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課題6 決闘をやり遂げろ①

「……また待ち伏せですか?」



 仕事終わり、仕事場の扉を開け帰路に着こうとしたロイは、廊下で待ち伏せていた人物を見つけて深いため息を吐いた。



「そんな顔するなって。どうしても君に伝えたいことがあったからこうしてわざわざ来ているんだよ?」



 あからさまに嫌な顔を向けられたジルは苦笑いを浮かべて応えた。



「どうしたのですか?」


「ここではあれだから……僕の部屋に少しいいかな?」


「……わかりました。」



 ジルが部屋に呼び出すということはあまりいいことではない。だが聞かない方がもっとよくないため、ロイは諦めたように返事をし、ジルの部屋に向かった。




「疲れているところごめんね。」


「そう思うなら仕事後に来ないでください。」


「君のためなんだよ。耳に入れておいた方がいい話だ。」



 護衛もロイがいるからと下がらせたジルは、念のためと部屋に鍵をかけるとロイに向き合う形で腰を下ろした。



「どういうことですか?」


「まずはごめん。」


「どうしたのですか?!」



 突然ジルが頭を下げたので流石のロイも驚いた。いくら友人だといっても、ジルは王子に変わりない。頭を下げるというのは余程のことなのだ。




「兄上が……やらかした。」


「やらかした?」


「師団長殿がキャロライン嬢からお菓子を貰っていると嬉しそうに話しているのを聞いたらしく、冗談でそれは恋人のためではないかと言ったみたいなんだ。しかもその相手は君じゃないかと……当てずっぽうで当てるとはどうかと思うけど……とにかく申し訳ない。」


「……それで師団長殿は?」


「もの凄い勢いで雄叫びを上げて、仕事を放棄して帰宅したらしい。……今夜あたり君の邸に来るかもしれないよ……。」


「なるほど……。」


「君が心配なら誰か君の邸を確認させに行こうか?これは完全に兄上の失態だから。」


「ありがとうございます。でも必要ないです。」


「まさか……決闘を受け入れるの?」


「……そのつもりです。」


「ロイ!君は……そうか……そのために君は努力していたもんね。でも相手は熊だよ?」


「戦い方は一つではないんだよ……ジル。」



 言葉を崩し目に力が宿っているロイにジルは目を丸くした。こういう時のロイは必ずやり遂げると知っていたからだ。


「……それも想定済みということかい?」


「もちろん。クレマチスを舐めてもらっては困るからね。」


「流石だよ……。僕に手伝えることは?」


「ならば一つだけ頼みたいことがある。」


「それは王子としての僕に?それともジルである僕に?」


「両方だね。」


「最高の答えだ!ならば話してくれないか?」




 ロイはそこである計画をジルに話し出した。ロイの計画はあまりに壮大で、流石のジルも情報量の多さに驚いていた。



「待って……ロイこれ……君が1人で考えたの?」


「はい。私の希望をどうやったら叶えられるか考えていた時に、ちょうどいい話が舞い込んできまして。皆が頭を抱えていましたが、私はこれを活かせると思いました。まぁ少々犠牲というか……苦労はかかりますが……。ちょうどあなたの兄には借りができましたので、少々お仕事を頑張ってもらえればと思います。」


「そんなことしなくても、君の希望など私の一言でどうにかできるよ?」


「それではあなたを利用したと言われ続けます。自分の力で認められないと意味がないのですよ。」


「……なるほど……それで僕ではなく兄上を……。」


「この国にとっても、いやあなた方兄弟にとってもいい話だと思いますよ?全てが同じタイミングで片付きます。特に……あなたにはチャンスだと思いますが?」


「ロイ……君は本当に恐ろしいよ。だが頼りになる。好きにしていいよ。どうせ逃げられない問題なんだ。ならば利用させてもらおう。兄上には反省していただくためにも頑張ってもらうとするよ。」


「ありがとうございます!」


「仕事量が多くなるけど大丈夫か?一つアドバイスだ。どんなに忙しくても……彼女のことを疎かにしないこと。下手をすれば君の心が離れていると誤解を与えかねないからね。」


「それはあなたから学んでいますから。私を誰だと思ってますか?そんなヘマしません。」


「ロイ、君は本当に最高の友人だよ。何か困ったら言ってくれ。力になる。これは君だけの問題ではない。国の問題でもあるからね。」


「ありがとうございます。」


「君は私からの特別な任務に当たるとフランには説明しておくし、仕事は回さないように伝えておくよ。この問題に集中してくれ。」


「ありがとうございます。助かります。」


「とりあえず……まずは熊問題を頑張って。」


「ご安心を。そこは1番対策済みです。」


「流石クレマチス!明日登城後僕の部屋に来て。ゆっくり熊の話を聞かせてくれ。もちろんフランには午前中君を借りると伝えておくから。」


「公私混同ですよ。」


「これも立派な作戦会議だ。熊問題が躓くと、君の計画が狂うからね。大切な情報共有だよ。」


「わかりました。では必ず明日伺います。」


「ロイ……無理しないでね。」


「ご安心を。私のことはジル……君が1番知っているはずだ。」


「間違いない!ロイ、君なら大丈夫だ!」




 ジルは笑顔でロイの背中を叩くと彼の健闘を祈った。ロイはそれに笑顔で応えるとジルの部屋を後にし帰路を目指す。


 馬車に揺られて帰る途中、ロイは様々な想定を考えいた。きっと明日にでもアルフレッドはロイの元へやってくるだろう。その際いかに平常心でいられるかが重要であった。大丈夫、何度もイメージトレーニングはしてきた。よほどのことがない限り問題ない。ロイは心の中で何度も言葉を反芻し、自身を奮い立たせていた。


 そんな時だった。突然馬車が屋敷の手前で止まってしまったのだ。



「何があった?」



 邸まであと少しの所で急に止まるため、ロイは何か問題が起きたとすぐに判断し、馬車を操縦する従者に声を掛けた。従者はあからさまに震えており、尋常でないことだけが伝わってくる。



「もっ……申し訳ありません。その……熊が……」


「熊?」


「熊が道を塞いでおります。」


「この場所は熊が出ないはずでは?!」



 流石のロイも慌てて従者の目線の先を見つめると、薄明かりの中に確かに熊が一匹、道の真ん中に陣を取り、こちらを見つめて静かに座っていた。

 大人しく座っていることから攻撃はしてこないとなんとなく分かる。ならば何故一度も現れたことがないこの場所にいるのか説明できなかった。



 ロイは護身用に身につけている短剣を握りしめた。従者は馬車の操縦には長けているが戦闘は不得意だ。ここは自分がなんとかしなくてはいけなかった。



 ロイはもう一度馬車の中から熊を確認する。暗くて見えにくいが、どこか見覚えがあった。

 ロイは馬車を降り熊に近づいていく。従者は制止するがその声を無視して近づいていった。


 熊はロイが近づいてきても動くことはしなかった。しっかりとロイの顔を見つめており、まるでロイを待っているようであった。




「サブローか?」



 熊との距離が近づいてくるとロイは熊に声を掛けた。熊の見分け方など知らないが、サブローだと直感で感じた。

 サブローと呼ばれた熊はまるで人の言葉が分かるかのように頷くと、顔を上げた。


 まるで何かを見せるようなその動きに合わせるようにロイが顔を傾けると、いつのまにか着けられていたサブローの首輪に手紙がくくりつけられていた。




「これを僕に?」



 再度サブローに尋ねるとサブローは静かに頷く。ロイはその手紙を受け取りすぐに中身を確認すると、胸ポケットに入れていたペンで返信用に添えられていた紙に返事を書くと、再びサブローの首にくくりつけた。




「これを託してもいいかな?」



 ロイの問いかけにサブローはまた静かに頷く。ロイが思っているよりも熊は人の言葉を理解しているようであった。




「任せたよ。」



 ロイがそう呟くとサブローはゆっくり立ち上がり帰っていってしまった。

 それを見送ってから馬車に戻ると、従者は未だ震えたままロイを心配してくれていた。



「大丈夫だ、問題ない。馬車を出してくれ。」


 ロイの言葉で従者は馬車を走り出す。心なしか先程より速度が速く感じるのは、彼が怯えており早く帰りたい気持ちが表れているのかもしれない。



 邸までの道のり、ロイは先程書かれた紙に目を通す。そこには「明朝、決闘を挑む」と書かれており、ついに対峙する時が訪れたことを示していた。




「想定外すぎる……。」


 決闘を挑まれるのは想定内だ。だが熊で挑戦状を送られるとは予想していなかった。言葉がわからない、感情も読めない熊の対応は流石のロイでも身震いしてしまった。



「さすが……ハンスリン家……。」


 以前父親であるクリスの言葉を思い出しつい言葉を溢してしまう。誰が熊を伝令として寄こすと考えるだろうか。願うなら熊の相手はこれで勘弁してほしい。ロイはそう願いながら家路に急いだ。

お読みいただきありがとうございます

本日より課題6の始まりです



続きは明日の11時に更新予定です




引き続きよろしくお願い致します

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