いや、それはちょっと
祝福を受けられないと魔石を食べ物に変えられない……。食べるものがなくなった世界を想像するとぞっとします。
ん?
あれ?
魔石を食べ物に変えられない……って、普通の世界ではないですか?
「あ、でも、祝福を受けられなくても、本物を食べれば問題ないですよね!よく考えたら私の住んでいた世界では魔石はなかったので、別に困りませんね……」
ぽんっと手を打ちます。
「は?本物を食べる?いや、それが簡単にできるわけないだろう」
「いえ、簡単ではありませんが、親の世代が生きている間に……20年30年もあればみんな麦を育てたり家畜を狩ったりできるんじゃないでしょうか?桃栗三年柿八年っていいますし、実がなるまで時間がかかる果物も10年もあれば収穫できるようになりますよね?川や海の水が毒だったり、森も山もすべて汚染されていてそこで成長する植物がすべて毒とかなら別ですけど……」
グレイルさんが首を横に振りました。
「いや、毒のものは多い。だからこそ、安全な複製品を食べている。知らずに食べれば危険なものが多いからだ。だが、すべてが毒ではない。兵の訓練で、いくつか、いざというときに食べられるものを教わったからな……。そうか……そのいざというときに食べられるものの知識を書き留め広めておく……教会に何かあった時に国ができるのはそれか……10年20年あればなんとかなる……か……確かにそうかもしれん……」
いざというときに食べられるもの……!
「グレイルさん、あの、いざというときに食べられる物って、何を教えてもらったんですか?」
森の中で私にも取れるなら、食糧事情が改善します!
ワクワクして返事を待っていると、グレイルさんの返事に涙が流れそうになりました。
「兎、猪、鹿、熊だな。とらえて肉を食えと。血抜きをしてから肉にしろと。だが血は捨てずに飲めと。内臓は危険だから捨てろと習ったな」
……肉、無理です。無理です。無理でした……。
私には無理ですが、でも兎とか鹿とかなら、魔物を飼育していたくらいですから食料用に飼育して増やしたりはできるんじゃないでしょうか。猪や熊は狂暴そうですからちょっと難しいかもしれませんが……。
「あとは木の実だ。あーっと、ちょっと待て、実際に食べたことがあるから、出そう」
ころりんと、グレイルさんの手の平に出てきたのは……クルミでした。
「ちょっと待てよ、これは中身が食べられるんだ」
グレイルさんが剣の柄でガツっとクルミの殻を割って中身をくれました。
……これ、自分で見つけても殻を割れる自信がないです……。食べられる中身だけで出てこないんですね……。
そういえば、うまいんだ棒とかもパッケージごと出てきていましたから、そういうものなのかもしれません。売っている単位というか手に入る単位で……ということなのですね。
「見た目が不気味だが味は悪くない」
「え?見た目が不気味?」
クルミはこんなものでしょう?別に不思議でもなんでもないですけども。
「しわしわで、動物の臓物みたいだろう?」
……。言わなくていいことを言いましたね。
思わず顔をしかめると、グレイルさんがハッと口を押えた。
「す、すまん。いや、見たことなんかないよな。忘れてくれ」
考えたらだめなやつですよ。動物の臓物……形さえなければ美味しいんですよ。もつ鍋とか好きです。
グレイルさーん言わなくていい話よ?ね?




