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召喚、そして……

「成功だ!」

「勇者様方を召喚することに成功したぞ!」

「やりましたな姫様、聖女様!」

「えぇ……っ、成功してよかった……」

「本当に、成功したのですね……」

「本当に……よくやって下さった」


何人もの人々が喜びあう声で、遠退いていた意識が戻ってきた。

薄く開いた俺の目に一番最初に入ってきたのはーー


「おはよ、しーくん!」

「……!!?」


鈴の顔だった。

ぼやけそうな距離にある鈴の顔。

……?

何かが違う。

その違和感の原因を探すために、じーっと鈴の顔を観察する。

鈴も負けじと見返してきた。


じー……

じー……


「あ、あの~……」


じー……

じー……


「鈴、文月くん。2人の世界に入っているところ悪いんだけど、戻ってきてくれないかしら」


もはや違和感どうこうの問題ではなく、意地で逸らしたくなくなってきた頃、風羽屋から声がかかった。


「あ、ごめんねー」

「悪い、風…は…や」


風羽屋に謝るために、俺から視線を逸らした鈴の横顔を見て、違和感の原因がわかった。


「な、な、な……」

「どした?紫音ちゃん」

「なんだこりゃーーーっ!」





「……ど、どうぞ」


コト……


「あ。ありがとうございます」

「い、いえ」


場所を移動して、ここは応接室。

突然の事に、俺だけでなく全員が混乱していたため、落ち着いて話をするためにここに通された。


いただいた紅茶らしき飲み物を飲みながら、周りの人の服装を観察する。


今飲み物を出してくれたのは、修道服とメイド服を掛け合わせたような服装の女性だった。

黒と白を基調にしており、袖はフンワリと広がり、白のフリルがチラリと見える。

スカートは膝が少し見える程度の長さで、白いストッキングを履いていた。

襟とエプロン部分に、金の十字架の刺繍が施されている。

何というか……少しコスプレっぽく見えるな。


今、円卓を囲って座っている。

俺たちの中で一番右端に座っているのが俺。

そこから左回りに、鈴、永井、鏡宮、風羽屋、姫野、そして藤下だ。

先程のコスプレっぽい服装の女性達は、静かに壁際に控えており、席についているのは俺たちの他に3人のみ。


俺の右隣に座っているのが、金髪のとても綺麗な女性だ。

10代後半から20代前半ぐらいに見える。

女性は、同じく黒と白を基調に作られ、所々に金の刺繍が施された修道服を着ていた。

疲れているのか顔色が悪いが、翡翠色の瞳が真っ直ぐに俺たちを見つめていた。


藤下の左隣に座っているのが、露草色の髪と瞳を持つ女性だった。

10代後半だろう。

こちらも少し顔色が悪い。

白を基調に納戸色も使われた、神秘的なドレスを着ている。

薄い透けた布を、ドレスの上から羽織るようにして身に纏っていた。


3人目は、そんな2人の女性に挟まれて座る男性だった。

60代後半だと思う。

金を基調にした一際豪華な祭服を着ており、服装にふさわしい威厳ある顔付きをしている。

よく伸びた髭を撫でながら、こちらを1人1人じっくりと見ていた。

その男性が口を開く。


「……さて、皆様落ち着かれましたかな?」

「あ、はい」


俺たちを代表して、鏡宮が答えた。


「それは良かった。それでは改めまして、私はこの聖教会で教皇をしております、ラディウス・コルトシーナと申します。以後よろしくお願い致します」


ラディウスさんは、そこで初めて微笑を見せた。

……?

何かめっちゃ鳥肌がたったんだけど!

何だろ……笑顔が純粋じゃないっていうか、黒いものをたくさん抱えてる感じっていうか……。

え……何だこの人、怖い。

そんな俺の心中などいざ知らず、ラディウスさんは両サイドの女性達を示した。


「そしてこの者達は……」

「初めまして。セイナーレ・ルアラと申します。恥ずかしながら、この教会の『聖女』をさせていただいておりまして……困ったことがあれば何でも相談して下さいね。出来る限り力にならせていただきます」

「私は、この国……エスケーティアの第3皇女、ディーナ・ディア・エスケーティアと申します。以後よろしくお願いしますわ」


聖女に皇女って……すげぇ豪華な人員だな……。


同じように俺たちも1人ずつ紹介をし、早速本題に入った。

ラディウスさんの説明によると、俺たちは、何とも王道的で身勝手な理由で召喚されたようだった。


ーーこの世界はレジールと呼ばれており、種族は大きく4種に分けれる。

人族、魔人族、亜人族、そして何処にも属さない魔物……魔物族?である。

人族と魔人族は長年ずっと戦争をし続けてきた。

魔人族は各自の力が強いが、数が圧倒的に少ないうえ、上下関係に厳しいものの人間と違って国を作ることはなかった。

その好条件の下、ついに人族は魔人族を、火山の麓と過酷な大陸の2ヶ所に追い込むことに成功した。


しかし、最近になって魔人族は一気に力をつけてきた。

何と魔人族に、強い力と協調性を持つ個体が何体も生まれたというのだ。

彼らは、特に力の強い1体の魔人を慕い、その魔人を中心として大きな集まりをつくっているらしい。

風の噂では、その魔人は『魔王』と呼ばれているのだとか……。


「このままでは人族は魔人族に滅ぼされてしまいます。対抗策が浮かばず我々が困り果ててしまったとき、聖女様が神から神託を授かったのです!」

「神託……?」

「そうです。我々聖教会の唯一神にして、この世界の創造神でもあるヴァミア様はお考えになられたのでしょう。我々を魔人族から救う術を!それを聖女様に神託という形で授けられたのです。そう……あなた方を召喚する、という神託を」


恍惚とした表情で語り続けるラディウスさん。

さっき感じた恐怖心はこれか、と1人納得しているところで、誰よりこの世界の現状について真剣に聞いていた鏡宮が手をあげた。


「1つ良いですか?」

「はい、何なりと」

「それじゃ……もしかして、俺たちへの頼みって、その『魔王』とか呼ばれる魔人を倒してほしい、ってことでしょうか?」

「はい、そうです。流石はヴァミア様がお選びになった方だけあります。この状況で冷静に判断できる能力、とても感服致しました」

「いや、そんな誉められるようなことはしてないんですけど……」


少しの言葉を誉めちぎられ、鏡宮は少し居心地悪そうにしている。

鏡宮が居心地悪そうにしているところ、始めてみたかも。

ラディウスさんすげぇ!


「ねぇ。その魔王を倒したら、私たち帰れるのぉ?」


俺が何気に感動していると、泣きそうな声が部屋に響いた。

声の主はもちろん、俺たちの中で一番の動揺をみせていた姫野だった。

不安げに揺れる瞳で、一縷の望みをかけて問う声。

それに対してラディウスさん達は、気まずそうに視線をそらした。

それに目敏く気が付いた風羽屋が、顔を真っ青に染めながら呟いた。


「まさか……帰れないなんて言わないわよね……?」


すがるような声に、ラディウスさん達はさらに気まずそうにうつむく。

ついに泣き始めた姫野を、藤下が必死に宥めている。

珍しく風羽屋が悲しそうに唇を噛みながら泣くのをこらえ、慌てた様子で鏡宮が声をかけていた。

意外と動揺してないのが永井だった。

いつもと変わらない困った笑顔で、3人を見つめている。

それらを横目で見ながら、俺も何気にショックを受けていた。


帰れないって……


あっちに残してきた家族のことが唯一の気がかりだった。

今どうしてるんだろ。

今週末には旅行に行こうなんて話してたのに……。

母さん、父さん、陽翔……ミオ。

それぞれの顔を思い出して、少し鼻頭が熱くなる。

それを感じながら、沸々と怒りが沸き上がってきた。


本当に勝手すぎねぇ?

呼び出しておいて帰れないとか。

ふざけんなよ。

そんで命かけて戦ってほしいってことだろ?

何でこんな奴等に協力する必要あんの?

魔王だか何だか知らないけど、俺ら関係ないじゃん。

この世界の戦いに巻き込むなよ。


俯いて、握りしめた自分の手を睨み付けていると、隣からその手にもう1つ手が重なった。


「しーくん」


鈴だ。

珍しく真剣な顔で、俺のことをジッと見つめてくる。

鈴は、永井と同様この状況で表情1つ動かさなかった。

そんな鈴の顔を見て、ほの暗い感情が胸を掠める。

その感情に任せて、せり上がってきた言葉をそのまま吐き出した。


「……何で、お前はそんな平然としてられるんだよ」


唸るような声が自分の声だと気付いて、ハッとなった。

……ヤバイ。

かなり八つ当たりみたいになってしまった。

てゆうか完全に八つ当たりじゃん!


「っ、ごめーー」

「鈴は、しーくんがいるから平気。しーくんさえ居れば、どんな場所でも、どんな状況でも怖くなんてない」


謝ろうと口を開くと、それに被せるように鈴が言葉を発した。

その言葉に驚いてる間に、鈴が続ける。


「でも、しーくんは違うよね?お父さんやお母さん、陽翔君、ミオちゃんのことだって心配だよね。しーくんの気が晴れるなら、いくらでも鈴に当たってくれていいよ。何だって言ってくれていい。鈴は、全部受け止めて見せるから」


……俺は、鈴にずいぶんと想われていたらしい。

多分、他の人が聞いたら重いと言いそうな言葉でも、今の俺にはとても心強くて嬉しい言葉だった。

そもそも俺は鈴のことが好きだ。

好きな子から、この状況でこんな風に言われたらどう思う?

俺の場合、嬉しいとかそんなレベルで言い表せるものじゃなかった。


重ねていた手をひっくり返して、ぎゅっと繋ぐ。

びっくりした表情をする鈴の顔を見つめ返した。


「……ごめん、鈴。さっきのはただの八つ当たりだった」

「さっきも言ったじゃん。しーくんの気が晴れるなら、いくらでも言ってくれて良いよ」

「俺がイヤ。傷つけるの分かってて言いたくない」


そう言うと、鈴は「はわわわわ……鈴、しーくんに大切にされてる……!」とか言いながら、頬を赤く染めた。


俺達の周りだけピンクの空気が流れそうになったところで、「ごほんっ」とわざとらしい咳の音に、それはかき消された。

音がした方を向くと、ラディウスさんたちが気まずそうにこっちを見ていた。

ついでに鏡宮たちの方にも視線を向けると、鏡宮が血の涙を流しそうな表情で睨み付けてきていた。

ちょっと怖かったです。


「皆様、1つ勘違いをなさっておられるようなので訂正させていただきます」

「……勘違い?」


鏡宮の不思議そうな声に、ラディウスさんは大袈裟にも見える仕草で頷いた。


「はい。……皆様がお帰りになる方法は、確かに現時点では詳しくわかっておりません。しかし、無いというわけではないのです」

「どういう、こと……?」


姫野の、少し期待がこもった声に、ラディウスさんがニッコリと微笑む。


「聖女に降った神託には続きがございまして。全てが終わった暁には、狂った時空を元に戻さんーーと」

「狂った時空を……」

「元に戻さん……」


風早屋と姫野が復唱する。

それって……普通に考えれば、元の世界に戻れるってことだよね。


「つまり、俺達VS魔王とかいう奴の戦いが終わったら帰ることができる……かもしれないってことですよね」


鏡宮の確認する言葉に、ラディウスさんは笑みを深める。


「恐らくは」

「……」


その返事に全員が黙り込んだ。

元の世界には当然帰りたい、けど。 

帰るためには戦わないといけない。


「……今すぐに決めろとは申しません。夕食まで時間がございますし、一度部屋にご案内させましょう。夕食の準備が整いましたらまたお呼びします。それまでに決めていただければ……。突然のこと、本当に申し訳ありません」


心底申し訳なさそうに言うラディウスさんに、鏡宮が「いや……」と呟く。


「俺は……戦います」


その言葉に風早屋が顔を青くさせた。


「勇輝……?」

「そりゃ……戦いなんて生まれて初めてだけど……戦わないと帰れない、戦えば帰れるかもしれない。『かもしれない』でも、今はすがるしかないだろ?」


鏡宮は、俺達と1人1人顔を合わせる。

青い顔で俯いた風早屋は、数秒して顔をあげた。


「仕方……ないわね」

「郁……!」

「戦いなんて……したことないしぃ、怖い……けどぉ」

「行動しねーと、何も始まんねーよな」

「姫野……藤下……!」

「ぼ、僕も……覚悟、決めるよ!」

「永井……!」


え……何この空気。

俺達以外の全員が鏡宮の言葉に続き、賛成しないといけない空気が出来てしまっていた。

頬をひきつらせながら鈴を見る。

と、その鈴はラディウスさんを睨み付けていた。

パッチリおめめが三白眼を作っている。

顔立ちが整っている分、なおさら迫力があった。


「す、鈴……?」


俺が恐る恐る声をかけると、いつも通りの表情に戻る。

そして、ニコッと笑って言った。


「戦い、しよっか」

「は……、は!?」


思わず叫んでしまった俺に、鈴は顔を寄せてきた。

耳を傾けると、そっと耳打ちをしてくる。


「あのねー。ラディウスとかいう奴が、何かおかしんだよねー」

「ラディウスさんが……?」


そりゃ笑顔は怖いけど……。

特別何かをしそうな人には見えない。


「わかんない。けど、虎穴に入らずんば、だよね」


笑顔のまま圧力をかけてくる鈴に、諦めて戦うことを選ぶほか選択肢は存在しなかった。


「……わかった」


なんとかそれだけ絞り出して、ラディウスさんの方へ視線を向けた。

ラディウスさん達は、目を見開いて俺達の会話を聞いていた。

 

「本当に……よろしいのですか?」


ずっと黙っていたセイナーレさんが、思わずといった様子で口を挟む。


「……はい。自分の世界に帰りたいのもありますけど……困ってるんですよね?助け合いですよ」


こっちに来てから量が減っていたキラキラオーラを全開にして笑う鏡宮に、女性2人が頬を染める。


「ありがとうございます勇者方様」


目頭を押さえながらお礼を言うラディウスさん。

それにチッと隣から舌打ちが聞こえた。

え、鈴さん……?

バッとそっちを向くとニコッと返される。


「そ、それで……」


歯切れの悪い声に、全員の視線が集まる。

そこには、少し期待の混ざったような表情で頬を紅潮させた鏡宮がいた。


「どうしました?」

「俺達って勇者なんですよね?」

「はい。もちろんです」

「それなら……その…」


珍しくモゴモゴしている鏡宮が言いたいことが分かった。

ようするに……


「何か特別な能力がありますか?ということが聞きたいのね」

「そう!それなんだ!」


そうゆうことだよな。

溜め息混じりに次がれた言葉に、パッと笑顔になる鏡宮。

それに対してもう一度溜め息をはく風早屋。


「郁ちゃん、ごめん……。私も気になるよぉ」

「俺も!こんな姿にされたんだし、何かチート能力があっても良くね?」

「ぼ、僕も気になるな」


すっかり泣き止んだ姫野と、それに安堵した表情の藤下、遠慮ぎみに永井も頷く。


「私も気になる!しーくんがこんなにかわいい姿になっただけでサービスだけど、戦うなら何か能力なきゃ!」

「……戦うとなったら必要なんじゃね?」


そればっかりは本心なので同意する。

だいたい魔王だとか勇者召喚だとかやってる世界で、何の訓練もしてない俺達が普通に戦うなんて無理だから!

目を輝かす俺達に、風早屋がまた溜め息をつきながらボソリと呟く。


「まぁ、私もそれは気になってたけど……」


風早屋は素直じゃないらしい。

そんな俺達にラディウスさんが大きく頷く。

セイナーレさんと、ウトウトしていたディーナさんが微笑ましそうな表情になった。


「可愛らしいですわよ、皆様♪」

「はい。とても可愛いです!」


先程の鈴はともかく、綺麗な2人の女性にそう言われる、藤下が「こんな姿」と形容した俺達の姿ーー


「その姿は、悪しからずご了承ください。子どもの姿(・・・・・)の方が成長が早いゆえですので」


そう、何を隠そう。

今の俺達は召喚された影響で、子どもの姿になっていた。

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