第32話 衝突
しばらく飛んだ後、突然ウーロの声が花音達の頭に響いた。
『ママ、ぐちゃぐちゃが見えるよ……。ヴィオかな?』
不安げなウーロの声に、花音は昨日の魔王を思い出す。
アイツもヴィオと同じ属性を持っている……。
「おい、よく見ろ。同じ魔力が二つだ……。ぶつかり合ってる……戦ってんじゃないのか?」
ゼピュロスが目を凝らして、遠くを見つめる。
「エフホールよりもずいぶん手前だ……。もしかしてさっきの爆発はマスターの魔法だったのでは……」
アルプの呟きを聞いて、花音は心臓がドキドキしてくる。
魔王が花音達の前から姿を消したのはあの爆発があったからだ。もしあの爆発がヴィオの起こしたものだったら……。
『ホントだ……ぐちゃぐちゃが二つぶつかってる!!』
ウーロの叫びで花音は確信した。……ヴィオが戦ってる!!
戦場に近づくにつれて、ビリビリと大気の震えが強くなっていく気がしていた。
「精霊達が狂乱してる……」
「く……ひでーな、こりゃ」
アルプもゼピュロスも精霊の異常を感じ、顔を顰める。
前方で二人の人影が戦っているのが、視認できるくらいの距離まで近づいた時だった。
「風の精霊の乱れが大きすぎる。これ以上は飛んで近づくのは危険だ。一度、降りたほうがいい」
ゼピュロスがウーロの耳元で告げた。
『分かった』
ウーロはバサリと羽ばたき方を変えると、ゆっくりと下降していく。大きく翼を羽ばたかせて、ウーロはふわりと地面に降り立った。
花音とアルプはすぐにウーロの背中から降りる。花音はウーロの額を撫でながらお礼を言った。
「ありがとう、ウーロ。すごく助かったよ」
『うん!』
ウーロが嬉しそうに返事をした。
「おっと、ゆっくりもしていられなそうだぞ……」
ゼピュロスが三人に声を掛ける。
「え?」
いつの間にか花音達の周りに大量のモンスターが集まってきていた。
「なんなんだ、こいつら……」
アルプが吐き捨てるように言うと、ゼピュロスが答えた。
「魔王がどっからか呼び出したんだよ。こいつらを使ってエフホールを襲わせたんだ」
「一体、あいつの目的は何なんだ?」
アルプの質問にゼピュロスは「さあな」と答える。
「来るぞ!」
ゼピュロスがそう言ったのと同時に、モンスターの群れが一斉に花音達に襲い掛かった。
「カノンはウーロから離れないで!」
アルプはそう言って素早くウーロの周りに光の結界を張った。
ゼピュロスは両手を広げて、アネモイ・テュエライを呼び出す。
「行け!!」
ゼピュロスの合図でアネモイ・テュエライ達はモンスターの群れに飛び掛かっていった――。




