第12話:食事休憩
セブンスとラプラスが色々と質問をしたいことがあるようだが(当たり前だが)、それよりも自分の腹の虫を鎮めるために、先に食事を優先させてくれることになった。
(一度自覚すると、妙にお腹が空くな。勇者として動いていた時は、お腹なんて減らなかったのに)
食事は支給されていたので食べてはいたが、別に食べなくてもどうにかなった。最後の魔王城での戦いは、1ヶ月くらい不眠不休だったはずだ。
(それにルカからの魔力の供給もない?)
いつも感じていた、自分の外側からガバガバと供給される魔力も感じない。自身に内包する魔力しか感じない。
そして、その原因は理解していた。
(魔王を倒した……世界を救ったからか)
ルカとの契約は、世界を救うのに協力する代わりに力を貸してもらうというものだった。そして、時雨悠人は確かに世界を救ったのだろう。だとしたら、今の自分には勇者の時のような無尽蔵の魔力は最早ないということになる。
(一方的というか……まあ、助けてもらったからいいか。それに、勇者じゃなくなったんだし)
これから何をしようか?
そんなことを考えたところで、セブンスから声が掛かる。
「食事を持ってきたよ〜」
そう言いながら、セブンスはテーブルに食事を置いていく。
「ありがとうございます! えっと、これは?」
目の前には、スープ、ライスに様々な食材が混ざったもの、切った野菜の盛り合わせに、薄っぺらい円形の何かが置かれていった。
「うん? とりあえず、野菜スープに、チャーハンに、サラダに、あとピザ。あ、これ飲み物ね。好きなの注いで」
空のコップを時雨悠人の目の前に置くと、そこに飲み物が入った容器をドン、ドン、ドンと置いていく。
「これは?」
「お茶に、ジュースに、水。もしかしてお酒飲む?」
「いや、大丈夫……です」
子供の頃に食べたような食事を目の前にして、喉が自然とゴクリと鳴る。思わず、料理名を聞き返してしまうほどに。
別にチャーハンやピザを知らないわけではない。ピザは食べたことがないが、チャーハンなら食べたことはある。
だが、そんな記憶はすでに遠い昔に感じる。味なんて思い出すこともできない。
「ユウトは、もしかして和食や洋食や中華がごちゃ混ぜなのは許せない派だったりしますか? 残念ながらセブンスは、そんな細かいこと気にしないので、今回は諦めていただけると」
「シグレのなんとも言えない反応は、そこが原因? セカンドみたいな反応をして!?」
むーっとむくれるセブンスを見て、時雨悠人は慌てて誤解を解く。セカンドって何?という疑問は一旦置いておき。
「いや、気にしてない。こういった食事を食べるのが久しぶりなせいで驚いていただけで!」
「こういった食事?」
ジト目で睨んでくる様子を見ると、食事の出来が悪い方向に捉えているのかもしれない。全く違うのだが!?
「いや……普段は、もっと栄養はあっても味気ないものばかりだったというか、こういった手作りで美味しそうなものを食べていなかったからで……」
「美味しいかどうかは、食べてからですね。私は食べられないので、是非セブンスの料理の腕を評価してください」
「うぐ!? い、一応レシピ通りだし。これでまずくても私のせいでは……」
「えっと……それじゃあ」
ブツブツ言いながらセブンスは、対面に座る。
「味の保証はしないけど……どうぞ」
「それじゃあ、頂きます」
時雨悠人はスプーンをゆっくりと持ち、湯気が出ている野菜スープを掬い、ゆっくりと口につけようとするが。
カラン
「あ!」
「ご、ごめん」
スプーンが手からこぼれ落ちる。スプーンが重いわけではない。手が思ったように動かないのだ。
慌ててスプーンを拾い上げようとするが。
「ッつ!」
手が震え、カタカタとスプーンが皿を叩く。
(どうしてこんなに体が自由に動かないんだ?)
自分自身に苛立つ。どうにかして、スプーンで再度スープを掬おうと挑戦するが、セブンスの手が割り込む。
「ほら、貸して」
半ば強引にスプーンを奪うと、そのスプーンでスープを掬い、時雨悠人の口に突きつけてくる。
「ほら、アーン」
「漫画で見たことあるシーンですね。病人の恋人に――」
「ラプラス、シャラップ!」
「…………えっと?」
「ほら、いいから食べる!」
「そ、それじゃあ」
ホッとするような野菜の甘みとコンソメの旨味が口に溢れる。
美味しい。だが、この美味しさが家庭レベルか、レストランに出てくる料理と同じレベルか、それとも実はインスタントレベルなのかどうかは、時雨悠人には分からなったりする。
そんなのは、どうでもいいことだった。
魔王との戦いで飲まず食わずだった時雨悠人からしたら涙を流したくなるほどに美味しかった。何よりも、誰かが作った料理などいつ以来かも分からない。ましてや、誰かに食べさせてもらったことなど記憶にない。
※
「ご馳走様でした! メチャクチャ美味しかったです」
全て食べきった。野菜スープ、サラダ、チャーハンも、ピザも全て美味しかった。
その様子を見たセブンスは、両腕を組み、ドヤ顔でラプラスに自慢する。
「だってよ!ラプラス! 昔の私じゃないんだよ!」
「魔導人形も成長するということですね。私個人としては、昔のようにマスターや他の姉妹たちの顔を青くさせて、ぶっ倒す光景も見てみたかったですが」
「ぶっ倒す? え?」
もしかして、セブンスは料理の腕が致命的にだめだったりするのだろうか?
(いや、美味しかった。それとも、俺の舌が?)
セブンスとラプラスの様子を見て、皿を空っぽにしてしまったことに若干恐怖を感じ始める時雨悠人だが。
「あれは1回だけだ! その後は、倒れなかったし、マスターは美味しいって言ってくれた」
「1回でも起こしただけで、セブンスの調理技術は疑わしいですよ。けれど、シグレの様子を見ると、本当に美味しいのでしょうね。頑張りが無駄にならずに済んでよかったですね」
「……ふんだ」
不意に会話が止んだ空間で、時雨悠人としては、どうしても気になることがあった。
(他にも誰かいるんだよな?)
今座っているテーブルは、長テーブルとなっていて、10人近く座れるほどの大きさになっているからだ。それに、二人の会話からも、『マスター』、『セブンス』、『他の姉妹たち』というワードが出てきている。加えて、ラプラスは『魔導人形』とも言っていた。
「えっと、セブンスさんとラプラスさん以外の人たちって――」
「『さん』はいいよ。というか、そう言ったよね?」
「同じくです……私たちもあなたのことを呼び捨てにしていますね。それとも、やっぱりシグレさんの方がいいですかね?」
「あ、えっと、セブンスに、ラプラス……」
二人のツッコミに言い直す。人とまともに会話したのが久しぶりなせいで、失礼にならないか気になるのだ。
「それで、他の人たちですね……この施設には私とセブンス以外はいないです」
「二人だけ? でも、さっきマスターや他の姉妹って」
「それは――」
「もういない」
ラプラスの説明を遮って、セブンスが答える。
「この施設を、そして私や他の姉妹たちを作成したマスターは、もうこの施設を去った。他の姉妹たちもね。残っているのは、私だけ」
セブンスの表情から何か感情を感じることはできなかった。声色からもだった。ただ、淡々と言葉を紡いでいくだけだ。だからこそ、これ以上聞いていいのか一瞬迷う。
だが、話の流れとして聞かないわけにもいかない。
「そうなんです……ね。どうして、セブンスとラプラスだけが?」
「知らない」
「…………」
これ以上言うことはない。そんな感じで、セブンスは、会話を続ける雰囲気を出さなかった。代わりにラプラスが会話を引き受ける。
「セブンスがヘソを曲げてしまったので、この話は今度ということで。それよりも――」
「曲げてない!」
「他にも聞きたいことはありますか? こちらとしては、聞きたいことや、確認したいことが結構あるのですが」
「そう……ですね。この施設の目的や、魔導人形?という単語とか。あと、ラプラスは……ロボット?でいいんですかね?」
とりあえず、気になっている点を羅列してみる。
「なるほど。その質問に答える前に、私の方から一つ聞いてもいいですか? もちろん、ユウトの質問に後程答えます」
「あ、はい。自分に答えられることならなんでも」
質問に質問で返されたが、ラプラスのニュアンス的に、自分の質問にも関わることらしい。どちらにしても、質問されることはなんとも思わない。
「ユウトがどれくらい眠っていたか確認したいのですが――どれくらい眠っていたか、わかりますか?」
「どれくらい眠って……いた?」
気にしていなかった。どれくらいだろうか?
(数日? いや……あの結晶の中に眠っていて、しかも掘り起こされていたことを考えると……あれ、かなりの期間だったりする!?)
嫌な汗が流れ始めているのを実感する。体が動かないのもそれが原因だったりするのだろうか?
視線を上げると、ラプラスのレンズ、そしてそっぽを向いていたセブンスもじっとこちらを見つめていた。
「………………1年…………くらいだったりする?」
「いいえ」
「だったら、半年とか?」
「逆ですね。もっと長いはずです。何せ、私たちがゼノ・グラウンド探索を始めたのは…………1500年以上前ですから。ですので、最低でも1500年以上はユウトは眠っています」
「……………………へ?」
なんですと!?




