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課題4 2人の関係を誤魔化せ②

「キャロライン様、お茶のご用意ができました。」



 ロイに邸まで送ってもらったキャロラインは、簡単な別れの挨拶をしてすぐに自室へ籠った。籠ったというより無理矢理連れて来られたという表現が正しいのかもしれない。


 キャロラインを邸で出迎えたネモは、キャロラインの顔色が優れないことにすぐに気がついた。無意識にロイを睨みつけていたのであろう、ロイはネモに仕事の時にするような微笑みを返すと「少し疲れたみたいだ。休ませてくれ。」とだけ伝えて帰っていってしまった。



 その言葉を聞いたネモはロイの馬車を見送ることもせず、キャロラインを急いで部屋に連れて行くと、ソファに座らせリラックス効果のあるお茶を用意したのであった。




「ありがとうネモ。」



 キャロラインは淹れられたばかりのお茶を一口飲むが、その表情は硬いままであった。



「キャロライン様、どこか体調が優れませんか?」


「そんなことはないわよ。元気よ。」


「ではなぜこんなにもお辛い表情なのですか?出かける前はあんなに楽しそうでしたのに……。」



 ネモの問いかけにキャロラインは手に持っているカップを握る力を無意識に強くしてしまう。その些細なキャロラインの心情の変化による動きをネモは見逃さなかった。



「何かあったのですね……。あの男!紳士づらしてキャロライン様を弄びましたか?少しお待ちください!これから追いかけてあの男の息の根止めて参ります!」


「待って!ネモ!!違うの……ロイ様は何もしていないわ。むしろ……私なの……。」


「キャロライン様が……!!ロイ様を弄んだのですか?!!!」


「違うわ!!あーもう何から説明しましょうか。とりあえずあなたは座って。順を追って説明するわ。とにかく弄んだとか弄ばれたとかそんな話ではないのよ。」



 キャロラインのことが大好きなネモは、とんでもない勘違いをしてあろうことかロイの息の根を止めに行こうと息巻いていた。流石に慌てたキャロラインが止めてことなきを得たが、ネモには全て白状するしかなかった。




「今日は国立公園へピクニックだったの。」


「国立公園でしたか……。大丈夫でしたか?」


「美しい花畑はとても素敵だったわ。それに素敵な泉もあると聞いてそちらへ散策に行くことにしたの。……最近大人しかったから安心したの。でも……ダメだった。」


「もしかして……出ましたか?」


「その通り、出たのよ……。ここ数年姿を見せなかったのに何故今日かと頭にきたわ。」



「それは怒りたくもなりますね。」


「そうなの。そんな頭になっていた時に、人が襲われそうになっているのを見てしまって……」


「もしかして……説教をされたのですか?」


「そう……気づいたら頭に飛び蹴りしてたわ。ロイ様の目の前で……。」


「飛び蹴り……」


「せっかくのお出かけを邪魔されて、人が傷つけられそうになってて……頭にきてしまったの。だから加減を間違えて高く飛んでしまったわ。」


「高く飛ぶ……」



 ネモはキャロラインの言葉を聞きながら想像を膨らます。どう考えてもキャロラインが天高く飛び、その勢いのまま熊を目掛けて蹴りを喰らわすとんでもない光景しか目に浮かばなかった。




「強い女は封印したはずなのに、身体が勝手に動いてしまったの。どうしましょうネモ!!私絶対嫌われるわ。」



 キャロラインは嫌われるという言葉を呟いた途端、今まで隠していた感情が堰を切ったように溢れ出し、それが涙となって流れていた。ネモはそんなキャロラインの背中を静かに摩る。




「ロイ様がそのようなことを言いましたか?」


「いいえ……。かっこいいと言ってくださいました。」


「ではその言葉を……」


「信じたいです。でも本心は隠して言葉だけ伝えることはできます。本当はこんな女嫌なはずよ。きっと怪力女って……あの方も思うはずよ。」


「キャロライン様……。まだあの言葉を引きずっていますか?あれはただの戯言ですよ。」


「……怖いのネモ。信じたいのに……嫌われると思うと……傷付くと思ってしまうと……信じるのが怖いわ。」


「キャロライン様!傷付くのが怖い気持ちは分かります。キャロライン様が沢山傷付いていることも知っています。ですが……今のキャロライン様は余りに失礼です!」


「失礼?」


「ロイ様を信じると言ったはずなのに、今まで出会った男性と同じと決めつけてロイ様を見ようとしていません。ロイ様の気持ちを知ろうとせず距離を置いたり、信じないのはあまりにも失礼です!」


「………………。」


「あの方はそんな方ですか?今まで出会った男性と同じですか?」


「……違うわ。ハンスリン家のキャロラインではなく、1人の女性として見てくれる方よ……。」


「そうです。キャロライン様がそうお考えになるのなら、その気持ちを信じましょう。」


「…………そうね。ネモ……ありがとう。」


「いいえ。それにしてもキャロライン様。ロイ様のこと好きになられてますよね?」




 話が落ち着いたキャロラインがお茶を口に含んだと同じタイミングでネモが問いかけてくるため、キャロラインは盛大にむせ返った。



「ケホッ……ネモあなたなんてことを……」


「ロイ様に嫌われるのが怖いと泣かれるなど、恋以外ありませんよ?」


「………………これが恋なのかしら。分からないけど、ロイ様のことを考えると心が暖かくなるのに苦しくもなるの。」


「キャロライン様、きっとそれが恋です。」



 ネモはとても優しい目でキャロラインを見つめる。ようやく訪れた恋の気配に嬉しくて仕方なかった。


 キャロラインも友達以上の関係だとは感じていた。だからこそ今日少し進みたいと伝えたところだ。だが少しどころかかなり気持ちが進んでいたなど気付かないフリをしていた。それをネモがはっきりと恋と伝えたことで、隠していたはずの感情が溢れ出してくる。


 恋をすることに憧れはあった。だがどんな感情が恋なのか分からなかったし想像できなかった。こんなにも誰かのことを1日のうちで何回も考え、考えるだけで胸が温かくなったり、苦しくなるのは初めての経験だ。

 これが恋だとしたら、なんて恋をするのは大変なことなのだろう。大変だが不思議と嫌ではないこの感覚……恋とは言葉で伝えることは難しいが、とても素敵な感覚であるとキャロラインは感じていた。




「そういえば、国立公園ということは騎士と会いましたか?」


「そうなの……。でもね、ロイ様が私達は偶然出会ったことにして説明してくれたわ。あっでも熊の件は私からお兄様に伝えることにしたの。その方が詳細に伝えられるしね。」


「キャロライン様が熊と戦い、側に男性がいた……今この情報だけがアルフレッド様のところに届いているということですね。」


「ええ……そうだと思うわ。」


「キャロライン様、ロイ様とのご関係うまく説明できますか?矛盾点なく偶然出会ったと伝えられますか?」


「えっと……お友達と泉に出かけたと伝えるつもりよ?」


「そのご友人はどなたを?」


「そうね……誰にしましょう。」


「キャロライン様、そのご友人私にしましょう!」


「えっ?!何故?」


「いいですか。ご友人の名前を伝えたら確実にあのバカ兄……すみませんアルフレッド様は裏をとりにいきます。そこで嘘に気付かれてしまいますよ?」


「そんなことするかしら?」


「普通はしません!ですが、キャロライン様の側に()がいたのなら別です。ここで選択を間違えると……ロイ様に害が及びます。」


「それはだめね!分かったわ。じゃあ貴女と出かけたにしましょう。」


「出掛けた理由は、有名な泉を一目見たかったにしましょう。最近熊が大人しかったから安心していたと。」


「わかったわ。」


「そして私達は物陰に隠れ、私は騎士を連れに離れた隙に、キャロライン様が逃げ遅れた人を見つけて咄嗟に動いてしまった……こうしましょう。」


「わかったわネモ。でもどうしたの?そんなに慌てて……」


「キャロライン様、一刻の猶予もありません!いいですか今の話覚えてください。」


「ええ……覚えたわ。」


「キャロライン様、ご覚悟を。私の予想ではもう間もなく嵐が来ます。」




 ネモの言葉の意味がわからずキャロラインは窓の外を見つめるが、空は気持ちいいほどの青空でとてもこれから嵐が来るとは思わなかった。

 だが嵐はネモの予想通り本当にやってきた……このハンスリン邸のみに……。

お読みいただきありがとうございます

課題4のタイトルを変更しました



続きは明日の11時に更新予定です




引き続きよろしくお願い致します

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