結成
冒険者ギルドとは、その名の通り冒険者達の同業者組合である。
彼らが長年の歴史の中でそのようなものを設けた理由は、ひとえに情報交換を円滑化することにあると言う。
人間と言う弱小種が勢力を広げるには、この世界はあまりにも危険に満ちている。
従って当然のことながら、その大半は未だに人が足を踏み入れたことのない土地で占められている。
そんな世界を探索していく冒険者達に取って、自身らの生存率を僅かでも高める為に最も重要な因子が情報なのだ。
既に誰かが赴いた土地の気候、風土、種族。
それらから類推される未踏地域の環境。
未知なる地へと足を踏み出す前には、それらの情報から入念に過ぎる程の準備を行わなければならない。
現在の冒険者ギルドは、冒険者達への依頼の効率的な分配などの業務も行っている。
しかしそれらはあくまでも、情報交換の場と言う第一義からの延長線上にある副産物に過ぎないのだ。
俺たちが今足を踏み入れた施設は、そんな大陸全土に広がる冒険者ギルドの支部のものだ。
入り口の扉を開いた先のロビーには、いくつものテーブル席が設けられていた。
普段このロビーは、待合室や冒険者同士の直接的なコミュニケーションの場として利用されているのだろうと推察出来る。
今は村に冒険者が少ない時間帯ではあるが、それでもそこには数組の冒険者パーティの姿があった。
奥に見える正面カウンターには、ギルド職員らしき女性が一人座っている。
おそらく冒険者への対応を行う係のものだろう。
冒険者が増える時間帯には、ギルド側の職員も増員されるのだろうか。
「じゃ、行くわよ」
気楽に発されたイリスの号令に従い、俺たちは足を踏み出す。
するとそんな俺たちが偶然視界に入ったのか、冒険者の一人が「イリスだ」と小さな呟きを漏らした。
それに続くように彼処から、「本当だ、イリスだ」だとか、「霊獣様までいるぞ」だとかの声が囁かれ始める。
それらの雑音を出来るだけ意識から外しながら、イリス達が本当に有名人となっていることに感心しつつ、俺は彼女の後に続きカウンター前へと歩を進めた。
「ようこそイリス様。
今日はどういったご用件でしょうか」
穏やかな笑みを浮かべたギルド職員の女性が、カウンター越しに問いかけて来た。
赤みがかったブラウンの髪を高い位置でポニーテールに纏めた、優しさを感じさせる人物だ。
俺がそんな感想を抱く中、イリスが単刀直入に用件を切り出した。
「ここにいる全員を冒険者登録したいのだけれど」
それを聞いた職員の女性が、少し驚いた顔をする。
「そちらの青髪の方だけでなく、霊獣様も含めた皆様全員ですか」
ちらりとアルディナを見やった後そう言った職員の女性に対しイリスは、
「ええ。
その子は剣士として前衛。
後の三人は妾たちの補佐役よ」
と述べ、そこで少し声音を落として呟いた。
「問題無いはずよね」
その瞬間、それまでは慣れたようにスラスラと言葉を紡いでいた職員の女性の肩がビクリと震えた。
……イリスさん、あなたが脅すのは冗談にもならないので本当勘弁してあげて下さい。
だが職員の女性は自分が何に対して反応したのかすら理解出来なかったようで、僅かに戸惑いを見せながらもすぐにイリスへと言葉を返した。
「だ、大丈夫です。
霊獣様が冒険者として参加して下さると言うのは、こちら側としてはむしろ歓迎すべきことです」
人間では決して抗えないような魔物とも渡り合える力を持ち、しかも人間に味方してくれるもの達が存在する。
それが、この世界でこれほどまでに霊獣が敬われている理由の一つだ。
その霊獣が冒険者となってまで人間側に協力してくれると言うのだから、それは確かにギルドにとって、いや、人類全体にとってとても有益なことなのだろう。
「では四人分の登録手数料をお願いします」
職員の女性からの請求に対しイリスが貨幣を支払い、代わりに四枚のギルドカードを受け取る。
うーむ、審査とかも無いっぽいし、かなり適当だな。
イリスから手渡された鈍色の金属製カードを眺めがながら俺がそんな感想を抱いていると、職員の女性が提案を一つ重ねて来た。
「皆様でパーティを組まれるなら、その名称もギルドに登録しておくと便利ですよ」
イリスはそれにすぐさま頷きを返すと同時に、新たな議題を持ち出した。
「そうね、そうするわ。
でもパーティの名前決めなくちゃいけないわね。
貴方達、何か良い案あるかしら?」
おお、思わぬ所で俺の出番がやってきたようだ。
脳裏に浮かんだ鮮やかな造語をすかさず口にする。
「ワラワーズというのはどうかな!」
もちろんこの世界に置いて妾と言う一人称がワラワと発音されているわけではない。
それはあくまでも転生装置がもたらした言語知識によって、俺の知識にあった日本語とこの世界の言語の中から近いニュアンスの単語が結びついているに過ぎないのだ。
従ってワラワーズという言葉は俺の口から、まさにワラワーズという音のままに発せられた。
それ故、クレア様を除いて、この場にその意味を解するものは誰もいない。
「それってどういう意味?」
イリスの当然の疑問に、俺は即答を返す。
「俺のいた世界の言葉で、高貴なる女性達、みたいな意味だね」
こう解釈しても、そこまで外れてはいないはずだ。
「良いわね。
それで行きましょう」
素直に納得してくれたイリス。
ピヨスケもなんだか嬉しそうだし、アルディナからも不満は感じられない。
そんな中クレア様の表情だけが、なぜかやけに冷ややかなものとなっていた。




