最終話 永劫回帰
崩壊する世界の中で、花音は壊れたバイオリンを抱えてしゃがみこんでいた。
涙が止めどなく流れる。
「ママ……」
小さなウーロがそっと花音の涙を拭った。
「……ウーロ?」
崩壊する世界の中でウーロの存在だけが現実感を伴っていた。
「ママの願いを教えて?」
「……願い?」
「うん」
「……ヴィオと一緒に生きたい……この世界で……」
『分かった』
ウーロが本来の巨大な紫の竜に姿を変える。
「……ウーロ? 何をするの?」
『僕もママと一緒に居たい。この世界は終わらせない……!』
そう言って、花音の手の中から壊れたバイオリンをそっと取って、大きく翼を羽ばたかせた。
「ウーロ!!」
花音が叫んだ瞬間、最後の世界のかけらが剥がれて……そのまま、真っ暗な闇の中に花音の意識も溶けていった――。
◇
爽やかな風が花音の頬を撫でた。
ゆっくりと花音が目を開くと、視界には雲一つない紺碧の空が広がっていた。
ここは……?
花音がゆっくりと体を起こす。
「ねえ、カノン」
「え?」
突然名前を呼ばれて、花音は振り向いた。
金髪の青年が紫の瞳にふわりと優しい笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「……今度こそ、信じてもらえるかな。僕はカノンのことが大好きなんだ」
花音の瞳にみるみる涙が溢れだした。
「……うん」
花音が小さく頷くと、ヴィオがそっと片手で花音の顎を持ち上げ、唇を合わせた。
「……ママ、ちゅうしてる……」
突然ウーロの声が聞こえて、花音はドンッとヴィオを突き飛ばした。
「ウ、ウ、ウーロ……いつからそこに居たの!?」
花音の声が上擦る。
「ママが起きるずーっと前からだよ」
ウーロがにっこりと答える。
「ちなみに、アタシも居るからね」
ジト目でこちらを見るアルプも視界に入り、ボンッっと爆発するように花音の顔が真っ赤になる。
「酷いヨ~! カノン!! 僕達やっと結ばれたのに!!」
ヴィオが再びぎゅうっと花音に抱きついて、またキスを迫る。
「ちょ、調子に乗るなぁぁぁぁあああ……!!!!」
カノンの絶叫が雲一つない紺碧の空に響き渡った――。
これにて完結です。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。




