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目指せ、悪役令嬢!?

 物心ついた頃から、私は同年代の子供と並ぶと、頭が少し出る傾向にある。


 近頃は、頭一つ分以上、高いことも多い。


 普通にしていると、目線が合わないので、ほぼ見下ろす形になる。


 もしかしなくても、私は昔から背が高いのではないだろうか。その上、十一歳の誕生日を迎える前後からめきめき伸び出し、以前は頭半分だった義弟との身長差が、いつの間にか頭一つになっていた。今は、大人の女の人とほとんど変わらなくなってきた。


 血筋の近い親戚の女性は大叔母しか知らないけれど、彼女は女性としては背の高い方だったように思う。つまり、この高い身長も血のなせる技らしい。


 別に、背が高いと可愛らしく見えないとか、偉そうにしているように映ってしまうとか、そういったことを気にしている訳ではない。でも、悪役令嬢の評判も、この可愛げのない外見が要因の一つだとは考えられる。だって、ほとんどの子供達を見下ろしてしまうのだ。下手をすれば年上の男の子でさえ私より小さかったりした。幼い子供にとって、見下ろされるだけで威圧感は十分あったはずだ。


 外見の威圧感に加えて、愛想のなさや自己主張の強さといった内面も加味されて、私の評判は作られていったようだ。私は行儀の悪さや会話力のなさを隠すために極力人とは話さないようにしていたから、愛想のなさも折り紙つきだったのである。


 今まで以上に見下ろす人が増えてきて、ふとそんなことを考えてしまった。


 身長の高さが評判に影響を与えていたなら、少しショックかも。


 父が大きいので、それに釣りあうように、敢えて大きく見えるように背筋を伸ばしていたのだから。それが悪役令嬢に一役買っているなんて、今の今まで思いつきもしなかったわ。


「だから、どうしてあんたはそういう相談を俺に持ってくるんだよ」


 義弟は読んでいた書類から目を上げて、私を睨んできた。


 ここは図書室だ。


 例のごとく、相談役の義弟を探しに来て、目論見通りここで見つけた。


 で、聞いてるかどうかなどお構いなく、前に座って話してみたのだ。


 予想通り、態度はぞんざいながらも、私の優しい義弟は、書類を読みながらも耳を傾けてくれていたらしい。


「依存してもいいって、前に言ってたじゃない」


「脈絡が違う。大体、そういう相談は女性同士でするものだろ。十一歳の俺にしてどうするんだよ」


 そう言われて、私はちょっと不貞腐れた。


「いつもは相談に乗ってくれるのに」


 呆れたように溜息をついた彼は、前に座る私を見る。


「あんたが同じ年の奴らより背が高いのは今に始まったことじゃないだろ。何で今さら……」


「だって……」


 何故こんなことが気になったのかというと、少しばかり時が遡ること数時間前。義弟とマーレイ伯爵家へお昼のお茶にお邪魔した時の出来事が理由である。


 剣術の先生と美少女の母親は二人にそっくりで、とっても綺麗な人だった。


 小柄な女性で、並ぶと私の方が少し背が高かった。


 私達を迎えてくれた伯爵夫人は、もうひと組のお客様をもてなしている所だった。そのお客様が美少女の叔母で将軍の奥様だった。奥様は一人ではなく、長男を一緒に連れて来ていた。それで彼女の機嫌が悪かったのかと合点がいった。


 子供は子供達でと、さっさと応接室を追い出され、私達は庭に面したテラスに場所を移すことになった。


 そこで、大人の目がなくなった将軍の息子の口から、前回のように乱暴な言葉が飛び出すことになったのである。この時ばかりは、義弟のスルーのスキルを羨ましいと感じた。


 美少女は美少女で元々機嫌が悪かったから言い合いになってしまうし、義弟はどこ吹く風で華麗に完全無視。私はというと、内心焦りながらドキドキしていたけれど、せっかくなので仲良くしたいかなあと呑気なことを考えておりました。


 だって、ほら、彼は没落公爵令嬢への布石っぽいし。無視できないのなら、仲良くしておくに越したことはない。


 あの中で一番友好的でいようと努力していたのは私のはずだ。例え、表面的な表情と態度がどうであれ。


 なのに、言いたいことを言ってさっさと帰って行った彼が、私に唯一残した言葉といえば「どけよ、デカ女」でした。


 初めていただいた二つ名が「デカ女」だった。


 確かに、初めて見かけた時よりも身長差は広がったと思うわよ。あの時は辛うじて私の方が目線が上だったのに、今は確実に私の方が背が高かった。


 たかが半年。されど半年。


 本当にここ二、三ヶ月の私の身長の伸びは異常だった。


「でもね、デカ女は酷いと思うのよ。せめてもう少し可愛いあだ名が欲しいもの」


「いや、あれは悪口であって、あだ名じゃないからな」


「あだ名って、本名とは別にその人の容姿や性質などの特徴から他人がつける名、ってことでしょう? 初めてのあだ名がデカ女は酷過ぎるわよね」


「……あんたは自分が背の高いことを気にしてるのか、デカ女の呼び方を気にしてるのかどっちなんだ?」


「そんなの、どっちもよ」


 と答えてから、ふと彼のあだ名が気になった。


「あなたの初めてのあだ名って何?」


 彼は咄嗟に「ない」と答えたけれど、絶対に嘘だ。目が泳いでたもの。


 微かに頬が赤くなってる気がするし、聞かれたくないけど気に入ってない訳じゃないといった二つ名に違いない。羨ましすぎるぞ。


 そのものズバリ「天使ちゃん」だったりしてね。


 なんて、冗談で口にしたら、義弟の顔は真っ赤になった。


 え? 何で恥ずかしがるの?


「ち、小さい時の話だ」


 そりゃ、そうでしょうよ。私、あなたが「天使ちゃん」って呼ばれているの聞いたことないもの。


「そう呼んだのって、幼馴染の女の子だったりして」


「もういいだろ、そんなくだらない話。二つ名が欲しいなら誰かに付けてもらえよ」


この話、もっと突っ込みたいけども、そうするとへそを曲げられて逆襲されそうな気がする。それに、私以外の親しい友人の話を聞きたいような聞きたくないような微妙な気持ちもあったので、終わっておくことにした。


「私の評判の悪さを吹き飛ばすぐらい可憐なあだ名を、誰がつけてくれるのよ」


 そう呟くと、彼は不思議そうな表情をして、私を見た。


「悪い評判?」


「良くはないわよね?」


「……まあ、どの観点で考えるかによるが、評判が悪いとは思ったことないぞ。良い評価なら聞くことがあるけど」


 それはそうだろう。身内に悪口を吹き込む人はいないと思うのよ。


「いや、悪い評判を耳にするほどの人付き合いはないだろう? あんた」


 婉曲な表現で友達がいないと指摘されてしまった。


 でもね、こんな私にも友人はいるのよ。二人も。きっと友人のいない義弟よりは多いはず。


 と考えて悦に入った私の顔から感情を読んだのか、義弟がぼそりと囁いた。


「友人と人付き合いは違うぞ。あんた、人の輪に入るの嫌がるだろう。そんなんで、どうしたら自分の評判なんか耳にするんだ?」


 改めて問われて自分でもびっくりした。


 本当だ。どうして私は昔から自分の評判が悪いと知っているのだろう。


 私の中で、私の評判が悪いのは事実として認識されてきた。でも、本当は悪い評判なんてなかったのかしら。


「愛想がないとか、我儘とか、お高くとまってるとか、女のくせに背が高いとか、人を見下してるとか……実は言われていなかったのかしら」


「それはあんたの特長であって評判じゃないだろう?」


 え? そういうのを評判というのでは……というか、言われてはいる訳ね。


「風変わりな公爵令嬢という以外の評判はないと思うけど」


「……風変わり?」


「変わってる公爵令嬢……とか?」


 何ですって? 私が思っているような悪役令嬢の評判などなくて、実はただの変人扱いですか?


 がっくりきて机に突っ伏してしまった私の頭上で、義弟が笑いを含んだ声で更に言葉を紡いでくる。


「いいじゃないか。変わってる公爵令嬢って二つ名で」


「デカ女も嫌だけど、それも嫌!」


 彼がケタケタ声を上げて笑うので、腹が立った私は例の言葉を口にしてやった。


「天使ちゃん……」


 ピタリと声が止んだ。


「天使ちゃん天使ちゃん天使ちゃん! ずっと言い続けてやる。みんなの前で呼んでやる。天使ちゃん」


 顔を上げて彼を覗き込みながら口にしてみると、立ち上がった彼は真っ赤になって私の口を手で塞いだ。


「笑った俺が悪かったから、子供みたいなことするなよ」


「だって子供だもの。背が高くても子供だもの」


「背の高さなんて、そんなに気にすることでもないだろうに。あんた、年々子供っぽくなってる気がするぞ」


 溜息つきながら呆れるように囁く義弟の声が、優しそうに聞こえるあたり、私はやっぱり変わってるのかしら。


「肉体的にも精神的にも、男より女の方が成長が早いんだ。あんたが同じぐらいの奴らを見下ろしてしまうのは変でも何でもないし、後五年もすれば、俺だってあんたより高くなってるさ。もう少し待てよ、見下ろしてやるからさ」


 どんなに言動が乱暴でも、やっぱり義弟は優しいと思う。


 でもね。それだと、デカ女は解決できても、変わってる公爵令嬢の二つ名は解決できないのでしょう?


「じゃあ、背の高さはそれでいい。でも、変わってる公爵令嬢よりも、悪役令嬢の方がいい……」


 私が思わずそう呟くと、彼は怪訝な顔で見てきた。


「今度はそっち? てか、悪役令嬢って何?」


「変ってると言われるよりも、強くて格好良さそうじゃない?」


 素直にそう返して、立ち上がっている義弟を上目遣いで見上げながら、首を僅かに傾げてみた。


 瞬間、言葉に詰まったように口を閉じてから、彼は何度目かの溜息をつく。


「……ごめん、俺にはやっぱりあんたの考えることが判らない」


 結局残念な子を見る眼差しを向けられる私だった。


 何故か、後日、義弟と父に大叔母へ会いに行くことを強く勧められた。


 そして、またまた恐ろしい可能性に気づいた。


 現在私の脳裏の文字列の中で一位の悪役令嬢だけども、このままの評判では「珍妙な公爵令嬢」とかいうものに取って代わられてしまうかもしれない。


 それはとても嫌だ。


 やはり、ひとまずは悪役令嬢を目指すべきなのかも。どうすれば悪役令嬢になれるのかは、全くもって分からないのだけれども。






またまた義弟相談室になってしまいました。


二週間ほど更新できないかも。

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