動く肉まん
「そうか。リツは何も知らないんだもんな。いや。いい。そうだ……あー、まぁ、その、連絡用の指輪……うん、そういうことだと思ってくれ……ふ、その、深い意味はないからな?」
深い意味?いえ、そうですね。指輪は日本では男性から女性に渡すとなると特別なアイテムになります。
「石を5回こすれば見えなくなる。悪いやつらに目を付けられないように見えなくしておけ。逆に困ったことがあれば、もう一度5回こすれば石が見えるようになる。見えている状態で、さらに石を3回なでれば俺に声が届く」
すごい。本当に魔法の指輪だ。見えなくすることもできるなんて。……確かに貴金属身に着けているとそれだけで危険度増しますもんね。
「ギルドに言って、総ギルド長がいなければ、対応した職員に俺の名前を出せ。それでも話を聞いてくれないようならその指輪を見せればなんとかなる」
指輪から聞こえてくる声は、直接聞くグレイルさんの声よりも体の芯に響いて聞こえる。ヘッドフォンで聞くと耳元でささやかれているような気分になるのに似ているだろうか。
「じゃあ、またな、リツ」
指輪に意識を取られていたので顔を上げた時にはすでにグレイルさんの姿は見えなくなっていた。
もしかしたら指輪を通じて会話をしながらすでに移動を始めていたのかもしれない。
「あ!魔石入りの巾着……おいて行ってしまいましたよ……」
このサイズは自分でパンにもできないので、荷物が増えるという結果になるのですが……。
グレイルさんが立ち去ってから、貰った生肉の下処理を始めます。
干し肉の作り方は、まずは塩水に数時間付け込むんですよね。そのあと味付けしてから2~3日風通しの良い日陰に干せば出来上がるんです。
「塩」
「塩」
「塩」
塩水を作るのに、一つまみの塩しか出てこないので繰り返し米粒魔石に呪文を唱えます。
水も出して、濃いめの塩水を作り肉を浸します。
……そういえば、塩水につけると肉の臭みが抜けるってどこかで見た気が……。3枚肉はあります。1枚は試しに食べてみましょうか?残りの2枚は干し肉にして……。臭みが取れればラッキーです。
それから、ずいぶん米粒魔石を使ってしまったので、拾い集めることにしました。
塩水に漬けている間に拾いましょう。
町に近い場所にはあまり落ちていないんです。魔物があまり出ないのでしょうか?
ちらりと森に視線を移します。
あまり奥に行かなければ大丈夫かな?
荷物を道から見えないように低木の後ろに、隠しておいてから、森の中に足を踏み入れます。
あまり奥まで行かず、道が見える場所なら大丈夫ですよね?
「あ!ありました!」
米粒魔石発見です。生い茂る木で日陰になっている場所にぽこぽこ落ちています。
拾おうと手を伸ばした瞬間、肉まんが飛びだしてきました。
「ひゃっ」
驚いてしりもちをつきます。
「動く、肉まん……」
いえ、あんまんかもしれません。って、よく見ると、大きさも形も肉まんですが、色が白は白でも透明感があります。
白いゼリーを透明な薄いゼリーでくるんだような色合い……揺れ方……。
やっと、グレイルさんが立ち去ってくれた……長かった(´・ω・`)




