ。
リツと二人きりで夜を明かしてしまった事実を消すことはできない。リツの名誉を守るための責任の取り方も考えなければ……。
「残された時間は多くはありませんからね。上に立つ覚悟を決めたというのであれば……。好きな子にも今ほど自由に会うことはできなくなる……初恋を経験したばかりだというのに不憫な……せめて振られるにしても思い出くらいは……」
「ん?ダン?何か言ったか?」
「いえ。別に……」
ダンがどうにも憐れむような視線を俺に向けているような気がしてならないのだが……。
「あのぉ、殿下……クルミなのですが……」
フライパンを手に、騎士が近づいてきた。
ああ、そうだった。クルミを日であぶって……煎ってもらっていたのだ。引き出しから本物の塩を取り出し、フライパンの中に入れ、クルミとまぶす。
本物をわざわざ使ったのは、いつも苦労を掛けているダンのためだ。
クルミを一つ取り出しまだ熱いそれを口に入れる。
カリっとして、リツが作ってくれたそれとそん色ない味になった。うまい。
にんまりしながら騎士に声をかける。
「ありがとう、上手にできているようだ。一つ食べてみるといい」
騎士にもクルミをひとかけら渡す。
「はっ殿下、ありがとうございます!」
びしりと姿勢を正して騎士がクルミを口にし、目をまん丸にした。
そうだろう、そうだろう。騎士になっているということは訓練校でいざというときに食べられる物としてクルミを森で取って食べたことはあるはずだ。その生で食べるクルミと、こうして少し手を加えたクルミ……違いに驚くだろう。
さすがに訓練された騎士だけあって、興奮して叫ぶようなことはしないが、表情が物語っている。
さて、ダンはどんな反応を示すかな。
「ダンも食え」
クルミを一つ手に取りダンに手渡す。
「だから、クルミなど何度も食べたことが……」
ダンはしぶしぶといった感じで手渡したクルミを口に放り込んだ。
「むぅっ。クルミ……だろう?これは確かにクルミのはずだ……」
ダンがフライパンの中を覗き込んだ。
あと1話でグレイルサイド終わりまする……長かった。
髭の下りもうええからwww




