第31話 二人のヴィオ
「くっそー。なんなんだ? アイツは!?」
ゼピュロスはアルプの回復魔法を受けながら、怒りをぶちまけた。
「ゼピュロスをボコボコにするなんてね……」
アルプが信じられないように呟く。
「おい! 別にボコボコにはされてねー。ちょっと油断しただけだ」
「ふーん」
アルプが冷たく返事をする。……が、ふと思いついた様に言った。
「けど、助けてくれてありがとう……。あんたが居なかったら、とっくにカノンは連れて行かれちゃってたよ」
「お……おう!」
ゼピュロスは急にアルプにお礼を言われて、ドギマギと返事をする。
「……ねえ、あいつは本当にヴィオじゃないんだよね?」
花音はもう一度ゼピュロスに訊ねる。
「ああ、お前たちと一緒に旅をしてた奴とは違うな」
ゼピュロスは答える。
「そうだよね……私もなんか違うって思ったし……。けど……」
けど、なぜ見た目も武器も魔力もヴィオと一緒なのだろう……。
抜けない棘の様に心に突き刺さるその疑問は、何か恐ろしい答えを含んでいるような予感がする……。
「……あいつについては今フローラが調べている」
花音の心を読んだように、ゼピュロスはボソッと呟く。
「え? フローラが?」
少し心が軽くなる。何かわかるかもしれない。
いくら考えても今の花音には疑問の答えは思い浮かばないだろう。だったらフローラが調べてくれるのを待とう。
花音はそう腹を決めて、思考を切り替える。
「どちらにしてもここはもう安全じゃないし、やっぱりヴィオを追いかけたい」
花音はみんなを見回してそう言った。
「おう、それがいいだろーな。またいつあいつが攻めてくるか分らんし……」
「けど……現実問題としてこの山をカノンの足で越えるのは厳しいよ」
ゼピュロスは花音の言葉に同意をしたが、アルプは厳しい現実を突きつける。
「厳しくても……やるしかないよ」
花音はきっぱり言い切る。
「なーんだ、そんなのこのドラゴンのガキに乗っていけばいーじゃんか」
『え?』
「「え?」」
ゼピュロスが事も無げに言う。
『僕がみんなを乗せて飛べばいいの?? そっか! やるやる!』
「だめよ、ウーロ。そんなの無理だよ」
『けどママ、僕、結構飛べるようになったよ?』
「だめ、ウーロはまだ小さいんだから。無理しないで」
『けど……』
「おいおい……過保護なかーちゃんだな。ドラゴンの飛行能力を甘く見過ぎてるぜ。その気になりゃ、幼生のドラゴンだって大陸横断できるんだぞ」
「カノン……。ウーロはやりたいって言ってるんだよ? 甘やかすだけじゃだめだ」
「……」
ゼピュロスとアルプの言葉に花音は反論できず、押し黙った。
『……ママ?』
ウーロが大きな紫の瞳を瞬かせて、心配そうに花音を覗き込む。
ふう……と花音は息をついて口を開いた。
「……わかった。……ウーロ、お願いしてもいい?」
『うん!!』
ウーロの嬉しそうな返事が頭の中に響いた。
◇
「二人ともちゃんと掴まったか?」
ゼピュロスの声が響く。
「うん」「大丈夫」
ウーロの背中の上に座った花音とアルプが答えるのを聞いて、ゼピュロスが今度はウーロに話し掛ける。
「んじゃ、合図したら俺が上昇気流を作るから、上手くそれに乗れよ。ウーロ?」
『わかった!』
ウーロの真剣な声が三人の頭の中に響く。
「じゃあ、行くぞ!! 3・2・1……飛べ!!!」
ゼピュロスの合図とともに、ウーロが翼を大きく広げた。その直後、地面から強い気流が巻き上がり、その風を目一杯受けるようにウーロが翼を羽ばたかせる。
上手く風を捕まえたウーロは力強く羽ばたき、一気に空高く舞い上がった。
「わあ!!」
「すごいぞ!! ウーロ」
『へへへ……』
ウーロは得意げに羽ばたいて、聳え立つ山脈へ向かった。
「だいぶ上空に飛んだな」
いつの間にかゼピュロスがウーロの隣を飛んでいた。
「これ以上、上に行くと空気が薄くなってくるからな。この位置より下を飛べよ?」
『わかった』
「案外イイ人じゃん」
花音がアルプに小声でそう囁くと、アルプは不本意そうに
「フローラの教育のお陰だろ」
とだけ答えた。
そうしている間にもウーロはぐんぐんと山脈の上を飛んでいく。
「すごいね……。初めてこの山を見たときは絶対越えられないと思ったのに……」
花音が風に髪をなびかせながら、目線の下に広がる山々の連なりを感慨深く眺めた。




