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白銀のソロディウス  作者: みーこ


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31/31

31.新たなる旅路

 それからの数日間、私とディアミドさんは教会で療養した。ソフィーさんが作る優しい味の料理を食べ、日に何度か神父様の祈りの言葉を聞いた。金勇者が教会にいる、と知ったアンバラスの街の人々が土産を持って訪れることもあった。それが食べ物の場合は病人が食べられるものかどうかソフィーさんが選別し、ディアミドさんが食べるのは叶わなかったものも幾つかある。

 兄さんはよく私の傍にいてくれたけど、そうでない時は神父様と稽古をつけていた。初めてここを訪れた時に神父様が言っていた〝修練〟というのはこのことらしい。戦神ウルキヌスを祀る教会らしく、神父様も武闘派のようだ。

 トゥタカルタさんは、姿を消しては大きな獲物を持ち帰ってきた。誰も何も聞かなかったが、獲物というのは大型の魔物のことだろう。「減らしておいてやったぜ」とトゥタカルタさんが兄さんに言っていたのを私は耳にした。


 こうして私は十分に元気になり、弱りきっていたディアミドさんも支障なく歩き回れる程には回復した。ただし、まだ剣を振るうには力が足りないようだったし、本人的にも思うところが色々あるようで、練習用の木の棒も眺めるだけで触ろうとはしなかった。


「お世話になりました、神父様」

「元気になられてよかった。もし、またこの近くに立ち寄ることがありましたら、是非顔を見せに来て下さい。勇者リーアム、その時には銀の勇者証をお見せくださいね」

「う……。まぁ、約束したからな……」


 もう外を出歩いても構わないだろう、という看病してくれた神父様のお墨付きをもらい、私たちはまた二人で旅に出ることにした。


「トゥタカルタさんとソフィーさんは、まだここに残るんですか?」

「ああ。オレ様はもうちょっとあの馬鹿を見張っておきたいからな。お前があいつの記憶の中で見たっていう、黒いローブの野郎のことも気になるし」


 私はあの空間の中でのことを、トゥタカルタさんに話していた。ローブの人物のせいでトゥタカルタさんは狙われたのだから、話しておかなければならないと感じたのだ。


「神父様お一人では大変でしょうから、私もディアミドさんが回復されるまでお手伝いするつもりです。それに、ほら、私たちが出会ったスマル村は勇者がいなくて困っていたでしょう? ディアミドさんに一からやり直したいという気持ちが存在するのであれば、連れていこうと思っているんです。きっと村の皆さんも喜ぶでしょうから」

「いいですね、それ! 絶対皆喜びますよ!」


 別れを惜しむように長話をしていると、ぎぃ、と扉の開く音が聴こえた。


「リ、リーアム……キーヴァ……」

「……ディアミドさん」


 現れたのは、別室で寝ていたはずのディアミドさんだった。彼は私たちの姿を認めると、気まずそうに顔を背けた。


「もう……行くんだな」

「ああ」


 兄さんが短く返事をする。


「君たちには、沢山迷惑をかけた。申し訳ない。だが……君たちのお陰で、俺は目が覚めた。この教会を訪れる沢山の人が俺を案じる姿を見て、何も最強じゃなくても、俺を見てくれる人はいるんだと知ることができた。これからは、最強に拘らず、困っている人々を地道に助けていこうと思う。だから、ソフィー嬢……スマル村までの、道案内を頼む」

「ええ。お任せください」


 ソフィーさんがにこやかに頷く。


「……キーヴァ」

「は、はい。何でしょう」

「君に振られてしまったのはとても残念だが……そうした自分の執着心とも折り合いをつけ、また会う機会があれば、その時は純粋な気持ちで君と会話できたら、と思う」

「はい。その時はまた、よろしくお願いします」

「リーアム。君は、努力次第でもっと強くなれる。だが、俺のように最強になろうとは思うな」

「思ったこと無ぇよ」

「だろうな。君はそういう奴だ。短い間だったが、君たちと過ごした時間は楽しかった。ありがとう」


 弱々しくも、笑顔を向けるディアミドさん。兄さんは照れたように頭を掻いた。


「オレ様には何もナシ、か」

「あ、いや、その……」

「冗談だ。お前の話を聞く機会は沢山ある。ほらほらお前たち、話はもういいだろ。これ以上こいつらを引き留めていたら日が暮れる」

「だな。じゃあな」


 トゥタカルタさんに言われてあっさりと教会を出ていく兄さんを、私は慌てて追いかけた。


「ちょ、ちょっと兄さん、待って⁉ あ、そ、それじゃあ皆さん、ありがとうございました!」


 教会を出ると、意外にも扉の数歩先で兄さんが待っていた。


「もう、挨拶くらいちゃんとしようよ」

「めんどくせぇんだよ……。ほら、行くぞ」

「うん」


 旅を再開する、とは言え食糧や装備品を補充しなければならない。私たちの足はアンバラスへと向けて歩き出す。


「これでやっと元通りだね」

「だな」

「これからどうしようか。旅の準備は絶対として、教会に行って銀の勇者証を発行してもらわなきゃいけないし……あ!」

「どうした?」

「リリアちゃんのお家に行って、美味しい料理食べたい! あと宿屋で兄さんたちが食べた木苺のパイ! あれも食べたい!」

「食いもんばっかかよ……」

「いいでしょ。今まで食べられなかった分を食べたいの!」


 はあ、と兄さんは溜息一つ。


「分かった分かった。あいつらよりも一足先にスマル村に行って、パイだけ食おう」

「リリアちゃん家の料理も!」

「いや、それは……」

「あ! お前! リーアム! それに隣にいるのはキーヴァちゃんか⁉」


 前方から何やら騒がしい声がした。男女二人ずつの四人組。銀勇者バッカス一行だ。兄さんの一際大きな溜息が聞こえた。


「よう、キーヴァちゃん! 大変な目に合ったって聞いたけど、大丈夫だったか? 何か困ってることがあれば、銀勇者たるこの俺、バッカスに何でも相談してぐぇえ⁉」


 私に近づいてきたバッカスさんを、後ろからウォーレンさんが首根っこを掴んで引き留めた。


「今一番の彼女の困り事はお前のその態度だ。すまないな、うちの馬鹿が馬鹿なことを言い出して。初めまして、キーヴァ。俺はウォーレン。この馬鹿のことは知ってるかもしれないが、バッカスだ。これでも一応勇者だが、特別視する必要は一切無い」

「あ、あはは……。初めまして、ウォーレンさん。リーアムの妹のキーヴァです。色々とご心配をおかけしたみたいで、その、ありがとうございます」

「いや、礼を言われるようなことなんて何もしてないよ。でも、元気そうでよかった」

「わ~! キーヴァちゃんだ! 初めまして、キーヴァちゃん! 私リリア! 私ね~、キーヴァちゃんのこと聞いてから、ずっとお友達になりたいと思ってたんだ~! ね、ね、今から私の家に来てよ! ご馳走する……わわ!」

「おっとと……」


 突然リリアちゃんが抱き着いてきたので、私はバランスを崩した。危うく地面に倒れそうになったのを兄さんが支えてくれた。リリアちゃんの方はカリーナさんが腕を掴んで止めていた。


「まったく、無茶しないの。初めまして、キーヴァ。私はカリーナよ。この子……リリアはこうやってなりふり構わず突っ込んでくる時があるけど、基本的には悪い子じゃないの。あなたさえよければ、友達になってあげて」

「はい! 実は私も……その、兄さんから話を聞いて、リリアちゃんとお友達になりたいな~って思ってたんですよ。美味しい料理も気になりますし」

「やった~! じゃあ行こ行こ! 私の家!」


 リリアちゃんが私の腕に自分の腕を絡ませ、ずんずんと街へ歩いていく。


「あ、でも、いいんですか? どこかに行く途中だったんじゃ……」

「大丈夫大丈夫! あそこの教会にキーヴァちゃんたちがいるって話を聞いて、遊びに行くところだったから。でもここで会えたからよかった~!」

「そうだったんですね。ありがとうございます」


 先を歩く私たちに続き、兄さんたちもその後ろで歩き出した。


「あ~あ。キーヴァちゃんと一緒なのはいいけど、お前もついてくるのが残念だぜ、リーアム」

「あ? 俺だってお前と一緒に飯食いてぇわけじゃねぇよ。つーか何でお前は俺たちのことを知ってんだ?」

「だあああもう! 何でお前は忘れちまったんだよ! あの試験のことを! キーヴァちゃんが試験官のケツに火をつけてこっぴどく怒られた時、俺も消火を手伝ってやったろ!」

「……え」

「うああああああああああああああああああああああ⁉」


 私はリリアちゃんの腕を振りほどき、急いでバッカスさんに詰め寄った。


「バ、ババ、バカ、バッカスさん。そういうありもしないことを言うのはどうかと思いますよええ本当に。せ、せっかく……兄さんの記憶から消したのに……」

「……あ!」

(あっ)


 兄さんが声を上げた。まずい。


「そうだ……やっと思い出した。あの時キーヴァが狙いを間違えて、魔物じゃなくて試験官に攻撃したんだ。確かに、言われてみればお前もいたような気がする。あー、教会に行くのがなんとなく嫌だったのも、キーヴァのせいなのに俺まで怒られたことが原因だったのか」

「う、ううう……」


 もう駄目だ。私の恥ずべき思い出を兄さんが完全に思い出し、それを赤の他人にまで知られてしまった。こうなれば手段は一つ。


「皆さん。ちょぉっと記憶を消させていただきますね……」

「いいだろそれくらい。消す必要無ぇだろ」

「駄目だよ兄さん。この噂、何か変な風に伝わってるみたいだし。ふ、ふふふ……。さ、最強の存在になって、全人類からこの話の記憶を消してやらないと……」

「キ、キーヴァちゃん? 笑顔が怖いよ……?」

「誰だって恥ずかしい思い出の一つや二つ、あるものだぞ」

「そ、そうよ。私だって変な目で見てきた試験官を間違えて射抜きそうになったことが」

「駄目だよ~、キーヴァちゃん。そんなことしたら悪者になっちゃう」

「キーヴァ」


 最後にぽんと兄さんが私の頭に手を置いた。


「誰だって失敗を経て成長していくもんだ。それに俺はお前との思い出を忘れたくねぇ。……諦めろ」

「嫌ああああああああああああ! 忘れて! 駄目! 覚えておかないで! 恥ずかしいから! たまに夢に見るんだもん、あのお尻……嫌ぁ……。むしろ、私からあの記憶を消して……」

「諦めろ」

「うう……しくしく……って、うわあっ⁉」


 その場で泣き崩れる私を、兄さんがひょいと担ぎ上げる。


「ほら、さっさと行くぞ。飯食うんだろ。他にもやることあるんだから、さっさと食っちまおうぜ」

「ま、待って兄さん⁉ これも恥ずかしいんだけど⁉」

「お前が駄々こねるのが悪い」

「記憶を消させてくれない方が悪いの!」


 私が騒いでも一向に構わず、兄さんは歩き出す。


「仲良いんだね~、キーヴァちゃんとリーアムくん」

「仲良すぎて怪しいわね」

「だな」

「クッ。実の兄だからってキーヴァちゃんとあんなに仲良くできて、羨ましいぜ……!」

「お前は何でそんなにあの子を狙うんだよ」

「だって可愛いだろ、キーヴァちゃん」

「ふぅん。じゃあバッカスくんは私とカリーナちゃんは可愛くないって言うんだ」

「そうは言ってねぇだろ! リリアちゃんも可愛いよ~!」

「……はぁ」


 こうして私たちはリリアちゃんの家まで行って美味しい料理をご馳走になり(流石に兄さんは街に入る前に私を下ろした)、街で買い物をした後はまたリリアちゃんの家で食事をし、そのまま一泊させてもらった。私はリリアちゃんとカリーナさんと共に、夜中までお喋りをした。久々の女子だけでの会話は実に楽しいものだった。


 翌日。街の教会で兄さんは銀の勇者証を受け取った。案の定何故今まで活動を報告しなかったのか怒られた時は、私は兄さんに少し睨まれた。その後はバッカス一行に見送られながら、私たちは街を出た。


「ようやくあの馬鹿から解放されたぜ」

「もう。バッカスさんのことそんなに嫌わなくていいでしょ」

「やたらと突っかかってくるのが嫌なんだよ。……それで、どうする?」

「ふふー。もちろん! 木苺のパイを食べに行く!」

「了解」


 私と兄さんは、パイを食べるべくスマル村へと足を向ける。

 私たちの旅は、まだまだ続く。

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