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第22話:ありがとう

「お疲れ様です、セブンス。少し手こずっていましたか?」


「ちょっとだけね! 本当に普段よりもちょっとだけ!」


 ラプラスと一緒に、魔物を倒し終えたセブンスを迎えに行ったのだが、ラプラスが先ほどのセブンスの戦いについて言及すると、セブンスはムッとした表情で返答する。


 最初は少し危険なのではないかと思っていたが、決着までの流れを見れば、圧勝と言っても良いと思えた。ましてや、イレギュラーで巨人が追加されたのにだ。


 それでも、普段セブンスの戦いを見ているだろうラプラスが言うのだから、少し手こずったような戦いだったのだろう。


 だとしたら――


「それって、魔物が強かったこと? それとも、セブンスの戦いの方に少し問題があったとか?」


「魔物! 私は普段通り戦っていました!」


「ご、ごめん……」


「落ち着いてください、セブンス。ユウトは、あなたの戦いを見るのが初めてなんですから。それよりも魔物の強さです」


 セブンスに原因があったかどうかを聞いてしまったのが、ご本人にとっては癇に障るポイントだったらしい。


 釣り上がった目つきでセブンスに睨まれながら、少し怒気がこもった言葉で否定されてしまい、反射的に謝った時雨悠人だったが、ラプラスが間に入ってセブンスを落ち着ける。


「誤差とは、言えないかな」


「ドラゴンタイプやゴーレムタイプの魔物は強力ですが、抱えていた魔力量や、耐久は2、3ヶ月放置した程度のレベルのものではなかったですからね」


「うん。最低でも数年くらい放置しちゃった時のレベルだった」


「数年……魔物は放置していると強くなっていくのか?」


「此処の魔物は……ね。ゼノ・グラウンドの外の魔物は分からないけど、此処は魔力の濃度が非常に高いから、放置していると魔力から生まれた魔物はどんどんパワーアップしていっちゃう」


「それでも、数ヶ月放置している程度なら、適当に駆除できるレベルのはずでしたが」


「さっき戦ってた魔物は、数年単位で魔力を吸収してきた強さだったってことか。それでも、最初は少し苦戦していると思ったけど、結局は余裕だったんじゃ?」


「数ヶ月程度の敵なら、特殊な耐久も大したことないから、最初の一撃で肉体を切り飛ばしてお終い!だったんだけどね……思ったより硬くて驚いたよ。魔力量が妙に多いからおかしいと思ったけど、よく見たら色々な魔力が混じっているし」


「魔眼で分かるんだっけ?」


 「うん? ああ、ラプラスから聞いたのかな。私の目はちょっと特別で、魔力を視覚で捉えることができるんだ。凄いでしょ!」


 ふふんと胸を張るセブンス。凄いか、凄くないかで言えば凄い。ただ、時雨悠人として、それ以上に凄いと思うことがある。


「魔眼も凄いけど基本属性のマホ……いや、魔術を全部使えるってマジ?」


「マジだよ」


 ドヤ顔だ。たった2ヶ月程度だが、それでも2ヶ月。その中で一番のドヤ顔と言っていいだろう。それだけ、セブンスにとって自慢できることなのだろう。実際に、意味が分からないほどに凄いのだが。


 ただ、基本属性の全部って何だという疑問もある。魔術ってどれくらいの属性があるんだ?


「全部って……具体的に何が全部か聞いてもいい?」


 気になったので、思わずセブンスに尋ねる。その疑問に対する、セブンスの答えは予想以上のものであった。


 詳しく聞いてみると、火、水、土、雷、氷、風、闇、光の基本属性によって構成された魔術から、毒や空間、時間といった属性とは思えないような魔術まで色々と使えるらしい。


「私の知らない属性があるかもしれないけど、それでも大抵の自然にある属性は使えるよ。自然現象なら、私の魔力を超えない範囲なら、大抵再現できる自信もある!」


 そう言うと、セブンスの周囲に赤色、水色、茶色、紫色、青色、緑色、黒色、白色のビー玉サイズの球体が発生する。


 その球体は、セブンスの周囲をクルクルと回ると、セブンスの正面に集まり――1つに重なる。


「これは?」


「セブンスは、属性を合成することもできます」


「基本属性をベースに架空の属性による魔術を生み出すことも、物質化させることもできるんだよ」


 一つになった球体は、鎌の刃のような形態になる。本物の刃のように白銀になっている。


「これって、複数の属性が混じっている……よな? そんな風に見えないけど」


「うん。まあ、属性が多ければいい訳じゃないけど、分かりやすいでしょ。えい!」


 その掛け声とともに、放たれた刃は、既に地に伏せ、息絶えている巨人の胴体を綺麗に切断し、そのまま通過していく。


 ザン


 という音とともに、ゼノ・グラウンドの壁に当たると、どこまで進んだかは視認できないほどの斬撃の痕を残すのだった。


「スッパリといったな」


「適切な属性と配分が難しいんだよね〜」


 アハハと笑うセブンス。


 その様子を呆然と時雨悠人は見つめる。結局目の前で複数の属性を見せられて、合成されても、どうやっているのかは全く分からない。


 分からないが――


「凄いな」


「へ? う、うん。凄いでしょ! 他の姉妹たちも全属性は使えなかったし、合成なんて私が一人で生み出したんだから!」


「まあ、魔術を使うことを目的とされていない姉妹たちもいますので、比較するのはどうかと思いますが」


「え〜い、うるさいな、ラプラス。魔術くらい少し偉そうにしてもいいでしょう!」


「いや、全属性使えたり、属性を合成できたりするのが凄いのは当然だけど……一人で、いやラプラスもいるから二人か。たった二人で、ずっと魔物を倒しながら、ここの調査を諦めずにしていたんだろ? そのおかげで、俺は目を覚ますことができたんだし。うん、凄いよ。それに、本当にありがとう。二人に、起こしてもらって本当に良かった」


 これは心からの本音だ。


 セブンスの魔術が凄いと思うし、ラプラスも意外と生活の中で魔術を多岐にわたって使っていることから、魔術の腕は高いのだろう。そして、そんな二人が他の姉妹やマスターもいなくなった中で、先ほどのような魔物が生み出され続ける場所で、1000年以上も調査を続けていたのは凄いの一言で本来は済ませるべきではないだろう。


 なぜ二人がそこまで頑張ってくれたのかは分からない。分からないが、二人が飛び抜けた力を持っていたこと、なによりも諦めないでくれたおかげで、時雨悠人は目覚めることができ、人生で一番と言っていいほどの楽しい日々を送ることができている。


 だからこそ、感謝の言葉を言いたくなった。


 心からの感謝の言葉を。


(ちょっと恥ずかしいけどね)


 そう思って、二人の反応を伺う。二人に揶揄われるんだろうなと思う時雨悠人だが――


「…………」


「…………ッつ」


 ラプラスは沈黙し、こちらをじっと見つめていた。一方、セブンスは顔を真っ赤にさせながら、口をパクパクさせていた。


「え〜と」


 ラプラスは何を思っているのか分からない。だって表情とかないし。だが、セブンスについては丸わかりである。完全に照れてしまっている。そして、自分が少しずつ熱くなっていくことも感じることができた。


(やばい! ちょっとどころか、メチャクチャ恥ずかしい!)


 自分も顔が赤くなっているのだろうか。鏡があったら確認したい!


「…………ど、どういたしまして。あと……………………私の方もありがとう」


「えっと、ありがとう?って」


 なんでセブンスの方からお礼を言われるんだ?


「………………」


 セブンスは俯いてしまって反応はない。視線をずらし、黙り込んでいるラプラスに視線を向ける。正直、何か喋ってほしい。そして、この微妙な空気をどうにかして欲しい!


 そんな時雨悠人の願いを受け取ってくれたのか、ラプラスは沈黙を破って返答をしてくれた。


「よく、そんな恥ずかしいセリフが言えますね」


「うるさいわ!」


「まあ、感謝と称賛の言葉は素直に受け取りましょう」


「おう」


 ラプラスなりに、気を遣っての発言なのだろう。ここで、セブンスのような反応をしたら、微妙な空気が加速しそうだったしな。


 そんなラプラスの空気を読んでくれた発言に感謝しながら、顔を真っ赤にしたままのセブンスとともに研究施設に戻るのだった。

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