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第23話:自問自答とこれから

 セブンスの魔物退治の見学から研究所に戻った時雨悠人は、自室に戻り、ベッドに寝転びながらセブンスから支給されたタブレットを操作していた。


 タブレットを使っている目的は、外のことを少しでも知るためだ。


 時雨悠人は、3000年近く眠っていたことをセブンスやラプラスとの会話の中で知ることができた。


 その間にどのようなことがあったのか知りたいという興味が湧くのは当然だろう。


 問題なのは、時雨悠人が目覚めたゼノ・グラウンドという閉鎖的な洞窟の中では、3000年が経過したと言われてもあまり実感が湧かないことだ。


 何やらヤバそうな龍とか巨人とか出てきたのには驚いたが、それが3000年が経過したとは実感できるものではない。


 正直に言えば、3000年前に魔王やら、魔物とか出てきた時点でファンタジー要素については多少の耐性ができてしまっていたのもあるかもしれない。見たことない生物程度なら、驚きはするが、簡単に受け入れることができてしまう。


(セブンスやラプラスもな〜)


 二人から外の世界のことを聞こうと思った時雨悠人だったが、そもそも二人ともゼノ・グラウンドから出たことがないというのだ。


 知っているのは、マスターが研究所に持ち込んだ大量のデータを暇つぶしに読んだ範囲らしい。


(それも1500年くらい前から更新されていないらしいんだよな)


 それでも、調べない理由にもならないし、どのようなことがあったのか気になったので、最近は空いた時間を使ってタブレットで本を漁っているのだ。


(日本語で翻訳できてよかった)


 最初は、英語ですらない意味不明な言語で記述されていたため、最初は放り出そうかとも思ったが、ラプラスに日本語化してもらうことができた。


 セブンスに魔導生命体というよりも人工AIの生命体みたいだと言われていた。そして、ラプラスがブチギレた。


(お互いに何が地雷なのか知っているのに、踏み抜いていくとはな……)


 割と本気の喧嘩に発展し、研究所にある修練場で1日中どんぱちしていたのは、良い思い出だ。その場には居合わせなかったし、一緒にいたら流れ弾で死んでいただろう。


(………………やっぱり、良い思い出じゃないな。あの後、1週間近くお互いに無視するわ、俺を伝言係にするし。しかも、どちらかに何かを頼ると、片方は機嫌悪くなるわで面倒だったな)


 遠い目をしながら、その時のことを思い出す時雨悠人。1000年以上一緒にいても喧嘩はするものだなと思うのだが、実際に喧嘩をするのだから年月は関係ないのかもしれない。


「それにしても、俺が眠っている間にも色々とあった、いや盛りだくさんだったというか…………ファンタジー小説の歴史を読んでいるような気分になるな」


 異世界からやってきた魔王と魔物と戦っていたのだから今更だと思うかもしれないが、時雨悠人からすると魔王や魔物にファンタジーというワクワク感は最初から最後まで感じることはなかった。


 ゼノ・グラウンドで見た龍や巨人が、時雨悠人が勇者として戦っていた時の敵なら、多少ワクワクしたかもしれないが、憎悪に満ちた黒いヘドロの群れが大群でやってきてワクワクすることなんてできるはずはない。


 ファンタジーというよりも、グロさに極振りした漫画やゲームの世界が現実にやってきたといった感じだ。


 それに比べて、タブレットで歴史を読んでいると、自分の目で今がどうなっているのか見てみたいという気分にさせられる出来事が多い。


「異世界人、魔族、魔物、それに原住民扱いされている地球人か。軽く流し読みしただけでも、戦争したり、一緒に魔物と戦ったりとイベントが盛りだくさんだな」


 タブレットで読める本は沢山ありすぎるので、気になるのをいくつか読んだ程度だ。


 しかも、おそらく地球の人類視点ではなく、異世界人視点の歴史だろう。その証拠に、時雨悠人が読んだ本では、人類のことを地球人だったり、地球の原住民と呼んだりしている。


 元から地球に住んでいる人類が記した本なら、そのような記し方はしないだろう。


(地球人が異世界人の約定を破って戦争を仕掛けたりとか、魔族が停戦の仲介に入ったとか、気になるワードが多いな。ただ、一つだけ確かなのは…………結局戦い……戦争が歴史の中心だということか)


 異世界人がどのように地球で暮らしていたかといった生活の歴史もあるが、大半は地球人や異世界人同士の争いの内容が多かった。


 時雨悠人がそういった本が気になってしまったからかもしれないが、それでも戦争が頻繁にあったことは伺えた。


「まあ、1500年前までの本しかないから、最近どうなっているのかまでは分からんけど」


 日本の歴史で言えば、平安時代の歴史は分かるが、それ以降の歴史がすっぽりと抜け落ちているといった感じだ。


 知る手段はない。


 ドキドキしながら、世界がどう変わったのか見るしかないのだ。


(それにしても、一応探してみたけど……ないな)


 自分のことだ。


 正確には、自分と魔王率いる魔物との戦いがどのように歴史で記されているか知りたかったのだが、タブレットのライブラリにある本の中に該当するものは、未だに見つかっていない。


 異世界人が記した本が中心だと考えると、異世界人が来る前の出来事が記されていないのは仕方がないのかもしれないが。


「ユウト、そろそろ夕飯の時間ですよ」


「うお! ラプラスか! せめてノックを……無理か」


「無理ではないですが」


「無理じゃないのか……どうやって?」


 球体のラプラスがノック?


 ノックの音でも自分で出すのだろうか?


 そんなことを考えていると、ラプラスからカシュという音と共に、両サイドに小さな穴が開き、手が生えてくるのだった。


「これで扉を叩くこともできますが……面倒なのでやりません」


「まあ、どっちでもいいよ。それよりも、他にもなんかできたりするの? 変形機能があったりとか?」


「あるといえばあります」


「あるの!? み、見せてもらうことは?」


「とっておきなので、今はまだ見せる時ではない……といったところです。それに変形とは少し違います」


「違う? 余計に気になるんだけど……いつかその時が来ることに期待するよ」


「はい、是非とも…………タブレットを使っていたようですが、ユウトは何に使っているのですか?」


「ん? もっぱら歴史の本を読んだりとかかな」


「何か興味を惹くような出来事はありましたか?」


「まあ、大体の出来事に興味があったと言えるかな。異世界人やら魔族やらで、世界がどう変わっているのか気になるし。3000年だからな」


「ユウトは、私やセブンスと違って外の世界を知っていますもんね。気になるのは、当然でしょう」


「ラプラスは気にならないのか? そういえば、セブンスやラプラスは、これからどうするんだ? ここの目的は、俺……というか、俺が眠っていた場所に辿り着いて、何があるか調べることだったんだろう?」


 ラプラスとセブンスから、このゼノ・グラウンドと名付けられた場所で二人でいる理由は既に聞いている。


 自分なんかのために、1000年以上も調査させてしまって申し訳なく思ってしまうが、結局二人はこれからどうするのだろうか?


 他にゼノ・グラウンドで何かすることがあるのだろうか。


 それとも、時雨悠人が普通に活動できるまで面倒を見るために、ここに留まっているだけなのか。


「何か……ですか。何かあるといえば、何もないですね。セブンスがマスターから指示されたことは、ユウトに以前話した通りです。ユウトを発見した時点で完了しています」


「だったら、セブンスやラプラスも俺と一緒にここから出ないか? 正直言って、一人で外に出るのは不安というか」


 ゼノ・グラウンドからは出て行こうと思っている。やはり、外は気になるし、ずっとここにいる理由もない。


 だが、3000年も経過した世界で一人放り出されるのは、正直言えば不安でしかない。何よりも、せっかく仲良くなったのだからセブンスやラプラスと別れがたいというのも本音だ。


 二人もずっとここにいる理由がないのなら、一緒に出られたらいいなと時雨悠人は最近ずっと思っていたりする。


 まだ、何かすることがあるなら、その用事を二人が終わらせるまで待っても良いと思っている。


(それに、二人がいなかったらいつまでここで眠っていたかも分からなかったし。起こしてくれたお礼とか、お世話になったお礼とか……うん、特にセブンスには本当に申し訳ないな)


 思い出しても、顔が赤くなるような出来事だ。


 セブンス本人は自身を人形と言っているが、時雨悠人からしたら10代の美少女以外の何者でもない。


 そんな女の子に、自分の体がうまく動かないとは言え、色々とお世話してもらったのだ。


 照れるなというのが難しいだろう。


 普通の男性の反応として。


 それが時雨悠人が――勇者として一人ぼっちの部屋で、過ごした日々の中でわずかな娯楽の時間に、小説、漫画、ゲームなどで学んだことの一つだ。


「……」


「ラプラス?」


 目覚めてからのセブンスとラプラスの生活を振り返っていた時雨悠人だが、ラプラスからの返答がないことに違和感を感じ始めていた。


(悩んでいるの……か?)


 つまり、自分と一緒に行きたくないのか。


 そう思うと、違和感は、若干………いや、若干どころではない不安感へと変わり出していた。


「ユウト」


「お、おう」


 ラプラスの呼びかけに、うわずった声で応じる。心臓の音はバクバク鳴っている。断られないだろうと思っていたので、全く緊張せずに尋ねたのだが、今は断られるのではないかという思いから、心臓がバクバクと鳴っていた。


 だが、そんな時雨悠人が待っている快諾と拒否の二択とは違う返答がラプラスからされるのだった。


「セブンスを救ってくれませんか?」


 救って……欲しい?


 セブンスを? 一体何から? どういう意味なんだ?


 一緒に来て欲しいというお願いからの返答が、セブンスを救って欲しいという依頼。そのラプラスの言葉に、時雨悠人は戸惑いながら、その真意を問う。


「セブンスを助けて欲しい……って、一体?」


「それは……っと、詳細については夕飯の後にしましょうか。セブンスがそろそろ痺れを切らして、ここに来るかもしれませんし」


「分かった。今日は、夜すぐに寝ないようにするから、セブンスが眠った後にでも俺の部屋に来てくれないか?」


「それがいいですね。」


 セブンスに聞かれたくないというラプラスの意思を汲み取り、セブンスが寝た後を提案し、ラプラスが承諾する。


「それでは食事が冷める前にいきましょうか」


 そう言うと、ラプラスが音もなく宙に浮かびながら時雨悠人の部屋から出ていく。その後ろ姿を見ながら、時雨悠人は言い知れぬ不安を感じるのだった。


 自分がこの場所から去るという決断が、自分が予想していない何かを引き起こしてしまったのではないかと。

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