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課題3 ミソニの大熊の妹④

すぐにロイが状況を説明するが、ロイがこの場にいたことに驚いた騎士達は、ロイの隙がない弁明術にすっかり信じ込まされていた。



「ではロイ殿が混乱に気付き駆けつけた時には既に、こちらのご令嬢がこの男性を守ろうとしていたわけですね?」


「はいそうです。間違いありません。」


「ではすみませんがそちらの女性。少しだけお話よろしいでしょうか?」


「私ですか?」



 騎士に声をかけられたキャロラインが騎士の方に振り向けば、騎士はキャロラインの顔を見て目を丸くしていた。



「これは……第一師団長の妹君ではありませんか?!あのお怪我は?」


「怪我はしておりません。こちらの男性が転んだ際に擦り傷をしております。」


「分かりました。それで熊はどちらに?もしかしてロイ殿が倒されたのですか?」


「いや違う……。熊は帰った。」


「帰った?!暴れていたのに?!」


「あの……私の顔を見て落ち着きを取り戻し……帰っていきました。」


「……なるほど。さすが師団長の妹君。お噂は間違いなかったのですね。」


「はい……。あの……このことは兄には私から詳しく伝えておきます。ですのでこれ以上の熊の捜索はやめていただけませんか?」


「師団長が采配されるなら私達は勝手に動くことはできません。では報告は上げさせていただきますが、詳細をお伝えすることはお願いいたします。」


「ありがとうございます。」


「それにしてもこんなところでロイ殿とキャロライン嬢に出会うなど、すごい偶然ですね!」


「本当に。私も先程あなたが名前を告げるまで知りませんでしたが……こんな偶然あるのですね。」


「ロイ殿はキャロライン嬢をご存知ではなくて?」


「ええ……。私が夜会嫌いなのはご存知でしょう?」


「そうでしたね。……すみませんくだらない話をしてしまって。お2人ともお怪我がなくて本当によかったです。我々も警備の見直しをさせていただきます。この度はご迷惑をおかけしました。」


「熊の動きは読めないですから。もし何か策を練る必要があるのなら関わった手前お手伝いさせてください。」


「クレマチス様が案を出していただけるなどなんと助かることか。是非騎士とは別の視点からのご意見をお聞かせください。」


「分かりました。では後程話し合いの場を設けましょう。」


「よろしくお願いします。それではもう帰っていただいて構いません。キャロライン嬢、よろしければ私達で馬車までお送り致しますが?」


「いえ……その……。」



 キャロラインは騎士からの提案に口篭ってしまった。このまま送られるとハンスリン家の馬車がないこと、一緒にこの場に来た友人がいないことが気付かれてしまう。だがロイとこの場所に来たことは言えるわけがない。

 どうしようかと悩んでいるキャロラインがロイに目をやれば、ロイは視線を合わせず堂々としていた。



「もしよろしければ私にその役目を任せてくださいませんか?」


「ロイ殿が?」


「あなた方はこちらの男性の看病とこの一体の見回りを行うでしょうからお忙しいはずです。幸い私は本日休暇中の身。このまま帰るだけですから、いく先が同じならば私がついでに送っていきますよ?」


「よろしいのでしょうか?」


「構いません。キャロライン嬢、私が送るでもよろしいでしょうか?」


「はい……。よろしくお願いいたします。騎士様達ありがとうございました。」


「では私もこれで。失礼いたします。」



 ロイとキャロラインは駆けつけた騎士達に挨拶をすると、手は繋がず適度な距離を保って歩き出した。

 見送った騎士達は2人が親密な関係であるなど誰も気付いていない。

 2人は無言でそのまま歩き続けたが、いつしか2人の距離は近くなり、自然と手を繋いで歩き続ける。

 その後ろ姿は騎士達が見送った姿とは異なり、誰がが見ても恋人同士のようであった。



 ――――――――――――――――――――――



「キャロライン、僕は決して君から離れたりしない。信じて欲しいし、全て話してくれないかな?今日の君はどこか不安そうな顔をする時があった。それはこのことだったの?」



 

 馬車に戻ったキャロラインは動き出した馬車の中でロイから質問を受けていた。馬車を走らす前、ロイは従者に1時間程かけて帰るようにと伝えていたため、キャロラインから話を聞く気は満々のようであった。



「ロイ様……。あの……幻滅していませんか?こんな凶暴な女……」


「さっきも同じ言葉を言ったね。確かに君の強さには少し驚いたけど、幻滅はしていないよ。むしろかっこいいと思ってしまったよ。」



 俯いていたキャロラインがロイの言葉で顔を上げれば、そこには顔を崩したように笑うロイがいた。愛想笑いではなく心からの笑顔は、幻滅しているという考えを簡単に打ち消してくれていた。




「かっこいい……。怖くないのですか?」


「怖くはないよ?あっでもキャロラインは怒らせちゃだめだと思ったかなー。」


「ロイ様には怒りません!」


「そうかな?ほらもし僕が他の女性と一緒にいるところを目撃したら?」


「……それは……その女性にご挨拶に伺うかもしれません。」


「ハハッ……キャロライン、君は……僕のことかなり気にしてくれているんだね。」


「もうご冗談はやめてください。」


「ごめんごめん。でも君がそこまで僕のことを想ってくれていることは素直に嬉しいよ。それに、やっと目を見てくれた。」




 ロイの話はキャロラインを揶揄っているようで、実際は俯いていたキャロラインの顔を上げさせるためのことであった。その目的通りキャロラインは顔を上げ、ロイと普段通り話ができるようになっていた。




「キャロライン、全て話してほしい。僕は君のことを全て知りたいんだ。この場所を避けていた理由や、先程の騎士の反応……全て教えてくれないかな?」


「分かりました。全てお話しします。」




 キャロラインはそこから言葉を選びつつ、ゆっくりと話し始めた。

 国立公園を避けていた理由は、熊が近くに生息していたためであった。熊が怖いからなのかとロイは一瞬考えたが、先程の行動はとても怖い人が行う行動とは思えない。

 ロイはその疑問を口にすると帰ってきた答えは家族で国立公園に近付くと、生息している熊が怖がるからだと聞き言葉が詰まる。

 確かに先程キャロラインが行ったスキンシップは過剰すぎるが、あれは緊急時の行動のように思える。ならば熊達は何を怖がるのか……ロイは全く想像できなかった。


 そんなロイの考えに気付いたのか偶然なのか、キャロラインはその説明を始めてくれた。

 ミソニの大熊、つまりキャロラインの兄であるアルフレッドは熊のボスのさらに上、熊の世界の頂点に君臨している。普段の熊の生活は熊のボスが管理しているが、一度人間の生活圏内で熊が問題を起こすと、アルフレッドが行動を起こすことになっている。

 問題を起こした熊はアルフレッドから大層過激なスキンシップと言う名のお仕置きをされるそうで、熊達は何よりもそのお仕置きを恐れているというのだ。



 つまり熊の生活圏内にアルフレッドが近づくだけで、熊達はアルフレッドがスキンシップ(お仕置き)しに来たと怯えてしまうため、熊の生活圏内には問題がなければ近づかないようにしているというのだ。


 それならばアルフレッドだけが近づかないようにすれば良さそうな話なのだが、何故かキャロラインも近づいてはいけないというのだ。その理由もまた驚くべきもので、アルフレッドが熊の頂点に君臨した際、熊達に可愛い妹であるキャロラインに怪我をさせたり傷を負わせたらスキンシップ(お仕置き)では済まさないと伝え周知させてしまったのだ。スキンシップ(お仕置き)で済まさないということは、熊達にとっては命に関わる問題が発生しそうである。熊達もアルフレッドの気迫から本能でそのことを読み取ったらしく、熊の世界では何よりもキャロラインを傷付けることだけはしてはいけないと知られているそうだ。


 だからこそキャロラインもアルフレッドと同様、熊の生活圏内に近付くと熊達を怯えさせてしまうため、近づかないようにしていたというのであった。



 そしてアルフレッドが熊の頂点として彼らに意見できるように、アルフレッドの妹であるキャロラインの意見も熊達はすんなり聞いた。キャロラインの意見に逆らうことは熊達にとってボスの意見を無視するのと同じ考えなのだ。


 ミソニ国の熊はアルフレッドとキャロラインの意見だけは聞くようになっており、そのことを熊の生活圏内を警備にあたる騎士達だけは知っていたため、先程の騎士はキャロラインの姿を見て納得していたのであった。




「ミソニの大熊の妹はミソニの大熊と並んで、熊達にとって逆らえない相手と言うわけなんだね。」


「そういうことです……。」


「だから先程のサブローだっけ?あの熊はキャロラインを見て大人しくなり君の指示に従ったと言うわけか……。なるほどよくわかったよ。」


「誤解して欲しくないのは、いつも熊の問題は兄が対応しており、私は対応していません。彼らの名前を覚えたりするぐらいです。ですから今日初めてあのように熊を止めてみたんです。」


「えっ?!あれ初めてだったの?」




 あんなに軽やかな身のこなしがまさか初めてと言うのは俄には信じられなかった。高く飛び確実に熊の頭目掛けて蹴りを喰らわすなど初めてであそこまで的確にできるなど信じられない。ロイがやれと言われてもできる気がしなかった。



「初めてです……。ですから力加減を間違えて高く飛びすぎてしまいました……,」


「なるほど……加減を間違えたんだ……。」



 加減を間違えたと言っているということは、少なからず加減をしたことだけは分かる。手加減をしないキャロラインの威力がどれほどのものなのかロイは考えようとしたが、予想もつかず諦める。それよりもやはりキャロラインを怒らすことは絶対にしてはいけないと心に誓うのであった。

お読みいただきありがとうございます

これで課題3は終わりです


明日からは課題4に入ります



続きは明日の11時に更新予定です




引き続きよろしくお願い致します

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