★★本物のクルミの価値
グレイル視点
「とても同じクルミだとは思えない。温めて塩を振っただけだろう?それだけでこれほど変わるものなのか?なんとういうか……何もないときに仕方なく食べるようなものじゃないな。好んで食べたくなる味……」
どうやらダンも気に入ったらしい。
「そうだろう。ダンも気に入ると思った。それで、執務室に持ってきたんだ」
何も早く食べたかっただけではない。
ダンが再びフライパンに手を伸ばしたので、ダンの手からフライパンを遠ざける。
「はぁ?グレイル、私に食べさせたいんだろう?なんで避けるんだっ!」
当たり前だ。
せっかく食べると髭が生えるかもしれない本物のクルミをそうそうダンに食べさせてたまるか。
「今ダンが食べたものは、本物のクルミと塩を使ったものだ」
ニヤッと笑ってダンに教える。
「なんだと?じゃぁ……」
ダンがポケットから魔石を取り出し「くるみ」と唱えれば、手の平にクルミ3つ分ほどの実が出てきた。
すでに殻から外され、フライパンで煎って塩を振った状態のクルミだ。
なるほど、パン魔石の大きさであれくらい出るんだな。
ダンが出てきたクルミを口に入れ満足そうに口をほころばせた。
「なるほど。これほどうまい物を、本物で用意するとは……これは利用価値がありそうですね」
は?利用?
価値は、ある。髭が濃くなるらしいからな。本物である必要がある可能性をリツが口にしていたのだ。そのために、たくさんクルミを拾って来たのだ。
「自分が美味しい物を食べるためだけに召喚させ大きな魔石を集めさせる陛下に対し、自ら食材を集め調理し美味しい物を配る殿下。しかも、皆が再び食べられるようにと本物を分け与える。どちらに人望が集まるかなど言うまでもないことでしょう」
は?
配る?
いや、配るつもりなど……ダンには世話になっているし。
「くるみ……ああ、本当です。護衛兵の私にまで本物を食べさせてくださるなんて……殿下、ありがとうございます」
さっき味見をさせた護衛兵が勢いよく頭を下げた。
いや、あれ?それは単に作る手伝いをしてもらったお礼に上げただけで……。
「では、これは兵舎の食堂で夕食時にでも配りますか」
ダンが、フライパンを俺から取り上げて騎士に手渡した。
いや、待ってくれ、俺の、俺のクルミ。髭が濃くなるクルミ……。
わたわたと宙を舞う俺の手。
ダンは有無を言わせぬ目で俺を人にらみし、書類に視線を戻した。
人望……か。やはり、ダンもそろそろ陛下には退位してもらおうと考えているのだろう。なるべく問題が起きないように平和的に……と。
そのために陛下派と殿下派と呼ばれるそれぞれの派閥の勢力図を殿下は多数で圧倒的有利という形に持って行きたいのだろうな……。
はぁ。仕方がない。クルミはまた集めてくるか。
ダンは黄色い花を手配してくれると言うし。花が手に入ったら、リツに会いに行って……。
クルミは残念ながらダンに取り上げられてしまったけれど、この後の予定を考えると気持ちはふわふわとそれほど悪い物ではない。
ひとまずグレイル視点終わり。
なかなかに、話が進んだような気になった。リツサイドだとスローライフ……若干10円サバイバルみたいな感じですが……で話が進まないもんなぁ。
ではでは。引き続きよろしくお願いいたします。




