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第60話:背中に身を預けて

 子供たちに会えるのは嬉しい。だけど、変わってしまった自分を見て、どのような反応をするのか不安でもあった。


 最後に別れた時にはなかった猫耳と尻尾が生えてしまっただけでなく、子供たちが綺麗だと言ってくれたアクアブルーの髪の色も、シグレと同じ黒髪になってしまっている。


 瞳の色も髪色と同じアクアブルーだったが、黒色へと変わっている。


 子供たちは果たしてシル=クラインであると分かってくれるだろうか。


 仮にシル=クラインだと分かったとしても、人間にはない猫耳や尻尾を見てどう思うだろうか。


 もし子供たちから化け物を見るような目で見られたりしたら――


 「……」


 「どうしました、シルさん?」


 「え? あ、ごめんなさい! キャア!?」


 不安からか、無意識のうちに背負って走ってくれていたシグレに強くしがみついてしまっていたことに気づいたシルは、咄嗟に両手を離したことで体勢を崩してしまう。


 「うわっと!?」


 「ご、ごめんなさい」


 危うく背中から振り落とされそうになったところを、シグレが咄嗟に、しかし強引に抱え直してくれた。


 安堵しつつも、自分の不注意で余計な迷惑をかけてしまったことに、シルは深く謝罪の念を抱きながら、改めてシグレの首に両腕を回し、身を預ける。


 「子供たちのことを考えていました?」


 「ど、どうして分かるんですか?」


 「いや、それくらいしかないかなと……消去法というか、当てずっぽというか……そんな感じです」


 アハハと笑うシグレの顔を伺うことはできなかったが、確信めいた言葉から、先ほどの短い会話からシルの性格を把握した上での回答だったのだろう。


 問題なのは、シグレが『シルは子供たちのことをこう考えているだろう』と思っている内容と、実際にシルが考えていることとの間に差異があるだろうということだ。


 (シグレさんは、私が子供たちの安否を案じているだろうとか、子供たちが私が戻ってこないことを心配しているだろうとか、考えているんだろうけど……)


 実際は、自分が子供たちからどう思われるかという自分中心の不安だ。


 (私は何を考えているんだろう。子供たちが無事であればいいのに! 私がどう思われたとしても……)


 それでも怖い。


 だから、情けなくても、呆れられてしまうかもと思いながらも口にしてしまう。


 「子供たちに今の私がどのように思われるか……怖いんです」


 「今の私って……猫耳や尻尾のことですか? 可愛いと思いますけど」


 「か、可愛い!? いえ、でも……」


 シグレの『可愛い』という言葉に、シルは胸をどきりとさせた。


 可愛いなんて、まさか。


 鏡で見た時、まるでいい歳をした女がコスプレしているみたいで、たまらない羞恥心に襲われた。


 だが、それだけではない。


 助けてもらったシグレには言えていないが――


 (今の私は何なんだろうか?)


 悪夢に閉じ込められていた自身のことが脳裏に浮かぶ。


 肥大化した右腕に、人なんて簡単に切断できそうな鉤爪。


 いや、実際に殺していたのは人ではないが、シルは獣人どもを殺し回っていた、とシグレとラプラスと名乗る魔導生物から聞いている。


 その名残が耳と尻尾というなら……再び化け物のように身も心も戻ってしまう可能性もあるのではないのだろうか?


 冷静になればなるほどに、子供たちにどのように見られるかという不安以外の要素も湧き上がっていく。


 「もし……また、化け物になってしまったら」


 シグレに伝えたくて言ったわけではない。だが、思わず呟いてしまう。


 森の中を駆けるシグレには届くかどうか、か細い声。


 「絶対に大丈夫……とまでは保証はできないけど、そうならないように精一杯助けるよ。戻れば俺よりも頼りになるセブンスという一緒に旅をしている女の子ともいるし」


 「……」


 「子供たちも……助けを求めてくれた黒髪の女の子は、シルさんのことを心の底から心配していたよ。意識が朦朧とした中でもシル先生を助けて欲しいって必死に伝えてくれた。少し容姿が変わった程度では、きっと何とも思わないだろうし、そんなことよりも生きてもう一度会えたことを喜んでくれると思うよ」


 「……うぅ……」


 誰かに頼れるような日々ではなかった。子供たちの前でシルが弱音を吐けば子供たちを不安にさせてしまうからだ。


 自分が頑張らなければいけない。


 そう自分に言い聞かせながらシルはシティの外で過ごしてきた。


 「クロエ、ノルン、ミア、テオ、マコトに早く……会いたい」


 「もうすぐに会えるよ」


 「不安だけど……どんな風に思われても……みんなが生きているなら……それでいいの」


 「うん……きっと大丈夫」


 シルが口にする不安に対して大丈夫だとシグレは言ってくれる。


 そのことがシルには嬉しく、不安が和らいでいくのだった。


 そんなやりとりをシグレの背中に身を預けていると、森を抜け、戻ることを一度は諦めた子供たちの待つ家が視界に映るのだった。

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