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第6話「4月30日 AM6:04~」

やっと主人公「東新田墾」の立ち位置を説明できた。

大事なことなので、前書きで書く。

主人公は可愛いヒロイン(たつ)のお母さんになりたいのですよ。

男色でもお姉でもなく、純粋な男でありながら母性溢れる男の子主人公ってアリだなと思って考えてみた。

お母さんの日記系の漫画やブログで大まかな理解を得て、自分的に面白い感じにあえて積極的に勘違いした方向の性格にしてある。

世界電波塔

─ 四人の転校生 ─

第6話「4月30日 AM6:04~」


北朝鮮、海州

造船所所有のドック

地下詰所

ここに最新の医療機器や、やはり最新の計測機器が詰め込まれている

壁に沿って並べられたそれらの機器のわずかな隙間、そこに少女が一人床に座り込んでいる

逃げ場も隠れる場所もないこの部屋

可哀想に。わずかな隙間しか、彼女には無かったのだ

完全に心安らぐ場所なんてない

せめて、わずかな隙間で、可能な限り身を隠す。多少でも現実から目を背ける

世界電波塔に選ばれた少女、小江戸八重葉(こえどやえば)

彼女の腰には直径9cmの円がある

全く光を反射しない、何もない様に見える円。まるで小さなブラックホール

自分は一体どうなってしまったのか?

自分の身に何が起こっているのか?

可愛そうに。何一つ、彼女には分っていない

だれも、なにも彼女に教えてはくれない

いや、事実をそのまま伝えたなら、彼女の不安は理性を食い散らかす無数の餓鬼となって、正気を失ってしまうだろう

彼女はか弱くつつましい

力も富も権力も、何も望んではいない

男を魅了するいやらしい体も、同性を歯噛みさせる妖精のような肢体も、彼女は望んでいない

飛び級でオックスフォード大学に進学できるような頭脳も欲してはいない

万人に愛される、明るい太陽のような性格ですら、彼女は望んでいない

無論、魔法や超能力の様なフィクションの世界にだけ存在する特別にも、まったく興味がない

いわんやFAKE NEWSのネタなんて

可哀想に。欲のない意に反して、彼女は特別な力を得てしまった

特別な力をめぐって、争いは起こり、人が死ぬ

直径9cmの円の先に、目には見えないが大きな力がいる

見える、

見える

八重葉(やえば)には、牡丹(ぼたん)やマリコのような死角空間(イグノアドエスパス)を認知する能力は無かった。しかし今、腰にある第二の脳が、彼女にFAKE NEWSの世界を見せる

9cmの円の先に居る、異形の巨大機械が見える。世界電波塔が見える

第二の脳はまた、彼女に夜な夜な夢を見せる

とても、とても美しい夢だ

彼女にとっては悪夢

強いもの

怖いもの

優れたもの

日常に波風を立てる全てから彼女は逃げる

その夢を見るごとに、自分が幻想の美しさに傾倒して行くのが判る

自分の中に微塵もなかった筈の欲が育って行くのを感じる

大きな力が自分に見せる美しさを現実のものにしたいという、人の枠を超えた欲求

可哀想に。ねむりの時間ですら、彼女は安らぎを得る事が出来ないのだ

可哀想に

可哀想に

彼女は世界電波塔

全てを変質させる、恐るべき力を持つ


造船所ドックの上家

被り物の二人

一人はバケツを被った少年

一人はAmazonのダンボールを被った少女

時速90kmで走れる歩行補助機を足に装着した少年と少女

歩行補助機にもまた、直径9cmの円が存在する

二人の前に跪くは少年兵スーダン

「また、失敗をしたな。スーダン」

「あなたは簡単なお使いも出来ないのね。スーダン」

褐色の少年兵は黙してうつむき、一方的に叱咤される事を許している

叱咤されることには慣れている

死ねとまで言われた事もあるし、殴る蹴るは日常茶飯事だった

リンチを受け、半殺しにされた事もあった

何をされても、少年兵は逆らった事がない

理由があろうとなかろうと、上官の虫の居所が悪ければ、自分はひどい目にあう

そういうものであった

少年兵スーダンには妹がいる

重い病に苦しむ、たった一人の肉親

自分の命より大切な存在

貧しい子供が妹を守るには、戦場に出るしかなかった

学歴もコネも何もない。ましてや子供

持っているものは命だけ。命を売るしかなかった

そして、命を買う買い手に、まともな組織なんてあろうはずがない

彼にお鉢が回ってくるのは、まともではない組織の中でもとりわけ常軌を逸しきしたクソな仕事

警察官を殺せ

それが今回の任務だった

しかし、

褐色の少年兵は輸送ヘリをしとめそこなった

正確には、ヘリは仕留めたのだが、八重葉救出隊の5人に傷一つ負わせることが出来なかった

(はじめ)、マリコ、(あらし)(ひらく)(たつ)

殺すに難い強者である

特に、あの女…(あらし)

(あらし)の顔を思い浮かべると、心を失った少年兵の中に、例えがたい感情が荒れ狂うのだ

この世に正義なんてものがあると、本気で信じている頭の悪い女

度胸と腕っぷしはいっちょ前のド素人

何よりも、すべての人間を平等に見る世間知らず。人の命の価値は、不平等に定められているのだ。それが、現実なのだ…なのに…あの女は自分を…

「なんだ?悔しいのか?スーダン」

「あなたが人並みに悔しがるなんておこがましいわ。スーダン」

はっと、少年兵は自分自身に驚いた

眉間にしわを寄せて歯噛みをしている

ばかな

自分のどこに、この様な激しい感情があるものか

あってはならないのだ

そうは思っても、

脳裏の雛壇にちらついているのは、長身の少女の姿

あの女

あの女が現れてから、彼の呼吸が、歯車が狂い始めた

少年は、すべてに冷めた自分を取り戻すため、客観的に自分の感情を整理する

夏野嵐(なつのあらし)

正義を信じるまっすぐな目

女性ながら恵まれた体格

一々筋が通った言動

良く通り、人の心を動かす声

正義のサラブレッドだ

自分は、あの女の存在が許せないのだ

あの女の存在を許すということは、自分…いや、妹の存在を否定すること

妹は不幸で、それは神によって定められた運命だと気付くこと

先ほど、激情に流されて、すこし気付いてしまったが

だが、その様な結論に至るわけにはゆかないのだ

妹は、妹だけは救われなければならない

妹は…妹が絶望の中死を待つだけと言う選択肢はあってはならない

隣人は救ってくれない、国は救ってくれない、世界は救ってくれない、神は救ってくれない

自分が妹を救うしかない

隣人を犠牲にしても、国を裏切っても、世界を滅ぼしても、神に唾しても

だって、誰も助けてはくれなかったではないか

妹を思い、胸が張り裂けそうになる

「どうした、スーダン。何をそんなに苦しがる?」

「仕事が辛くなったのなら、いつでも捨ててあげるわ。スーダン」

「いいえ…」@スーダン

少年の仕事は人殺し、

「…借りを返さなければならない女がいます。あの女を殺すまでは使っていただきます」@スーダン

挿絵(By みてみん)

妹が不幸であるという証拠はこの世から抹消しなければならない

生まれながらに、妹とは真逆な立場にある、あの女は消す

文字通り消す

「お前が、その様な生意気を言うとは珍しい」

「面白いわね、いいわ、好きなようにしなさい」

Amazonの箱で顔を隠した少女は、歩行補助機を装着した足で、運命にゆがまされた少年を蹴り飛ばした

被り物の二人は去ってゆく

残された少年は孤独の中強く、痛みを抱いて立ち上がった


”牡丹ちゃん大好き”

日本にあこがれている少女ナーラからのLINE

「えーと、」@牡丹(ぼたん)

牡丹(ぼたん)はデレを隠蔽しながら、”100点”と彼女の日本語を採点した

”わわい”

”45点⇒わーい”

牡丹(ぼたん)はLINEの返事では冷静に採点しながら、心の中ではお前の可愛さが一億点といきりきって採点していた

牡丹(ぼたん)の鼻の下は伸びきっている

「…でわなく、」@牡丹(ぼたん)

”すまんが2日間音信不通になる”

と、ナーラちゃんにLINE

数秒間があって…ナーラちゃん入力中

時間がかかっている。おそらく単漢字で漢字を探しながらの入力

”音信不通ってなに”

”音信不通⇒おんしんふつう⇒完全に連絡が取れない状態”

”わかった”

”100点”

LINEの向こうに、新しい日本語を覚えたナーラちゃんの嬉々とした笑顔が見える

可憐なヒナゲシが咲くような笑顔が

牡丹(ぼたん)はナーラちゃんに萌えながら、お前の可愛さは1億百千万兆点だと思っていた

「牡丹ちゃん。そろそろ飛行機の時間だけど、」@喜多野(きたの)

ぼそぼそと話すオッサン喜多野(きたの)は24時間営業のGEOで買い求めた中古のスマートフォンをいじり、ため息をつきながら仕事を探している

牡丹(ぼたん)はポーカーフェイスを保ちながらも、かわゆいナーラちゃんに対する興奮に思わず鼻血を滴らせながら「OK。今、すげー充電できた(ナーラちゃんで)」と返答をした

HondaJetに乗り込む喜多野(きたの)牡丹(ぼたん)

「あれ?」@牡丹(ぼたん)

喜多野(きたの)は操縦席に滑り込んだ

「おっさんが操縦するんか?」@牡丹(ぼたん)

「え?そうだよ」@喜多野(きたの)

「大丈夫なんか?」@牡丹(ぼたん)

「大丈夫だと思うよ」@喜多野(きたの)

「思うよ?根拠はあるんだろーな」@牡丹(ぼたん)

「根拠ってゆーか、これ、オジサンの飛行機だから。乗り馴れてるし」@喜多野(きたの)

「どんだけ金持ちなんだてめーわ!!」@牡丹(ぼたん)

牡丹(ぼたん)は社会的不平、収入の格差等に激昂し、拳を振り上げた

「金持ちって…そうなのかな?あんまり綺麗なお金じゃないけどね。はぁ…真っ当な仕事をして、百万円でいいから、綺麗なお金を手にしてみたい」@喜多野(きたの)

「百万が金の最小単位みたいな言い方、勘に触るわー」@牡丹(ぼたん)

「資産運用で社債とか買うときは百万円単位だよ」@喜多野(きたの)

「金儲けにせいが出るなおい。その有り余る金の一部でも寄付しようとは思わないのか?」

「考えたことはあるよ。でもね、やっぱり何に使われているか解らないからねー。最終的にズル賢い狸どもの小遣いになるかもと思うと考えちゃうよね」@喜多野(きたの)

そんな会話をしながら、喜多野(きたの)のプライベートジェットは離陸した

「直接北朝鮮に行くのか?」@牡丹(ぼたん)

「そうだよ。今、あいつらの目は警察(ラ・インビジブル・ポリス)に向いている。我々はノーマークだからね。感付かれる前に北朝鮮に入るんだ」@喜多野(きたの)

「なるほど」@牡丹(ぼたん)

「この好機を逃したら後がめんどくさいから、中埜鐘さん、必死で牡丹ちゃん誘ったのに。半殺しにしちゃって」@喜多野(きたの)

「てへ」@牡丹(ぼたん)#てへぺろ

夢の小型ビジネスジェット機が、夢の終わりを告げる朝日に向かって溶けて行く


韓国

仁川

マリコは皿に山盛りのデジカルビに舌鼓をうっている

「低深度航行船?それは潜水艇ではないのか?」@(あらし)

(あらし)は不思議そうに顎を撫でまわしながら、(はじめ)に問うた

「フン、さぁな。博士号をお持ちの先生どもの言い分だからな。俗人には計り知れないというんだろうぜ」@(はじめ)

「要は学術上の区分ってことか?」@(あらし)

警察(ラ・インビジブル・ポリス)は揚陸作戦用の船を造っただけさ。学者連中が”これは完全に水中で活動可能なのかね”云々と謎かけをはじめ、最終的に新しい区分を作ったのさ」@(はじめ)

「低深度航行船ってか」@(あらし)

(はじめ)は面倒そうに頷いた

「やれやれ面倒な」@(あらし)

(あらし)も肩をすくめる

二人の掛け合いを見て、(ひらく)(たつ)がくすくすと笑っている

警察のキャリア組と永遠の風紀委員

信条こそ異なるが、二人はどこか似ている

(はじめ)をよく知る(ひらく)(あらし)をよく知る(たつ)だからこそ、同意に至ることができた

己の心情に対して、真摯であり、曲げることがない

恵まれた才能と約束された将来

(はじめ)(あらし)の共通点

「兄さんの足元にも及ばない僕より、センパイの方がずっと兄妹に見えるよ」@(ひらく)

やや自虐的、寂し気にうつむく弟

その(ひらく)の肩をそっと抱く(たつ)

(あらし)の命格を羨み、己の空虚さに絶望してきた彼だからこそ、偉大なる兄の弟として生まれ落ちた凡人の気持ちはよくわかるのだ

しかし、彼には把握しきれなかった弟の気持ちがあった

可愛い生き物を愛してやまない、少年の心を

(たつ)の母親になりたいと願ってやまない少年、(ひらく)の母性を

(ひらく)は、(たつ)というきゃわゆい小動物に積極的に肩を抱かれ、心拍数は92%まで上昇。とてつもない興奮状態にあった

そして弟は、どうやったらこの状態をより長く維持し、いや、二人の関係を進展させるにはどうしたらよろしいのか?どうやったら、母として受け入れてもらえるか?それを考えていた

きゃわゆい小動物は、自分(墾)の言葉に同情をしたに違いない

自分と辰きゅんの心が一つになるカギはお互いの似通った境遇にある

「千の眼を見開け、カミオカンデ」@(ひらく)

「え?何?なんて言ったん?」@(たつ)

「な、何でもないよ」@(ひらく)

弟は誤魔化した

カミオカンデをこっそり起動したことをごまかした

重機(パンドラスマシーヌ)カミオカンデには、三日で仮想通貨長者になれるほどの、スーパーコンピュータ真っ青の演算能力がある

(ひらく)はこの能力を金儲けのために使ったりなんかはしない

ロマンのために使うのだ

彼はこの演算能力で、一紡ぎの言葉を完成させた

「お互い、出来過ぎの年上に前を歩かれると立場がないよね」@(ひらく)

「そうだね、」@(たつ)

きゃわゆい小動物は弟の肩に頭を預けてきた

”キタ──────────────ッッ!!!!”流石カミオカンデ!カタログスペックに謳われた演算能力に嘘はない

弟の心拍数は102%に上昇。理性はふっとぶ寸前にある

至福の最中しかし、何を思い直したのか、かわゆい辰きゅんがムッと膨れて(ひらく)から三歩離れた

「でもね、嵐ちゃんより俺の方が兄弟子だから」@(たつ)

どうやらこの小動物。自分が(あらし)より立場が上と言う主張は取り下げたくないらしい

そのように言い張る小動物の姿は無論可愛いのだが、彼との距離はゼロから1.27m4mmにまで離れてしまった

ほんの一跨ぎの距離ではあるが、密着状態と空間を介する状態とでは、特上うな重と鰻のタレ飯程の違いがある

これでは意味がない!

カミオカンデが出した答えは最終的に間違えだった

膨大な演算能力が聞いてあきれるぞカミオカンデ!

警察(ラ・インビジブル・ポリス)の、いやさ国家の英知なんて所詮こんなものか!

所詮、ディープ・ブルー/ソートシステムの二番煎じなのか?

最先端技術?ちゃんちゃらおかしいわ!!

弟の心拍数は53%にまで一気に低下した

「ところで、なんで年下の辰くんの方が兄弟子なんだい?」@(ひらく)

それは悪意のない質問であった。軽く即答いただけると考えていた

「えっと、それはねぇー」@(たつ)

ところが(たつ)はことのほか答え難そうにしている

「二人とも何をしている!早く船に乗り込め!出発だ!」@(はじめ)

(はじめ)がGPS腕時計を指さしている

二人が自分の腕時計を見ると、カウントダウンが始まっている

やばし!

二人の少年は走った

AM06:10:13。二人が乗り込むとすぐに、揚陸作戦用低深度航行船「ヰ─19」は出航した。GPS腕時計には”定刻通り”と表示されている

揚陸作戦用低深度航行船「ヰ─19」はバスタブの様な形状をしている

上面は緩やかな凸のカーブを描くが基本平べったい

そしてそのわずかに出っ張った上面が海面上に露出している

バッコン

上部のハッチが重たげに開き、顔を出した(あらし)が周囲を見渡す

そしてまた、船内に戻っていった

「この船、外から丸見えではないか!」@(あらし)

(あらし)(はじめ)に食ってかかった

「騒ぐな。これで波にまぎれて視認され難い事が証明されている。実験でな」@(はじめ)

「護衛は無いのか?」@(あらし)

「この船は極秘裏に開発され、本作戦で初の運用となる。敵に情報がない上に高いステルス性能。単独の方が作戦の成功率が高いというのが本部の判断だ」@(はじめ)

どうにも台本を読むような心の入っていない返答に、(あらし)はため息をついた

「あのなぁ、東新田兄。そんなのこの船の有用性を吹聴したい開発責任者のたわごとに決まっているだろう」@(あらし)

「フン、」

「上の言うことを一から十まで聞いていたら、命が百あっても足りないぞ!」@(あらし)

「小娘に説教をされるまでもない」@(はじめ)

「ならばなぜ、護衛をつけない」@(あらし)

「自分のために誰かの命が犠牲になるのは、儀を欠くのでは?」@(はじめ)

「わたしが命を捨てるのは、今ではなく、今夜だと言ったな?」@(あらし)

舌戦は五分で両者引く気配はない

二人の掛け合いを見ていた(ひらく)(たつ)

「あの二人、仲いいのかな?」@(たつ)

(たつ)は皮肉をため息に込めて呟いた

そんな生意気を言う(たつ)(ひらく)は可愛ゆくてしようがない

「そうだね。あの二人、やっぱり似てるんだよ」@(ひらく)

「うががぁっ!」

マリコが水平線の向こう…正面に匂い立つ殺気に拳を構えた

これを見た(ひらく)は己の重機(パンドラスマシーヌ)を起動

「千の眼を見開け、カミオカンデ」@(ひらく)

マリコが睨む先の映像を船の作戦モニタに送った

「!?」@(はじめ)

息を飲んだ

海上に戦車と歩兵がずらりと並んでいる

「に、兄さん」@(ひらく)

海上足場(シーエシャフダヂ)。なぜ奴らが、」@(はじめ)

(たつ)が作戦モニタの前に出て、画面に映し出されている海上足場(シーエシャフダヂ)の上に手を置く

「聞いた事がある。確かわが国でも開発中だった…いや、何だこれ?日本のじゃないか!縁に並ぶ三角形の羽…あれは、バージョン0.19以降の特徴だ」@(たつ)

(あらし)が「やはりそうか」とため息をつく

「本土決戦を嫌い、海上でケリをつけようと言う発想…陸地に国境を持たず、自衛を目的とする日本ならではだ。ほかの国が作るものか」@(あらし)

「フン、日本が開発中の兵装の設計図をくすねて、臆面もなく己の手柄と実践投入。あの国が絡んで居そうだな」

都合1kmの敵兵の壁が万里の長城の様に立ちはだかっている

「計画のリスケジュールが必要になるが、航路を変更するか」@(あらし)

揚陸作戦用低深度航行船「ヰ─19」の頭上を、先ほどから何幾かのドローンが通り過ぎて行った

「ヰ─19」は海上においては視認されにくい。そのおかげで、いまだこの船は敵に発見されていないようだ

「墾、航路を再計算しろ」@(はじめ)

(ひらく)は頷き、目を閉じて集中した。カミオカンデの演算能力で航路を計算する

間もなく船の作戦モニタに、敵陣を迂回する新しい航路が表示された

「フン、スケジュールは3時間遅れといったところか。許容範囲内だな」

新しい航路をカミオカンデから船の自動航行システムにロード、そのとき、

「うがああああっっ!!」

マリコが吠え、船のコントロールパネルに飛びついた

自動航行を手動に切り替え舵を握り、(ひらく)に「うがっ!」と視線をくれる

「なにっ!墾!」@(はじめ)

「判っているよ兄さん」@(ひらく)

また…SPring8の砲撃

敵は80km以上彼方。それに気づくマリコや恐るべし

カミオカンデの千の眼で300mm砲弾の軌道を読む

「マリコさん!取舵一杯です!!」@(ひらく)

「うがっ!」

船は大きく左に傾く

しかし(ひらく)は天井を見据えたまま歯噛み

「だめだ、間に合わない」@(ひらく)

「マリコ!永久橋で押せ!」@(はじめ)

彼女は舵を足で固定しながら、肩に引っ掛けていたFuryganのジャケットに袖を通し、ジッパーを上げた

「永久橋!突進!」@マリコ

二輪にまたがる

船外

何もないところから、ごつい三本指の鋼鉄の巨腕が現れ、船を左に押した

どおおおおおおっ!!!!

船の右を砲弾がかすめて行く

瞬間、船は海中に沈められ、次に飛び上がるように浮き上がってきた

300mm砲を完全に避けることはできなかったのだ

300mm砲の怒声が鳴り止むと、船内に水が吹き出る音が聞こえてくる

(たつ)がすばしっこく音のする方へ走る

「右舷後方天井、浸水!」@(たつ)

「フン、穴を塞いておけ」

(たつ)はパッキンとグルーガンを手に浸水か所に駆け寄った

グルーガンの特殊な接着剤は水にぬれた母材でも接着する。と、いうか水中ですら母材を接着する

樹脂製のパッキンを亀裂に押し付けて接着してしまえば十分な応急処置になるのだ

「うわあっ!」@(たつ)

その(たつ)の悲鳴を聞いて、(あらし)が駆けつけた

少年の小さな体は天井からどっと襲ってきた水流によって、船内を走る鋼管パイプに叩きつけられたのだ

(あらし)(たつ)を引き起こしながら「天井崩落!」と(はじめ)に叫んだ

もう、(あらし)の踝まで海水に浸かっている

「マリコ緊急浮上だ!永久橋も使え!」@(はじめ)

「うがあっ!!」

三本指の鋼鉄の巨腕が船底を押し上げる

そのまま海上数メートルの高さ

天井が下を向く、斜め135度

鋼鉄の腕に、まるで神にでもささげるかのように掲げられた船は「ヰ─19」

まだ、排水が続いている

船内の海水をすべて出し切らなければいけない

傾いた船内。5人は天井と壁に足を置いて立つ

天井も壁も配管などの凹凸で足場には向いていない

右足が悪い(はじめ)にマリコが肩を貸す。MotoGPレーサーを後輪一輪でスタンディングスティルさせながら。器用なことだ

船内の海水が亀裂から走り出て行く

鋼鉄の腕を潮水がしぶきを飛び散らせて走り、海面を穿つ

滝のようであった水流は、やがてその勢いを失い僅かな水滴となる

船内の海水を出し切ったのだ

「よし、下ろせ」@(はじめ)

「うが」

巨大な鋼鉄の腕は、ヰ─19を海面に置き、そしてどこへともなく消えた

この間、海上足場(シーエシャフダヂ)に配置された戦車は全く動く事ができなかった

125mm滑空砲なら狙える距離だったのに

突如海に現れた巨大な鋼鉄の腕

それは船を高々と持ち上げていた

圧倒された

信じられない光景だった

言葉が出なかった

「フン、重機(パンドラスマシーヌ)一般公開の観衆が100人と少々の軍人とは色気のない」

いよいよ我に返った戦車の全砲門がヰ─19に照準を合わせる

もう、逃げも隠れもできない

海の藻屑となるのを待つばかり

「ぼ、僕が何とかするよ」@(ひらく)

震える右手を左手で押さえて、(ひらく)が一歩前に出た

「いいや」@(あらし)

かぶりを振ったのは鬼の風紀委員、夏野嵐(なつのあらし)

ヰ─19はもう逃げも隠れもできない

敵陣を突破するしかない

1kmにわたってずらりと並んだ敵兵だけでも厄介なのに、おそらくSPring8の300mm砲が狙っている

空爆も考慮に入れる必要がある

手持ちの重機(パンドラスマシーヌ)。マリコのメクロン河永久橋と(ひらく)のカミオカンデ。これは温存したい

「東新田弟とマリコさんは敵陣を突破し、北朝鮮に突入してくれ」@(あらし)

「でもそれじゃあ…」@(ひらく)

3人を見捨てることになる

「フン、それが最善手だな」

困惑する弟の逃げ場を、兄はふさいだ

弟は建前を捨てて、本心を吐露する

「僕なんか、兄さんがいないと…無理だ…」@(ひらく)

パァン

兄は弟の頬を平手ではたいた。弟の人造の肉体にそのような攻撃は効かない

だが、心には響く

「お前とマリコがいれば、作戦は可能だ。海底を抜けて北朝鮮に入れ。世界電波塔を奪還しろ」@(はじめ)

兄の言葉に有無を言わせる余地は全くない

弟は、今にも泣きだしそう。人造の身体で泣くことはできないが

それではあんまりなので、(あらし)が弟の肩に手を置いた。心の角を撫で丸めるように

「お前ならできる。わたしが花マルをくれた唯一の男だからな」@(あらし)

「僕は、兄さんとは違うから、」@(ひらく)

(あらし)はとぼけて呆れ顔を作り「当たり前だ。こんな傍若無人が何人もいてたまるか、面倒な」と笑いを誘う

「自信なんか持たなくていい。そのうち兄の様になってしまうぞ」@(あらし)

「一々私を引き合いに出すな」@(はじめ)

(あらし)は警察のキャリア組を鼻で笑う

「いいか弟。できるまで挑戦を続けろ。自信がなくても、結果が出なくても、人に後ろ指をさされても。笑われてもだ。なすべきことがあるならば諦めるな。そうすれば出来ないことなんてこの世にはない」@(あらし)

(あらし)(ひらく)の背中をはたいて送り出した。マリコがいる方へ

彼女は既に、艦底のハッチの前に立っている

彼女の自動二輪のハンドルを握って居る

マリコを見て弟は思う

彼女は兄を慕って居るはずだ。誰でも見ていればわかる

彼女は、兄をこの場に見捨てる様なことになって、何とも思わないのだろうか?

彼女自身についてだって、兄と離れて不安ではないのだろうか?

「うが」

ハッチが開き水面があらわになると、彼女は二輪にまたがり、迷わず海中へと飛び込んだ

兄をちらりとも見ずに

「兄さん、マリコさんは薄情だ」@(ひらく)

「たわけが。お前が”飼い主とペットの信頼関係”を知らないだけだ」@(はじめ)

信頼。兄とマリコさんのつながり。言いたいことはわかる??…が、弟はまだその真の意味を感じ取れない

「そうかい?じゃぁ行くよ。三人とも無茶はしないでくれ」@(ひらく)

「フン、私達を心配するなら仕事を成せ。私達の生死にかかわらず、作戦の成功がお前の兄と戦友の為になるのだ」

「分かったよ、」@(ひらく)

かなわないな

弟は、兄との距離に寂しそうな表情を見せ、海中へと消えた

ドド─────────ンッ!!

戦車砲の集中砲火を浴びた揚陸作戦用低深度航行船「ヰ─19」

飛来する砲弾に殴り砕かれ。砕かれた破片がまた別に飛来した砲弾に殴り砕かれる

船の破片は後方に長く飛び散った

この大惨事でも、マリコは後ろを振り返ろうとはしない

巨大な鋼鉄の腕に自動二輪諸共握られたまま、海中を進む

彼女の息はもって四分

四分後には一旦海面に出なければいけない。人目につかない場所で

海底を自分の足で走って進む弟は呼吸を気にする必要がない。人造の身体だから

そのぶん彼女より余裕があるからと言うわけではないが、3人が心配で後ろを振り返った

カミオカンデの千の眼で大破した船周辺を確認する

3人は水中スクーターで脱出していた

「東新田兄、このスクーターでは北朝鮮に向かうにも韓国に戻るにも距離がありすぎる」@(あらし)

(あらし)は背中に対物ライフルを背負って居る

「フン」

(はじめ)はサブマシンガンと替えのマガジンが入ったバックパックを背負って居る

「敵の船を奪っても3人では運行できないっスね」@(たつ)

(たつ)はバックパックにC4を詰め込んできた

「帰りのことは考えるな。永久橋とカミオカンデはまだここに居る。そう言う演出をするのだ」@(はじめ)

「やれやれ。八重葉のために命を捨てる時期が半日早まったわい」@(あらし)

「嵐ちゃん。先行するから、援護よろしく」@(たつ)

(たつ)は敵陣にまっすぐ進んでゆく

(あらし)は1km続く海上足場(シーエシャフダヂ)の片端を目指して斜めに進んだ

ちゃぽん

対物ライフルの銃身が海面にちょこんと顔を出した

100mも離れていると、これがなかなか人の目に入らない

(あらし)は水中で、水中スクーターの上に立っている

スコープマウントに取り付けたカメラが海面に出るまで、そーっと持ち上げる

カメラの映像は、彼女のHMD(ヘッドマウントディスプレイに映し出される

彼女の肩から腹部まで広く、20×102mm弾発射の衝撃に耐えるための樹脂プレートでおおわれている

「59式戦車か。乗員は4名。悪いがそれぞれどこにいるのか、頭に入っている」@(あらし)

(あらし)は四回引き金を引いた

「ごぶうっ!!!!」@(あらし)

初めて味わった20×102mm弾の衝撃は彼女の胸を圧迫し、鼻や口、そして目からも空気が逆流した

銃声に驚いた兵士が、何事かと海を探すがもう遅い、彼女はとっくに銃身を海中に引っ込めて場所を移している

そして敵兵士は、味方の戦車一台が完全に沈黙していることに気付くのだ

彼女のAPFSDS弾体は、戦車の乗員を無駄弾無しで打ち抜いていた

(あらし)は水中から様子を伺い、警戒が手薄な位置から次々に戦車を沈めて行く

(たつ)は相棒が敵兵を混乱させている隙をついて、敵の足場(シーエシャフダヂ)船底に取りつき、C4を設置、爆破した

十分に距離をとっていたつもりだったが、思いのほかC4の威力があり、彼は余波に巻き込まれ、水中をぐるぐると回転した

余波が過ぎ去って、やっと上下がわかるようになり、周囲を見渡すが、自分がどこにいるのかわからない

GPS腕時計を確認する

40mも水中を押し流されたようだ

C4の威力にぞっとした

逆に(あらし)に獏流の影響がなかったか心配になり、無線を入れる

「嵐ちゃん大丈夫!?」@(たつ)

「え?ああ、調子よくやっているよ」@(あらし)

「いや、さっきの爆発」@(たつ)

「おう、派手にやったなぁ」@(あらし)

「あれに嵐ちゃんが巻き込まれたかと心配になって」@(たつ)

「多少波が来たよ。でもこっちは100mくらい距離をとっているから問題ない」@(あらし)

「よかった。次は量を間違えないよ」@(たつ)

「いや、量に余裕があるなら次も同じくらいがいい」@(あらし)

「え?」@(たつ)

「連中の慌てぶりを見てみろ。演出効果抜群だ」@(あらし)

(たつ)は海面にちょこんと頭を出した

彼もHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を装着している

これは高解像度カメラも装備しており、その映像を見ることができる

(たつ)HMD(ヘッドマウントディスプレイ)正面のタッチセンサー部を指でピンチして見えている映像を拡大した

煙がもうもうと立ち上り、大騒ぎになっている

隊長らしき人物が無線をしているのを見つけた

きっと重機(パンドラスマシーヌ)が居ると勘違いをして作戦室に報告しているに違いない

すると雷鳴がとどろき、雨が降り出した

いよいよ隠密の二人には都合がいい

暗雲垂れ込める中、海は薄気味悪く黒ずんで居る

(たつ)

可愛らしい少年

少年の素直な髪は、天を味方につけて、いよいよ殺意に濡れて行く

小ぶりな顔

顎から滴った雨水は海に落ちると、海面に広がり鋭い殺気を伝播する

魚が震えあがり

クラゲが震えあがり

敵が震えあがる

もう、この二人が重機(パンドラスマシーヌ)であった

「分ったよ、嵐ちゃん」@(たつ)

(たつ)は水中に戻りGPS腕時計で、自分の水中スクーターの位置を確認した

描写が後回しになったが、GPS腕時計はHMD(ヘッドマウントディスプレイ)とBluetoothでペアリングしており、タッチセンサー部をスワイプすればHMD(ヘッドマウントディスプレイ)に情報が表示される

(たつ)は泳いで水中スクーターを回収しに行った

「フン、さすがは御庭番本家の血筋。ガキの仕業とは思えないな」@(はじめ)

(はじめ)は200m離れた位置から学生二人の仕事っぷりを見ていた

「あれは日本の平和を守る命格。ここで私と共に散るには惜しい」@(はじめ)

警察のキャリア組は水中スクーターの設計深度ぎりぎりまで深く潜った


「げほぉ!ごほっっ!!」@マリコ

海面に頭を出したマリコが盛大にせき込んだ

結局5分以上粘って意識が途切れる寸前での深呼吸

頭が完全に海の上に出るのを待てず、顔に海水がまとわりついた状態で呼吸をした

いらぬ海水が気管に入った

「こほっ!」@マリコ

「大丈夫ですかぁ」@(ひらく)

(ひらく)が寄り添って、彼女の背中をさする

そしてすぐに海中に隠れようとする彼女の腕を抱えて止めた

「その状態で潜っても一分と持ちませんよ。ちょっと落ち着きませんか」@(ひらく)

マリコはため息をついてうなだれ、咳き込んだ

「ほらぁ。周囲はカミオカンデで警戒しておきますから」@(ひらく)

(ひらく)は彼女の背中をやさしくたたいた

何もない空間から、巨大な鋼鉄の腕が現れた

先端にニッパーのような、何かを押し切るハサミが取り付けられている

「しばらく横になっていてください」@(ひらく)

マリコは特に反発することもなく、年下に言われるがまま、自動二輪を腕の上に乗せ、自身も腕の上に寝そべった

少年は腕の先端、ニッパーの上に立っている

何もない空間から生えた腕が、海面すれすれを滑ってゆく

マリコの身体をどっと疲れが襲う

今まで警察(ラ・インビジブル・ポリス)重機(パンドラスマシーヌ)を操れるものは彼女一人だけであった

彼女が、たった一人で踏ん張るしかなかった

メクロン河永久橋

警察(ラ・インビジブル・ポリス)が急遽建造した、突進することしか能がないブルファイター。誰も乗りたがらない

マリコは自殺行為にも等しい、その役目を引き受けた

重傷を負ったからと言って役目を離れることも、死ぬことすら彼女には許されなかった

カミオカンデは完成していたが、操れる者がおらず、彼女の負担が減ることはなかった

今は違う

(ひらく)が居る

兄の(はじめ)、常にピリピリと神経をとがらせているエリートとは違う、緩み切った表情で可愛いものが大好きな、母性溢れる男の子

彼の存在は以前より知っていた、(はじめ)の弟ということもあるが、死角空間(イグノアドエスパス)を受け入れられる人材───つまり重機(パンドラスマシーヌ)…その中でも特殊なカミオカンデを操れるものとして知っていた

兄はその弟の資質をひた隠しにしていた

自分のせいで不幸を背負ってしまった弟に、さらに重責を負わせないために、兄は隠していたのだ

世界電波塔(せかいでんぱとう)匿名結社(アノニマスセナクル)の手に落ち、兄は、弟を使わざるを得なくなった。兵器として

マリコは辛そうに腕を額の上に置き、弟の方を見た

自分と同じ苦労を分かち合える相棒

ふと、少年のだらしない笑顔が彼女の方を向いた

「カミオカンデの目がディープのセンサーに負けることはありませんから~」@(ひらく)

気を張っている時ならばマリコの第六感はどのような化学にも勝る

彼女はずっと気を張り続けてきた

寝ている時ですら、異常を感知すれば飛び起きた。だから(はじめ)は彼女を熟睡させるために、シロナガスクジラように調合した睡眠薬を用いた

今、彼女は彼女らしくもない呆けた顔をしている

雨が降ってきた

この雨は自分たちをディープのセンサーから隠してくれるだろう

マリコは雨が口に入らないよう横向きになり、腕枕をして寝てしまった

「風邪ひきますよ」@(ひらく)

「うが、」

「そうですか」@(ひらく)

静かに寝息を立てる彼女を見て、うれしそうに微笑む(ひらく)

少年は両腕を広げて、天から下がる灰色のカーテンを受け止めた

「天が曇っても、カミオカンデの目が曇ることはない。雨雲よ雨雲。もっと分厚く育て。大粒の雨を降らせたまえ」@(ひらく)


「雨か」

被り物の二人

バケツを被った少年とAmazonの箱を被った少女は雨天の中、舌打ちをしていた

どういう原理か、彼らも当たり前のように海面に立っている

時速90kmで走れる歩行補助機を足に装着した少年と少女

5月前の黄海

陽の光は遮られ雨は冷たい

か細い少女は自らの肩を抱いた

「流石に冷えるか?」

「大丈夫にょ─…くちゅん!」

思わず出てしまったくしゃみに恥ずかしがる

「そら見たことか。ここは任せていったん退け」

段ボール箱の少女はすねたようなしぐさを見せ、不満気にゆっくりと後ずさりをする

バケツの少年が目線をそらして、警察(ラ・インビジブル・ポリス)側の重機(パンドラスマシーヌ)探索に集中しだすと、彼女は海上を走り去った

寒さが嫌で逃げ帰ったのではない

バケツの少年と段ボールの少女

二人でひとつ

全く異なる親から生まれたにもかかわらず、生年月日、血液型、趣味趣向まで同一

鏡写し、奇跡の少年と少女

それがディープ・ソートとディープ・ブルー、合わせて「ディープ」というシステムを可能にする

警察(ラ・インビジブル・ポリス)がカミオカンデ建造に当たって参考にした、一対の重機(パンドラスマシーヌ)

それを、自分の情けなさで片肺にしてしまった

ディープとはまさに比翼の鳥

片翼で飛ぶのは辛かろう

片眼で見るのは難儀であろう

早く戻ってこなければならない

その為には、早く帰らなければいけない

そして、そのような弱さを彼に見せてはいけない

帰路の途中、ボートに乗ったスーダンとすれ違った

彼は軍用のポンチョを着ている

「丁度いい。そのポンチョ、わたしによこしなさい」

「申し訳ありません、これは私物です。命以外の私物は差し出せません」@スーダン

「ならばそれを買うわ。そうね…千ドル出すわ」

「では仮想通貨で米千ドル分」@スーダン

段ボールの少女はスマートフォンを操作し、褐色の少年兵に千ドル分を支払った

「…確かに」@スーダン

スマートフォンで振り込みを確認した少年はポンチョを脱いで彼女に渡した

受け取った後、少女はポンチョの匂いを嗅いだ

「全く、どぶ臭いわね」

「すいません」@スーダン

「背に腹は代えられないわ」

ポンチョを着る少女


そう、被り物の二人、そしてスーダン

このとき、重機(パンドラスマシーヌ)は全て出払っていたのだ

世界電波塔(せかいでんぱとう)を海州に残して


北朝鮮、海州

造船所所有のドック

地下詰所

密室が作る恐怖の中、小江戸八重葉(こえどやえば)は夢の世界に心を逃がしていた

それは美しい世界

世界電波塔(せかいでんぱとう)がつくる、美しい世界

第二の脳が見せる

小江戸八重葉(こえどやえば)はか弱い、ただの女子高生。(あらし)とは違う


雨降る海

海面すれすれを行く鋼鉄の腕

その先端に立つ少年

雷の光が作るコントラストが少年の姿を異様に見せる

「あの雷、僕に落ちたりしないよね」@(ひらく)

少年はHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を装着していないのに、同じようにGPS腕時計の情報を閲覧できる

なぜなら、彼のGPS腕時計は彼自身とペアリングしているからだ

(はじめ)(あらし)(たつ)、三人を示す点が消えていないことを確認して安堵

しかし、

「え?どういうこと??」@(ひらく)

GPS腕時計はこう、宣告している

”海州室消失”

海州室とは北朝鮮は海州の倉庫の一角を示す

潜入捜査官が、八重葉(やえば)奪還作戦最前線の拠点として、そこを抑えてある

既に機材を搬入してあって、作戦室として機能するようにしてある

それが…消失?

(ひらく)は、ちょっとしたシステムの異常かな?すぐ直るだろう。と、簡単に考えていた

その時、まさに世界電波塔(せかいでんぱとう)の恐るべき超能力が行使されたのだ

海州にディープ・ソートもディープ・ブルーもSPring8もいなかった

不幸なるかな

世界電波塔の力を抑える者は居なかったのだ

以前にも書いたが、スーダンはもともと女子受けしそうな褐色美少年で考えていた。

しかし、そのような如何にもプロが何の疑いもなくやりそうなキャラがつまらなくて、やめた。

スッと通っていた鼻はつぶし、切れ長の眉も目じりも下げている。

首と腕は太く。

顔の輪郭は、そこそこ幼さを意識した。


次回のイラストは八重葉(やえば)

彼女は次の十話で「常識人」として立ち回っていただく必要があるので、そこらへんに歩いていそうな感じに描いた。

ホント、普通。


次の十話は今、学園モノパートのネタだし中。

バトルものは手が追い付かないほどいくらでもネタが出るのだが、それ以外は本当に出てこない。

3日、4日うなってやっと出てきたネタを、書き出しながら自分で笑っているというキモイ状態。

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