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デブだけど、エルフだからいいよね?  作者: EZOみん
第四章 急転直下
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デブは、しぶとく諦めない

 天幕の中では、まだ言い争いが続いていた。

 男達は声を張り上げ、ただ自分の意見を主張するばかりであった。


「始めから、二つのグループに分かれていたようですわね。実行班と支援班のような」


 アデレードが分析する。

 シルビアはペンダントを握り締め、満足そうにうなずいた。


「それで中々決着がつかないのね。好都合だわ」

「ええ。でも、段々険悪になっていますわ……」


 アデレードは不安そうにフォアマンと男達を見比べた。

 フォアマン男爵は、震えながら議論の行方に耳をそばだてている。父親が目を覚ました時、アデレードは声をかけた。だが男爵はちらと視線を投げただけで、その後は娘を一瞥もしていない。


 埒が明かない議論にほとほと飽いたのか、痩せた男は懇願じみた声で叫んだ。


「だから、ヤバい殺しに巻き込むなって話だ! どうしても殺りたきゃ、シティに戻ってから、あんた達だけで勝手に殺ってくれよ。なぁ、頼むよ、バフ!」


 同じ反バフ派の男が食ってかかった。


「おい、ふざけんな! それで金千枚はどうなるんだよ? 俺達だって、もうとっくにヤバい橋を渡っているんだ。ここまできて、半端は許さねぇぞ!」

「ああ、そうだな」ふいにバフが言った。皆が注目する。


 バフは天幕の奥へゆっくり下がると、剣の柄に手をかけた。


「ちと、負い目があったからな。つい大人しくお喋りに付き合っちまった」

「お、おい!」


 痩せた男が慌てて飛び退った。他の男達も一斉に身構える。


「勘違いするな。――この腰抜けを殺っちまえば、否応なしだろうが!」


 素早く剣を抜き、バフは振り向きざまにフォアマンを斬り捨てようとした。

 その時、シルビアとアデレードの背後の天幕から、剣先が生えた。剣先は上から下へ動き、布地を切り裂いていく。バフの目が見開かれ、斬りかかる動作を止めた。


 悲鳴を上げてフォアマンが立ち上がる。


 天幕の裂け目から四つの掌が出現し、布地を大きく左右に開く。左の掌は、子供のものだった。

 広がった裂け目からレイが突入してくる。

 同時に、オーサーとリカルドが天幕の入り口に姿を現した。


 応急作戦にしては悪くないタイミングだったが、誤算が生じた。

 一つ目の誤算はフォアマンだった。


「ひいやあああっ!」


 恐怖に我を忘れたフォアマンは外に逃げ出そうと突進し、オーサーと衝突した。

 彼に続いていたリカルドも足をもつれさせた。リタはリカルドをすり抜け、倒れ込むオーサー達の上を飛んで、天幕内に着地した。


 着地の姿勢から二本の短剣を抜くと、リタは立ち上がるまでの間に三人を昏倒させた。

 彼らにとっては、固まって立っていたのが不運であった。


 バフを支持していた男は見事な反応を見せ、剣を抜き放ってリタに斬りつけようとした。

 かちん、と小さな音が立つ。


 剣は短剣でつば元を押さえ込まれていた。

 もう一本の短剣の柄でこめかみを強打され、彼もまた意識を失った。

 ここまでで、ほんの数秒しかたっていない。


 だが、本来リタが担当する筈だった、正面の敵――バフへの対処が遅れた。

 二つ目の誤算はそのバフの行動だった。


「おらあっ!」


 シルビア達の前へ走り込んだレイに、バフが体当たりする。

 剣を構える暇もなく、レイは弾き飛ばされた。さらにバフは剣を振るい、天幕の支柱を叩き斬った。


「この、お止め!」


 入り口付近にいた最後の男を仕留め、リタがバフを制止する。

 彼女が走り寄る前に、バフは天幕の布地をつかみ、強く引いた。不安定になった天幕が崩れ出す。


 誰もが上に気を取られた瞬間、バフはシルビアを抱えて、後の裂け目から天幕の外へ飛び出していた。


 外で待機していたマルコとイルマも、崩れる天幕に意表を突かれた。

 マルコはとっさに転がってバフを避けたが、イルマは接触して転倒してしまった。


「シルビア!」


 少女の姿を認め、マルコが叫ぶ。

 はっと目を見開き、シルビアも叫んだ。


「マルコ! マルコォッ!」


 入り口側で待機していたフリッツが、横合いから滑るような足捌きでバフに接近した。


「貴様っ! お嬢様を離さぬか!」


 貴族の子弟は剣に長けた者が多い。

 まともな撃剣なら、フリッツが優位だったかもしれない。しかしバフは、強引に主導権を奪った。


「ああ、いいともよ! ほら、大事なお嬢様だぜ!」


 バフは方向転換すると、抱えていたシルビアをフリッツに向かって放り投げた。

 剣を抜きかけた手を止め、フリッツはシルビアを抱き止める。


 そこへまったくスピードを殺さずにバフは突っ込み、フリッツの顔面に頭突きを食らわせた。


 倒れ込むフリッツを蹴ってシルビアを取り返すと、バフは勝ち誇るように笑った。

 明らかに彼は多対一の戦いに慣れていた。犯罪組織の人間には、あまりない特徴だった。


 シルビアの喉元に鋭い刃がひたりと当てられる。

 冷たい感触が、彼女を凍りつかせた。


「そうそう、大人しくしな。おい、そっちの女! お前もだ!」


 バフは天幕から這い出したリタを牽制した。


「シルビア!」

「駄目よ、マルコ!」


 駆け出そうとするマルコを、リタが制止する。

 少年の長く尖った耳を目に留め、バフの顔を場違いな当惑が覆った。


「まてよ……そうだ、エルフの餓鬼が……」


 リタとマルコを交互に見て、バフは呟いた。


「ナイフ使い……いや、二刀流の女とエルフの餓鬼。――まさか『紅の執行者』か!?」


 得心がいったのか、バフは口を歪めてにやりと笑った。

 リタをじろじろと眺める。


「こりゃ、とんだ土産話ができたぜ。こんな所でご同業に会うとはな。ええ、ヒルダさんよ」

「あたしはリタ・トスタニアだ!」激昂するリタ。バフは口元に嘲りを浮かべた。

「ほぉ、そうかい。裏切り者と言った方が良かったか? とにかく、武器を捨てな。おい、お前等もだ」


 リタは短剣を二本とも地面に投げた。

 バフを包囲しかけていたフリッツやリカルド達も、剣を捨てざるを得なかった。


 シルビアを抱え、後ろ向きにゆっくりと歩くバフをリタ達は遠巻きに追った。

 人質をとっているとは言え、人数が違う。どこかで隙を見せる筈であった。


 だが、歩き始めてすぐに森が切れ、大河が姿を現した。

 森を貫いて流れる、ラオル河であった。


 小型の帆船が川縁の木に係留されている。やはりバフ達はこの船で河を遡ってここまできたのだ。

 船に飛び乗ると、バフはレイとオーサーを顎で指した。


「お前とお前、ちょいと手伝ってもらおうか。他の連中はそこから動くな」


 言われた通りにするしかなかった。

 バフの命じるまま、錨を上げ、舫綱を解く。


「よぉし、次は水に入って船を押せ! さっさとしねぇとお嬢様の鼻がなくなるぞ!」


 二人がわずかに押しただけで、船は流れをつかんだ。

 舷側がゆっくり岸から離れ、徐々に行き足を増していく。岸は下流に向かって急激に高さを増して崖になっているため、迂回して上に登らない限り、リタ達が川縁を走って追うのは不可能だった。


 充分遠ざかったと見ると、バフはシルビアをマストの方へ突き飛ばした。

 船尾の舵輪を回して、船を河の中心へ向ける。


 岸に取り残されたリタ達に、バフは一瞥をくれた。彼等は逃走を成す術もなく見送っている。

 シルビアはマストに寄りかかって立ち上がった。


「この先どうするつもりなの? シティに戻ったって、あなたに逃げ場なんてないのよ!」

「お前を売り払って、国外にとんずらするさ。ギルドにゃ、もう未練はねぇ。奴等――」


 ふと、眉をひそめる。岸辺の人影は、もうすっかり小さくなっているが、まだ大きさは見分けられる。

 大人ばかりで子供の姿はないように見えた。


 横合いの崖からマルコが宙に飛び出したのは、その時だった。

リタには色々過去があるのですが、本筋ではないので匂わせる程度にしました。

いつか書くかも知れません。

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― 新着の感想 ―
子供が大人の言う通りに動くとは限らねぇ(`・ω・´) これぞまさにところがギッチョン!!!!
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