9.魔物討伐再挑戦
「リーアムにキーヴァよ。君たちはさっきまでリーアムが剣を振るってキーヴァは叫ぶだけだったが、次からはキーヴァの魔法に任せてみてはどうだ。奴を見つけた際、戦闘は免れない。その時にただリーアムが剣を振るうだけでは到底奴には敵わん。キーヴァの魔法が要となるだろう。だからその状態でも満足に魔法が扱えるよう訓練する必要がある」
トゥタカルタさんが兄さんに剣を差し出すと、兄さんは無言でそれを受け取った。柄から兄さんの無骨な手の感覚が伝わってくる。どことなく安心感を覚えるのは、私が兄さんのことをよく知っているからか、それとも兄さんにずっと使われてきた〝剣〟自身の記憶か。
「まずはキーヴァの魔法だけで倒してみろ。キーヴァが己の魔力を調整できるようになったら、剣を振りながら魔法を使う練習をするといい。幸か不幸かおあつらえ向きの弱い魔物が沢山いるからな。日が暮れるころには見違えるほど上達するのではないか?」
「……」
兄さんは何か言いたげな視線をトゥタカルタさんに寄こしていたが、少し逡巡した後に私と目を合わせた。
「お前は、それで大丈夫か?」
心配そうな兄さんの顔と声が降りかかる。振り回されるたびに叫んでいたからそれを心配しているのか、それとも炎を出してパニックになったから、またそうなるのではないかと案じているのか。兄さんの胸中は計り知れないが、私が心配ばかりさせるようなことをしでかしたのは間違いない。でも私だってこのままでいいとは思っていない。身体を取り戻すまでの間、この状況は続くのだ。振り回されることや、振り回されながら魔法を使うことに慣れなければいけない。魔物に刺さったときの感か
〝うぶぇえええええええええええ〟
「おいこいつ変な声出し始めたぞ! 絶対大丈夫じゃねぇぞ!」
「君が何か変なことをしたんじゃないのか⁉ いい加減にしてくれよまったく!」
〝あああああ違うの違うの! ちょっとその、思い出しゲロっていうか〟
「「思い出しゲロって何だ⁉」」
驚きのあまり、二人の声が重なった。あはは。仲良いな~。あはは……。何でこんなこと言っちゃったんだろう……。
〝変な心配させちゃってごめん。でも、うん。今はまだ大丈夫じゃないかもしれないけど、でも、大丈夫にならないといけないもんね。私、頑張るよ、兄さん!〟
「ほ、本当に大丈夫か?」
私が変な声を出したせいで、兄さんは心配顔……というよりも疑心暗鬼に満ちた顔をしている。これは確実に自分のせいなので、私はしっかり反省した。
〝うん。あの、さっきのは気にしないで。あれも頑張って慣れるから〟
あれって何だよ、とすかさず兄さんからツッコミが入った。
〝魔物を斬る時の感覚が、どうしても、ね。でも、それも魔法でどうにかできないか試行錯誤してみるから、とにかくまずはやってみよう?〟
「……ああ。お前がそこまで言うなら」
〝うん!〟
兄さんは頷くと、剣を鞘に納めた。
「よし。話はついたな。では討伐再開だ!」
トゥタカルタさんも満足そうに頷き、私たちは再度魔物討伐を始めた。
○
魔物を探しながら森の中を歩き回っていると、小型の魔物の群れを発見した。リスに似たその魔物の群れは食事の最中らしい。こちらに見向きもせず、頬袋をぱんぱんに膨らませながら何かを熱心に食べている。そんな魔物達の中心にあるのは……。
〝うっ……〟
「こりゃひでぇな」
ズタズタになった毛皮が見えた時点で、私の脳はそれ以上考えることを拒否した。
「恐らくは何かしらの原因により小型の魔物の数が増加し、それに伴い小型の魔物の餌となるものが減少したのだろうな。魔物は普通の動物とは異なるから、本来肉食でなくとも餌が無くなれば共食いを――」
〝うわあああああそれ以上はやめてくださいトゥタカルタさん!〟
私が慌てて止めると、トゥタカルタさんは軽い調子で「すまんすまん」と謝った。
「何はともあれ、キーヴァよ。この群れを一撃で倒してみろ。何の魔法を使っても構わないが、一撃で、全滅させるんだ。規模が小さすぎて何匹か残ったり、逆に大きすぎて周囲にいらぬ被害を起こしたりすることのないよう気をつけろ」
〝あ……は、はい!〟
(一撃で、全滅)
私が魔法を使いやすいように、兄さんが剣を掲げる。眼前の魔物は全部で七匹。この七匹を一撃で倒せるだけの魔力を使う。普段であれば少し多めに使うところだが、今は自分で思っているよりも強い魔力が出やすい。ならば少し絞るくらいが丁度いいだろう。
私は目の前の魔物達が雷に打たれるところを想像しながら呪文を唱えた。
〝雷よ!〟
刀身が光り、魔物目掛けて小さな雷が落ちる。あまりにも一瞬の出来事で魔物達は逃げることすら叶わず黒焦げになった。今の私には嗅覚が無いため分からなかったが、兄さんが唸り声を上げた程度には嫌な焦げ臭さも漂っていた。
「ふむ。魔物は全滅した。が、焼け焦げている範囲が少し広いな」
〝あ、本当だ〟
冷静なトゥタカルタさんの言葉を聞いて地面に目を向ければ、群れよりも一回り大きいくらいの焦げ跡に気がついた。
(今のでもまだ強すぎたんだ)
魔法石に入った状態での魔力コントロールがこんなにも難しいとは。先駆者がいないだけに手探りでコツを掴んでいくしかない。だが……。
「キーヴァ、しばらくは俺が今の様に魔物を全滅させろだとか、一匹だけ倒せだとか指示を出す。君はその指示通りに魔物を倒すよう努力しろ。大丈夫だ。何度もやっていけば必ず成功できるようになる」
〝はい! 頑張ります!〟
先駆者はいないが、こうして指導してくれる人がいるのは心強い。トゥタカルタさんの言い方はキツく感じるところもあるが、励ましの言葉もくれるのは嬉しかった。
「……俺、ただ剣を持ってるだけなら必要なくねぇか? お前が持ってろよ」
できれば兄さんからの応援の言葉も欲しかったが、兄さんはお構いなしに剣をトゥタカルタさんに預けようとしてきた。兄さ~ん! これ兄さんの剣だし中に妹が入ってま~す! 他人に簡単に預けようとしないでくださ~い!
流石にトゥタカルタさんもこれには戸惑いを露わにした。
「いや君ね……。自分の剣をそんな理由で他人に渡そうとするんじゃないよ。しかも魔法石の中に入っているのは何だ? 君の妹の魂じゃないか。そんなことを言ったらキーヴァが困るだろう。それにキーヴァが慣れてきたら、次は剣を振り回しながら魔法を使ってもらうんだ。それは君が持っていなさい。ていうか手ぶらでどうする気だよ」
「こう、拳で……」
自信の無さそうな声で言ったら意味ないよ兄さん。
そんなだからトゥタカルタさんも呆れ顔で言い返した。
「魔物が殴る蹴るで対処できる存在じゃないのは勇者なら……いや、勇者でなくとも知っているだろう。拳だとか言う時点で剣以外の武器を持っていないんだな? 大人しく俺の指示に従っていろ」
「……分かった」
不服そうな兄さんの返事をトゥタカルタさんは聞き流し、次に行くぞと言ってさっさと歩き出してしまった。
その後もトゥタカルタさんの指示に従いながら魔物を魔法で倒していくと、段々と力の加減が分かってきた。兄さんが剣を振るうのに合わせて魔法を使う練習もした。初めこそは目が回るせいで物理的に飛び火させてしまいトゥタカルタさんが慌てて消火したり、間違えて洪水を起こしそうになったりした。しかしこちらも慣れてくれば目を回すことなく魔法を繰り出せるようになっていった。
「はぁッ!」
〝水!〟
火の粉を吐く魔物に対し、水を纏わせた剣を振るう。今度は洪水を起こすことなく適切な量の水が出て、魔物が出す火を消しつつ両断する。魔物を斬る時の不快感も、水のお陰で感じることはない。
「うむ! だいぶ上達してきたな! 飲み込みが早い!」
後ろで見ていたトゥタカルタさんが手を鳴らした。
「二人とも、朝の己と今の己の違いは自分でも分かるだろう。見違えたぞ!」
〝はい! 色々な方法で試したお陰で、だいぶこの姿での魔力の扱い方が分かってきました!〟
私が答えると、兄さんも珍しく素直に答えた。
「ああ。魔法の発動の速さと強さに戸惑いはしたが、慣れさえすれば今までよりも戦いやすい」
「それはよかった。この調子で技の精度を上げていけば、突然奴と戦闘することになっても互角に戦えるだろう」
うむうむ、と満足そうに頷くトゥタカルタさん。
「だいぶ日も暮れてきたし、今日はこの辺りで切り上げるとしよう。依頼はまだ半分以上残っているが、この調子なら残りは全て明日一日で終わる。さあ、美味い飯を食いに行くぞ!」




