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 暗闇に浮かび上がるその姿は、やはりホラーである。


 電灯の明かりがあるとはいえ、暗い。


 彼が私の方を見た瞬間、空気が凍ったように寒気が襲ってきた。


 冷たい嫌な空気を感じた私は、一歩だけ後ずさりをした。


 

 猫背のまま、私をゆっくりと凝視するその姿は、フクロウのように見えてきた。


 人には見えない。動物のように見えた。



 にらみ合いは続くが、特段私に対して何かをしてくるという雰囲気はなかった。気配の消し方がうまいだけなのかもしれないが。


 私は、一歩一歩後ずさりを繰り返した。その姿は、森の中で出会ったくまから逃げる姿に似ていたに違いない。



 しかし、そう簡単にいかなかった。(予想はしていたが)



 まばたきをした瞬間、目の前の男の顔が、私の方に物凄いスピードで近づいてきていた。


 私は、思わずしゃがみこんで尻餅をついた。


 そして私の頭上を、男の顔が通り過ぎていった。


「首が……伸びている……」


 私は、ポツリとつぶやいた。


 男の顔が私の目の前にいきなり近づいてきたカラクリは、首が伸びていたようだ。

 

 


 男は、伸びた首を元に戻す。


 しかし、この元に戻す方法がなかなかグロテスクであった。


 伸びた首は、当然ながら、ピンと張り詰めるのではなく、ある程度の長さにいくと地面に落ちてしまうようだった。


 (私は、たまたま首の射線上からは、尻餅をついた際に逃げたため、頭上から落下はしてこなかった) 


 地面に落ちた顔は、釣り糸にくくりつけられたルアーを巻き上げるかのように、コンクリートを弾むようにしてもとの位置に戻っていった。


 男の顔は傷だらけになっていった。


 普通の人間だったら、すぐには治らないだろう。むしろ、一生傷として残ってしまうような傷跡、そして顔面は血だらけであった。


 男は、私がいる方向とは逆側を一瞬向いた。


 そして、また勢い良く私の方に首だけ動かして、顔をこちらに向けてきた。


 すると、驚いたことに顔面の傷はきれいになくなっていた。


 まるで、白ヒゲのおやじが、顔面を豪速球で投げつけて、顔だけ取り替えるシステムの如くきれいに治っていたのだ。


 しかし、私はこれ以上は驚かなかった。理由は、簡単である。目の前の人物は、【人】ではないと判断したからだ。


 口の中にたまった余分な唾液を、ゴクリと飲んだ。私の中で、何かが決まった瞬間だった。




 私は、ズボンの右ポケットに右手を突っ込んだ。


 左手は、出したままで左半身にぶら下がっている。



 相変わらず、男はこちらを見ている。さきほどと違うのは、時折、肩をポキポキと鳴らす動作が見受けられることである。


 私は、右手からスマートフォンを取り出しながら、ゆっくりと男の距離を詰めていった。


 そして、暗闇で光るスマートフォンの液晶画面の左下を、画面を見ずに押して、アプリを起動させた。


 アプリの心地のよい起動音が、まばらな街灯だけの暗い住宅街に響いた。だいぶ、似つかわしくない音であった。


 今度は、ズボンの左ポケットに私は左手を入れた。


 右手は、光り輝くスマートフォンを握りながら、右半身にぶら下がっている。




 男が私を見る表情が一瞬にして変わった。

 

 たぶん彼の間合いに私が入ったからであろう。


 私は、スマートフォンの横に持ち、背面を男に向け、画面で彼の姿を見た。


 液晶画面には男の姿が映っている。


 液晶画面には、白地のグリッド線も表示されている。


 左から右に、緑色の波のようなものが画面に写った。


 すると、男の姿が一瞬白くなる。


 そして、また左から右に緑色の波のようなものが液晶に写った。


 これが繰り返されているうちに、男の顔面に赤い点のようなものが浮かび上がった。


 ちょうど眉間のあたりだろうか。赤い点が表示された。


 


 私は、スマートフォンを右ポケットにしまった。 


 そして、ゆっくりと再び歩き始め、彼に近づく。



 私は、深呼吸をした。


 額には、うっすら汗をかいているような気がした。脇の下もなんだか違和感を感じる。


 ああ、そうか。


 緊張しているのだ。私は緊張をしている。恐怖ではない。緊張しているのだ。




 自問自答を繰り返していたが、男は私の気持ちなど全く考えはしない。


 事態は急に動いた。


 男の顔が、弾丸のように私に向かって飛んできた。


 私は、ズボンの左ポケットから左手を取り出し、飛んでくる顔の眉間めがけて左手を突き出した。 

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