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第34話 創造主


次々と溢れ出てくるモンスターにゼピュロスとアルプは苦戦していた。


「全然……減らない!」


「参ったな……」


モンスター達の波状攻撃を軽くいなしながらも、終わりの見えない作業に二人は精神的苦痛を感じる。




「お待たせしましたわ」


突然、花吹雪と共にフローラが現れた。


「フローラ! 何か分かったのか?」


ゼピュロスが風の魔法でモンスターを切り裂きながら、フローラに訊ねる。


「ええ……。あのお二人を戦わせてはいけませんわ。どちらが傷ついてもこの世界が壊れてしまいます」


「どういうことだ!?」


ゼピュロスの問いに対して、答えたのはアルプだった。


「やはりマスターは創造主なのですね?」


「アルプ……あなた、知っていたのですか?」


驚くフローラにアルプは首を振って答えた


「いいえ。ただ、マスターの使い魔として魂が繋がれてから、そうではないかとずっと感じていました」


「そう……」


アルプの話を聞いて、フローラは視線を落とす。


「あ、あの。創造主って?」


花音は二人の間に入って、よく分からなかった、けれども重要そうなキーワードを訊ねる。


「……その名の通り、この世界を創造した者、ですわ」


「……うそだろ? って言いたいところだが、あの魔王の魔力量見てると信じざるをえないな」


ゼピュロスが険しい顔で言う。


「この世界を創造した者……」


花音は呟きながら、ヴィオのセリフを思い出す。


~~~~~~~~~~~~~~~


「君を僕の国に招待したんだよ。ようこそ、ストリングス王国へ!」


~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~


「僕の国を案内してあげる。せっかく来たんだから、楽しんでいってよ」


「僕の国って? さっき言ってたナントカ王国ってところ?」


「うーん。まあ。そう」


~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~


「まあ、いわゆるチートキャラってやつだから」


~~~~~~~~~~~~~~~


なんとなく聞き流していたけど、ヴィオが創造主と言われれば、そうかもしれないと思えるくらいには意味深なセリフを結構ほざいていた気がする。


「どうしよう……!! 今、もう戦ってるよね? どうにかして止められないのかな?」


「あの二人の戦いを止めるなんて無理だろ!? 挟まれて死ぬのがオチだ」


「「……」」


ゼピュロスの言葉に、フローラもアルプも黙り込んでしまう




「……止められるよ?」


突然、声がした。


「カノンが僕と一緒に来てくれたらね」


花音が振り返ると、ぞくりとするような笑みを浮かべたヴィオが立っていた。


花音は思わず後ずさる。


その瞬間、ふわりと花音の前に、もう一人のヴィオが降り立った。


「カノンは渡さない」


同じ声なのに、なぜか花音には分かる。その声はいつものヴィオの声だった。


花音の胸にじんわりと安堵の気持ちが広がる。


「ヴィオ!!」


花音が名前を呼ぶと、ヴィオが振り向かずに小声で呟いた。


「怖い思いさせてゴメン、花音。あいつも僕なんだ。花音が元の世界に帰るにはあいつを倒さないといけなくてさ……」


「私を元の世界に……?」


「うん。ちゃんと始末つけるから、ちょっと待っててね」


そう言うとヴィオはもう一人のヴィオに極大な魔法を放った。


いつの間にか花音達の周りには強力な結界が張られていて、魔法の衝撃は花音達を避けるように広がる。


花音は見たこともない激しい戦いを目にしながら、呆然として呟く。


「……もしかして、私が帰りたいようなこと言ったから?」


嘘でしょ? そんなことで世界の危機!?


『ママ! 誰かが……魔法使ってって!! ヴィオ達このままじゃ壊れちゃうって!!』


突然ウーロの声が花音の頭の中に響く。


「ウーロ? 誰かって……?」


『わかんない!! けど、聞いたことある優しい声!!』


「……マザードラゴン?」


なぜあの白い竜が?


ううん、考えるのは今はいい。私に出来そうなことは試してみよう!!


花音はバイオリンを呼び出す……


いつも通り手に馴染んだ感触を握り締め、構えようとしたとき“ピンッ”と弾ける様な音がして、一番細いE線が切れた。


「うそ!!」


それはヴィオ達の間で大爆発が起きたのとほぼ同じタイミングだった。


ヴィオの結界で花音達にダメージは無かったが、相当量の熱量が発生したらしく結界の外の物質はほとんどが燃え尽きていた。


そして、ヴィオと魔王もまた無傷ではなかった。


お互いに魔法を放っただろう左手が、お互いの魔法で黒く焦げていた。


「やばいな。魔法の威力が同じだから、同じ魔法を撃ち合うと両方にダメージがいっちまう……」


休む間もなく剣戟の応酬が始まる。


二本のラグナログから幾筋もの剣閃が飛び、お互いの相手を傷つける。


”ビンッ”


また弦が切れた。今度はA線……。早く弾かないとヴィオが壊れちゃうって、こういうこと!?


焦りの気持ちが沸き上がる。


花音は迷うことなく、弓をG線上に置いた。


大きく深呼吸をする……落ち着け、落ち着け、私。


ヴィオ達が同時にラグナロクを左切り上げに振り抜く。


”ビンッ!”


切れたD線が花音の頬に一筋の赤い線を引き、少し遅れてすぅっと赤い線から血が流れる。


花音は痛みを堪えて、残ったG線に弓を滑らせ始めた……。


ゆっくりとゆっくりと弓先から弓元へ、弓元まで滑らせたら滑らかに音が途切れないようにダウンボウへ切り替える


「「!!」」


傷だらけになり息を上げながらお互いの隙を探すヴィオと魔王は、体の中に花音の演奏が響いてきたことに気付いた。


花音の祈るような願いが二人のヴィオの中に流れ込む。



――ヴィオと、ずっと一緒に居たい。



「「カノン!!」」


二人のヴィオが叫ぶ。


――だから、一緒に行こう……二人だけの場所へ……


――だけど、一緒にはいられない……カノンを帰してあげなきゃ……















~曲~

G線上のアリア 

作曲者:J.S.バッハ


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