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第25話 風神


「あれは!? ゼピュロス……! なぜこんなところに……」


アルプが小さく叫ぶ。


「ゼピュロス? ……風神ゼピュロスか?」


ヴィオが険しい顔でアルプに聞き返す。


アルプとヴィオのやりとりを聞きつつも花音はまるで状況がつかめない。アルプの知り合いみたいだけど……。


「ここはアタシに任せて下さい」


アルプが一歩前に出た。


「だが……」


ヴィオが少し言い淀む。単純な魔力だけで見るとアルプの分が悪い。


「奴とは因縁があります……やらせてください」


アルプの目に怒りが籠められているのを見て、珍しくヴィオが引き下がった。


「無茶はするな」


「ありがとうございます。マスター」


アルプは薄く笑ってそう言うと、ゼピュロスの前に進み出た。


「ゼピュロス、なぜお前がこんなところに居るんだ?」


前に出てきたアルプを見てゼピュロスは少し沈黙した後、口を開いた。


「お前……もしかしてアルプか? へぇ、どこに行ったかと思えば……。しばらく見ないうちに随分とカワイイ姿になっちまったな」


ゼピュロスは無遠慮にアルプの姿をジロジロと値踏みするように見つめ、ニヤリと笑った。


「質問に答えろ。ゼピュロス、アタシ達の邪魔をする気ならただじゃ置かないぞ!」


アルプが厳しい声で言い放つ。


「ふーん。夢魔風情がオレ様に偉そうな口きくじゃねーか。ああ、ただの夢魔じゃなくなってるみてーだが……ずいぶん生意気になったなぁ」


ゼピュロスの魔力が高まり、大気がざわつく。


「……テメーが多少魔力を高めたって、所詮は格下だって前に教えたよな? 抗えない差ってもんをもう一度分からせてやるよ!!」


ゼピュロスがアルプに向けて、強大な風の魔法を放った。


「カノン、こっちへ!!」


ヴィオが素早く花音を引き寄せ、結界を張る。


「アルプッ!!」


花音が風の魔法に飲み込まれたアルプの名を叫んだ。


ゼピュロスがジロリとヴィオと花音を睨む。


「お前らも逃がさねーぞ!!」


そう言ってゼピュロスが両手を広げると、どこからか翼の生えた小さな半人半鳥の群れが集まってきた。


「アネモイ・テュエライ達、女は捕まえろ。男は食っちまっていいぞ」


ゼピュロスがそう言うと、半人半鳥の群れが一斉に花音たちに向かってきた。


「カノンは結界の中にいて!」


ヴィオはそう言うと花音とウーロを残して、結界の外へ飛び出しアネモイ・テュエライと呼ばれたモンスターたちを迎え撃つ。


ヴィオの右手にはいつの間にか剣が握られていた。ヴィオが軽く剣を振るうと、何匹かのアネモイ・テュエライが切られて消滅した。


「ん? あいつの魔力は……。ふーん、どういうことだ?」


ゼピュロスがヴィオの戦う様子を見ながら呟いた。


その時、ゼピュロスの周りを黒い霧が覆った。


「……っと、まだ終わってなかったか?」


「余裕ぶっているのも今のうちだ」


ゼピュロスの耳元でアルプの冷たい声が響いた。


「多少やるようになったじゃねーか、アルプ! ……けど!」


ゼピュロスが右手を上げると、巨大な竜巻が地面から巻き上がり黒い霧が吹き飛ばされる。


「テメーの霧なんて効かねーんだよ!!」


霧が晴れた瞬間、勝ち誇ったゼピュロスの前に光の弓を構えたアルプが立っていた。


「……死ね!」


アルプの呟きと共に、弓から激しい光を帯びた矢がゼピュロスに向けて放たれた。


「な……に!?」


矢が当たった衝撃でゼピュロスの体が後方へ飛ばされ、岩山に激突した。


「当たった!! ね? アルプの攻撃、当たったよね!?」


花音がアルプの勝利を確信してウーロを抱き締める。


「ママ……くるしーよー」


「あ、ゴメン!」


花音がウーロを絞めていた腕を緩める・


「ふー……当たったけどー、風さんはビュービューだよ?」


「え? どういう意味?」


花音がウーロに確認しようとしたとき、岩山が砕ける音がした。


「……へぇ、光の魔法ね。面白いパワーアップの仕方してるじゃねーか、アルプ」


ゼピュロスが服についた汚れを払い落としながら、土煙の中から姿を現す。


「……くっ」


アルプが険しい表情でゼピュロスを睨みつける。


「なぁ、やっぱり俺の妾になったほうがいいんじゃねーか? 今なら謝れば許してやるぜ」


「誰がお前なんかの……」


ゼピュロスの言葉にアルプが吐き捨てるように言う。


「ふーん、相変わらずだな。……ま、嫌がってんのを無理やりってのも嫌いじゃないがな」


ゼピュロスが薄く笑って呟き、危険な目でアルプを見据えた。















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