★★クルミ調理
グレイル視点
まるで少年みたいなリツ……。そして、美人と評判な母。母は俺の倍くらいの骨の太さがありそうなどっしりした女性だ。骨盤も大きく足も腕も太い。胸も巨大だ。
くっきりはっきりした目鼻立ち、ちょっと釣った目力はすさまじく、高い鼻はしゅっと筋が通っている。ぽってりと分厚い唇はとんでもなくセクシーだと男性からのため息を聞いたのは幾度となくある。
そんな母のような美人とリツ……俺の好みは……。
「殿下!クルミの殻をむき終わりました!」
大きな声が部屋に響いた。
それと同時に、俺の頭をポコポコ叩いていたダンが席に戻って丸めた書類を広げて手で丸みを伸ばし始める。
「休憩にしますか?」
ダンが目の前まで持ってきたクルミを一つつまんで口に放り込む。
「勝手に食べるなよダン。まだ休憩にはしない。あーっと、悪いがフライパンを持ってきてくれないか?」
クルミ割をしてくれた者に声をかける。
「フライパン?パンでも焼くのか?クルミをはさんでそういやぁ、昔食べたなぁ」
ダンがクルミに手を伸ばすのをやめ、書類仕事に戻る。
戻ってきた護衛からフライパンを受け取ると、クルミをざざざっといれ、暖炉の火に当てる。
「あ?温めるのか?」
ダンは俺のしていることが珍しく気になるようで書類から顔を上げてこちらを見た。
「いや、えーっと、焼くんじゃなくて、なんだったかな。まぁ、なんだっていいや。ちょっと、頼めるか?こうして焦げないように動かしながら火にあぶってくれ。そうだな、10分から20分くらいだったか?」
さすがにこれ以上書類仕事をさぼってダンの機嫌を損ねたくないので、護衛にクルミの調理は任せて書類に戻る。
「で、突然エルフの女性がどうのなんて言い出すなんて……どういうことです?」
ダンの声のトーンがもとに戻った。
地雷を踏んだことは忘れてくれたのかな。
「エルフの女性に惚れましたか?」
「は?ほ、惚れ?お、俺が?女性に?」
慌てて顔を上げる。
「ち、違う、そういう話じゃなくて、その、俺は、その」
ダンが探るように俺の顔を見た。
「……女性に興味を持つのは構いませんが……くれぐれも行動には気を付けてください殿下」
ダンにはからかうような声色はない。
「立場上、気軽に女性と関係を持ては国を巻き込んでの騒動になることもあると自覚はお願いしますよ」
ダンが言いたいことは分かる。権力に目がくらんでいる者たちが世の中にはいるのも知っている。それで嫌な思いもしてきた。
「いいですか、女性と不用意に二人きりになるようなことはしてはいけませんよ。たとえ関係がなくとも、関係を主張されることもあります。いいえ、そうじゃなかったとしても噂になってしまえば、女性側が困ることになるのですから。縁談は望めなくなるでしょう。かといって殿下の立場では責任を取ると簡単に結婚もできません」
え?
あれ?
女性と二人きり……?
「万が一、女性と二人きりで一夜を明かすようなことがあれば、責任を取って結婚、そうではなくても一生生活の面倒を見るかよい縁談を世話するかしてあげなければなりませんし、どちらにしても王室とのつながりを持つことができるようになりますから。睡眠薬でも盛られてうっかり一夜を共にするようなことがないように。素人には手を出さないようにくれぐれも」




