第26話:セブンスとラプラスが創られた意味
ラプラスが生み出された理由は、セブンスの使い魔として彼女の魔術のサポートをすること。
それは、建前だ。
サポートすることはできる。また、彼女のサポートをしてゼノ・グラウンドを効率よく攻略することはラプラスの役割であることも確かだ。
だが、生み出された一番の理由は、セブンスの監視であり――マスターがセブンスの体に魂を移し替えた後にマスターの使い魔としてサポートすることだ。
(その時が来るまで、私はセブンスがボディを破壊するような無茶をさせないようにサポートしながら、勘付いていないか監視すること。それが私の役割、いや、私が本来の役割を果たすまでの準備といったところですか)
セブンスは所詮、借宿のような存在だ。
マスターの肉体年齢は、すでに500を過ぎている。魔術によって老化を防いでいるが、それでも限界はある。
(失敗は許されないからこそ、ギリギリまで調整をしたいという気持ちは分かりますが、あまり時間をかけるのも危険だと思うんですが。マスターの希望なら仕方がないですね)
魂の転移は簡単ではない。
誰にでもできるものではない。特にマスターは天才――なんて言葉では生易しいほどの魔術師だろう。
比較対象がゼノ・グラウンドにいないが、自分のような人工生命体を生み出していて、凡人ということはないはずだ。書物でも人工生命体など夢物語のように扱われているのだから。魂の転移など禁忌――
(止めましょう。どちらにしても、マスターがいなくなれば私を含めた魔導人形達も存在が無意味となる。セブンスもマスターの体の器となるのなら喜ぶでしょう)
人工生命体である自分達にとって創造主であるマスターは神であり、自分達の全てだ。
死んでしまっては、自分達の存在価値などない。マスターのために死ねるなら、むしろ本望だろう。
だから、決してそのようなことはない。
――私がセブンスに対して情を感じることなど
*
「ムムム」
タブレットを見ながら、眉間に皺を寄せながらセブンスは唸っていた。
「何をしているんですか、セブンス?」
「へ? うわ、ラプラス!?」
「何を驚いているんですか? これは……?」
驚いた拍子に落としたタブレットを見ると、何かの漫画のコマが映し出されていた。気になったラプラスは魔術でタブレットを持ち上げて、確認しようとするが、
バシ
物凄い速度でセブンスがタブレットを空中で奪い取り、胸の中に抱え込むのであった。
「はぁはぁ」
顔を真っ赤にして、こちらを威嚇するように、絶対に見せてたまるかという剣呑なオーラを漂わせるセブンスが睨みつけてくるが――
「ふむふむ、」
その程度で怯むようなラプラスではない。
こっそりと、セブンスの記憶を覗き見しようとする。
セブンスを監視するために、ラプラスはセブンスの脳にアクセスできるようにされている。
「ふむ……内容から察するに世界を救う勇者に恋焦がれるヒロインの物語ですが。マスターが好きな物語ですね」
「あ! また勝手に私の記憶を見たな!」
「私の特権ですので」
セブンスがラプラスに怒りのままに枕を投げつけてくるが、空中でひらりと回避する。
「それにしても、どうしてこんな本を?」
「そ、それは………もちろん、マスターと話を合わせるために決まっているでしょ!」
「だったら一度読むだけでいいのでは? セブンス、あなたはすでに何回も読んでいるはずではないですか?」
「ッツ〜!!!」
物理的にドカンという音がラプラスに届くと同時に、いつの間にかラプラスはセブンスの部屋の外へと吹き飛ばされる。
攻撃魔術をぶっ放してきたのだろう。
(普通ここまでやりますかね?)
生み出された時は、感情なんて無いような存在だったのに、月日を重ねるほどにセブンスの感情が豊かになっていくのをラプラスは実感していた。
同時にラプラス自体もセブンスに影響を受けていることも実感していた。
ラプラスは、このままこのような時間がずっと続いていくのではないかと思っていた。
マスターとセブンスに仕えながら、ゼノ・グラウンドの調査を進めたり、他の姉妹達と一緒にセブンスを揶揄ったり、魔術の研究をしたりと――そんな日々が。
この日の10日後に、マスターは倒れることとなった。
そして――ゼノ・グラウンドのマスターと魔導人形達の日常が終わりを迎え始める。




