↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「収納は一品だけ」と笑われた俺の、取り出し品が SSS級。誰にも笑わない剣聖が俺にだけ微笑む  作者: ふゆつき海月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/5

# 第1話 荷物持ちはクビだ、と言われた日

「ユウト、お前は今日でクビだ」


酒場に、ガルドの声が響いた。

テーブルに銀貨が三枚、乱暴に投げ出される。


「……理由を、聞いてもいいですか」


「本気で聞いてんのか」

ガルドは赤髪をかき上げて、鼻で笑った。


「お前のステータス画面、ここで出してみろ」


言われるまま、俺は画面を開いた。


【スキル:万象収納】

【ランク:F】

【効果:同時に一品だけ収納できる】


「一品だけ。Fランク。笑えるだろ」

ガルドが画面を指で弾く。

「そんなもんが荷物持ちの役に立つか。結局、背負うのはいつも背負子だ」


「ガルドさんが、預けた荷物が壊れたら困るって……」


「三年間、荷物を運んだのは俺です」


「だから何だ。運んだだけだろ」

ガルドは興味なさそうに、杯を傾けた。

「戦ったのは俺たちだ。手柄は全部、俺たちのもんなんだよ」


「口答えすんな」

周りの席から、くすくすと笑い声が上がった。


「紅蓮の牙はAランク目前だ。戦えない荷物持ちを置く余裕はねえ」

「手切れ金だ。さっさと消えろ」


銀貨を見下ろす。

三年分の報酬が、これだった。


言い返す言葉は、いくつも浮かんだ。

でも、口にはしなかった。


「……お世話になりました」

頭を下げて、酒場を出る。


背中に、ガルドの声が刺さった。

「二度と顔を見せんなよ、役立たず!」


夕暮れの街道を、俺は一人で歩いた。


王都アルセリアの城門が、遠くに見える。

今夜の宿代は、銀貨三枚で足りるだろう。

その先のことは、考えたくなかった。


「……腹、減ったな」


独り言が、風に流れる。

水筒の水を一口だけ飲んで、蓋を閉めた。


そのときだった。

道の脇の草むらで、何かが動いた。


「誰か、いるのか?」


近づくと、男が倒れていた。

鎧は裂け、腹から血が染み出している。

魔物にやられたらしい。


「おい、しっかりしろ!」


「……み、ず……」

男の唇が、わずかに動いた。


「水ですね。今、出します」

水筒の蓋を開けかけて、手が止まる。

半分しか入っていない。

これを飲ませても、傷は治らない。


ポーションなんて、俺は持っていなかった。

ガルドの荷物には山ほどあったのに。


「くそ……」


「頼む……死にたく、ねえ……」

男のかすれた声が、胸に刺さった。


そのとき、ふと思った。

俺の収納は、今まで自分の財布しか入れたことがない。

ガルドが、預かるのを嫌がったからだ。


「……試してみるか」


水筒を握り、スキルを発動する。

【万象収納】


水筒が、手の中から消えた。


「出ろ」


もう一度念じる。

光が弾けた。


手の中に現れたのは、金色に輝く小瓶だった。

さっきの革の水筒とは、似ても似つかない。


「え?」


中身は透き通った水ではない。

淡い光を放つ、琥珀色の液体だった。


「なんだ、これ……」

考える暇はなかった。

俺は男の口元に、小瓶を傾けた。


一口。

男の喉が、こくりと動く。


次の瞬間、男の体が光に包まれた。

腹の傷が、見る間に塞がっていく。


「う、ぁ……」

男が目を開けた。

「……あれ。痛く、ない」


「大丈夫ですか!」


「俺、確か腹を裂かれて……」

男は自分の腹を撫でて、目を丸くした。

「治ってる……?」


俺は、空になった小瓶を見つめた。

ただの水を入れた水筒が、どうしてこうなった。


「とにかく、街まで運びます。肩を貸します」

「あ、ああ……すまねえ」


街の門をくぐり、俺たちは冒険者ギルドへ駆け込んだ。


「リーナさん! 急患です!」


受付にいた茶髪の女性が、顔を上げた。

「ユウトさん? どうしたんですか、そんなに慌てて」


「道で倒れてた人を助けたんです。治療は済んでます」


「済んでる? この出血で?」

リーナさんは男の鎧を見て、眉をひそめた。

「ポーションは何を使ったんですか」


「それが……自分でもよく分からなくて」


俺は、空になった小瓶を差し出した。

リーナさんの目が、わずかに細くなる。


「少し拝見しますね」

彼女のスキルは、鑑定眼だ。

物の等級を、一目で見抜ける。


小瓶に視線を落とした、その瞬間。

リーナさんの顔から、血の気が引いた。


「……え」


「リーナさん?」


「ユウトさん、これ……どこで手に入れたんですか」

声が、かすかに震えている。


「手に入れたというか、俺の水筒の水を収納して、取り出しただけで……」


「水筒の、水……?」

リーナさんは、ゆっくりと息を吸った。


「これ、神級ポーションです」

「は?」

「しかも、残り香だけで等級が読めるほどの。国宝に指定されてもおかしくありません」


ギルド中が、静まり返った。

酒を飲んでいた冒険者たちが、一斉にこちらを見る。


「神級、だって?」

「ただの荷物持ちが?」

「いや、あいつ、紅蓮の牙を追い出されたFランクだろ」


ざわめきが広がった。

助けた男が、ぽかんと口を開けている。

「俺……そんなもんを、飲まされたのか」

男は慌てて立ち上がり、俺に深く頭を下げた。

「あんた、名前は」

「ユウトです」

「ユウト。この恩は、一生忘れねえ」


「ユウトさん」

リーナさんが、カウンター越しに身を乗り出した。

「もう一度、ステータス画面を見せてください」


言われて、画面を開く。


【スキル:万象収納】

【ランク:F】

【効果:同時に一品だけ収納できる】

【追加表示:取り出す時、収納品を最高品質にして出す】


「……追加表示?」

俺は、自分の目を疑った。

こんな一文は、今まで一度も出ていなかった。


「ユウトさん。あなたのスキル、Fランクなんかじゃありません」

リーナさんが、きっぱりと言った。

「ランクの表示が、追いついていないだけです」


膝から、力が抜けそうになった。

三年間、役立たずと呼ばれてきた。

その理由が、全部まちがいだったなんて。


「……本当、なんですか」

「本当です。保証します」


胸の奥が、じんわりと熱くなった。


その夜、俺はギルド併設の食堂で、湯気の立つスープを前に座っていた。


リーナさんが、「お祝いです」と奢ってくれたのだ。

追放された日に、温かい食事にありつけるなんて。


「いただきます」

一口すすると、野菜の甘みが体に染みた。


「うまい……」

思わず、声が漏れる。


「よかった」

向かいに座ったリーナさんが、にっこり笑った。

「あなたを欲しがるパーティは、明日には列を作りますよ」


「俺を、ですか。Fランクの荷物持ちを?」


「いいえ。神級の補給役として、です」

「大げさですよ」

「大げさじゃありません。本気です」


そのとき、食堂の空気が変わった。

ざわめきが、すっと消える。

入口に、誰かが立っていた。


銀色の長い髪。

氷のように冷たい、青い瞳。

鎧の上から、ギルドの長を示す紋章が光っている。


「ギ、ギルド長……!?」

リーナさんが、慌てて立ち上がった。


冒険者たちが、一斉に目を逸らす。

誰も、彼女と目を合わせようとしない。


女性は、誰にも視線を向けなかった。

まっすぐ、俺のテーブルに歩いてくる。


「君が、ユウトか」


低く、澄んだ声だった。

俺は、スプーンを持ったまま固まった。


「は、はい……」


次の瞬間。

氷のようだった彼女の表情が、ふっと緩んだ。


「ずっと、君を探していた」


そう言って、彼女は俺の手を、両手で包み込んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。