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Episode,4 ちっぽけな魔法院の創造者

 朝、5時9分。学校前。ギュラは、四つん這いになって伏せて、息を整えていた。

そんな滑稽なギュラをキューは、目の前で立って見ていた。

『脳筋に近い馬の鹿。』

「馬の、鹿って……何……。」

校内から歩いて出てきたカイは、手に水の入ったコップを持っていた。

それをギュラに渡しながら、こんな事を投げかけた。

「お前、人無(ひとでなし)だろ? 体力ないのかよ。」

人無(ひとでなし)でも、…体力……ない奴、居るんだよ……っ!!!」

水を飲み終わったギュラは、カイの肩を借り、立ち上がった。その際、ギュラに悟らせないようにカイが踏ん張っていた。

「ありがとな、カイ。」

「ああ、子供みたいな扱いが出来るので楽ったらありゃしない。」

と、カイはキューとギュラを校内へと連れ込んだ。

 そこには、木で作られた壁やキラキラと光り輝くシャンデリアが合った。

「眩い…。何、こんなので暮らしてんのか?」

「慣れれば、生活も楽になる。それに、ほぼ生活に支障はない。」

「そうか〜、」

カイが「先ずは、生徒。言わば、子供と接触して貰う」と言った瞬間、キューが『遠慮はしても、』「駄目だ」『畜生道』と、会話をしていた。

「畜生道って、動物か。」

と、カイはスキを見て逃げようとするだろうキューの首根っこを掴み、引っ張りながら、長い廊下を歩いた。

 とある教室の前に着くとカイは扉を開け、キューを投げ入れる。

「…ほら、戯れろ。」

「カイ先生、女にも厳しー!さぁ、此処で少女は何をし返す?!あ、司会はこの私……」

突然、男の生徒が司会を始める。

「やれやれェーッ!!」

他の生徒も、観客の様に声を上げていた。

「な、何か、騒がしいヤツらだな!!」

「騒がし過ぎて、俺は嫌だな。真面に授業は受けんわ。則は守れんはで、な。

因みにあの子供の体格を見て、年齢を判断したから定かではないがここの奴らと同い年ではないのか?」

 そう言われてギュラは、教室の子供達を全て一人一人遠くから見た。

 そこでギュラは、気付いた。キューの身体は他の子に比べて、少し細すぎることに。

「並べくなら、多く食べさせてきたつもりなのに……。」

「どうした、回らない頭を回しても意味は到底ないぞ。」

「むぁっ?!回るぞ!!」

と、物理的にぐるぐると頭を回し出すギュラ。

「……回ってないぞ?」

「回ってる!!ほらっ!!!」

「ないない、回ってないし。そろそろ止めろ。」

ギュラのお腹を肘で強く突くと、教卓に立ったカイは両手を叩き合わせ、騒ぐ生徒達の目を前へと向けた。

「ほら、先ずは…紹介する。

えーっと?」

カイは、左肘を机に置き、右手の指でトントンと机を軽く叩く。自分でしろという事なのだろう。

「俺は、ギュドラ・クリースコ!皆からはギュラって呼ばれてるんだっ!!」

誇らしげに自己紹介を終わらせたギュラは、キューの方を見た。

『キュー。それだけ。』

「こいつ、脳に直接……っ?!」

1人の生徒が頭に右手を置き、胸元の服を左手で掴みながら演技をし始めた。

「一瞬で楽にしてやろうか。拒否権は無くしてな」

そんなカイの言葉が教室に響いた。流石の生徒達も死ぬと思ったのか、静かになった。

「それにしても、カイせんせー。その子、一体なんなんすか〜?」

「コイツか、コイツァ、〝キネシスマン〟だ。」

カイは、キューを親指で差しながら、眠たそうに欠伸をした。

「え、あ、サクッと言っちゃって良いの?!」

『学校だから、大丈夫。』

「そ、そうなのか?」

『多分、後、一々叫ぶな。五月蝿い。』

そう言ってキューはカイの所へと行った。

ギュラも、その後を追いかけた。

「じゃあ、今日はこの人達と遊びましょー…イエーイ」

「カイ先生の棒読みハンパねぇっす!」

男子生徒が大声で笑いながら叫んだ。

「でも、今日は勉強なしだぞ?ほら、喜べよ。」

すると、女子生徒が両手同士を絡め合わせ、強く握り歓喜の声でこう言った。

「素直に喜びます…ッ!!」


 9時、空は晴天。此処は、学校の校庭。一部分が芝生、その他の部分は地面となっている。そんな校庭でギュラが生徒達に引っ張られていた。

「痛い痛いッ…!!そんなに引っ張らなくてもいだッ!!」

「ギュラ先生、うるさーい!でも、面白いー!!」

それでも、生徒達はお構い無しに腕に抱きつき、引っ張る。因みに全校で遊ぶ事になったらしい。

「イダダッ…!!!」

その近くの大きな木の下でカイ、ルイとキューが涼しんでいた。

「あっちぃ、あつーい。」

「暑いね、……キュー、」

『何、ルイ』

すると、ルイがキューの足を触り出した。

『何』

「痛めてる?」

『別に、』

ルイが力を込めてキューの足を握る。少しだけ苦い顔をした。

「……痛いんでしょ。私に、…見せて……。」

キューの足を左手で持つと少し浮かせて、右手で杖を取り出す。

こう、足を持たれるとキューは抵抗しなくなるのだ。特に女性だと。男性だと、頭からぶつかって行く。

「何かあったの?」

ルイがキューの足に治癒魔法を使いながら、キューに問いかけた。

『別に、何もない。』

「……嘘は駄目。ちゃんと言って。」

『めんどくさ、けど良いよ。てか、森で気付いてたみたいだしさ。』

キューは、人里・クリスティルでの出来事を伝えた。

「クリスティル、悪い噂しか聞かねー所だな。」

カイが頭を掻きながら、地面に寝っ転がる。

「…あ、カイ……またやってるよ。」

「ほっとけほっとけ。」


「ギュラ先生って、魔法とか使えるの?」

小学二年生位の子が杖を小さく振りながら、言った。

最近の子供は、魔法が使える事を自慢するのが流行っている。

「嫌ー、縁がねーんだよなぁ。魔道書とか、」

その事を生徒達に伝えると、皆の目が丸くなった。そして、生徒達はギュラを置いて何かをこそこそと話し始めた。

会話に入れてもらえないギュラは辺りを見渡すと、足を治療中のキューが一瞬だけ目に入る。

すると、生徒達が叫びながらギュラに聞いた。

「え〜っ!!1度は、あるでしょっ?!」

「…あ、……な、ないってー」

「何で?!」

「何でだろーなぁ」

すると、1人の男子生徒が言った。

「でも、ギュラせんせ、基礎魔法出来そうだし。大丈夫じゃね?」

と、呟いた。

「多分、基礎魔法も使えない…と思う。」

「だーいじょぶだって、……アイツよりかはさ。」

男子生徒が親指で指した方向を見た。

すると、そこには黒髪の男子生徒が校舎の近くの花壇でジョウロで水やりをしていた。後ろ姿の為、今は顔が見えない。

「おーい!キャトルー!!」

スッと男子生徒は呼びながら、杖の先を空中で回す。クリスティルの時の村長が魔法を使う時と同じ行動だ。

「«アクアシャボン»」

水の玉がキャトルと呼ばれた生徒の頭上に現れる、咄嗟に手を頭の上に置いた生徒は小さな声で何かを言った。次の瞬間、水の玉が落ちる。

「!!」

その生徒は、軽くだが濡れた。

「何やってんだよッ、これはイジメだぞ?!」

ギュラは、濡れた生徒に近付きながら他の生徒達を怒った。でも、ここではイジメは─────「え?社会じゃないの?」

小学三年生くらいの女の子が言った。

「しゃ、社会……?」

「うん、違うの?弱肉強食みたいな。」

「えっと、その……それは……」

すると、濡れた生徒が小さくぼやく様に言った。

「もしくは、能ある鷹は爪を隠すんだよ……しらねーのか。」

それだけを言うとジョウロを持ち、校舎へと去った。

「……あ、後で誤っとけよ………。」

そう言うとギュラも、生徒の後を追った。


『さっきの、何。』

「……キャトル……。あの子、…いつもあんな感じなの。あ、まだ、傷は完治してないから…無理は余りしちゃダメ。」

『とか言いながら、この状況を変えてくれることを影から願ってそうだけど。』

キューは立ち上がるとたぬき寝入りをしているカイを見た。

『ほんじゃ、あの人の所行くよ。』

「うん、階段に気をつけてね。」

『気をつけとくよ。じゃ、』


 それから2日。ギュラは何回も見てしまう。あの生徒の物が隠されてる所、汚されている所を。

「ああ、もうっ!何で、カイ止めねーの?!」

ギュラは、カイを問い詰めた。だが、カイは椅子に座り、机に置かれた魔道書を開き、目を通しながらギュラの問に答え始めた

「お前は、社会を知ってるか?」

「社会って、歴史っーの習うんだろ?」

「違うな。そっちの社会じゃない。」

「は?しゃ、社会って……」


「───────目の前の社会だ。」


パタンと本を閉じるカイは立ち上がると、ギュラの顔を見ながら言った。

「お前の里には無かったのか?上下関係っーもんが。」

「……し、知らない。わ、分からない……!」

「…………は?」

「お、覚えてないんだよッ!」

実はギュラは所々の記憶、といっても…5年前からの記憶が曖昧と言った方が早い。

「なら、此処で少し見ていけ。どうせ、相方の傷はまだ癒えていない。」

「……あんなのが、社会なのか?」

「ああ、俺達の社会だ。助け合い不要、のな。」

カイはそれだけを言ってその部屋を去った。

「何で…。お前は、……。」


その時、カイはギュラが居る部屋の前で立ちすくしていた。

「…………助けは、必要……ない。ないんだ。」

胸元の服を強く強く握る。頬に汗がつたう。

『ここには、めんどくさい奴ばっかりだな。』

それを聞いていたキューは、それだけを伝えながらカイの目の前を通った。

「……本当、…あーゆー餓鬼は嫌いだ。」

前髪を左手で掻き上げながら、その場を早足で去った。


 その生徒が外でペンとノートを片手に何かを書いている時だった。

「キャトルく〜ん?またぁ?こーんなのっ!」

男子生徒が生徒のノートを乱暴に取り上げる。

「! 返せよッ!!」

「?!」

キャトルと呼ばれた生徒は、突然顔を鬼の様に変え、ノートを取り返そうとする。

「キャ、キャトル……おいっ……!!」

その行動は激しく、もう1人、その場にいた男子生徒が止めようと肩を持つ。だが、生徒はその手を振り払い、男子生徒に叫ぶ。

「離せ!!何だよッ!!!

俺の時は止めなかった癖に!!!

出てくんなよッ!!!!」

「あ……えっ……」

『やっぱ、めんどくさかったりする。』

「!!」

キューが木から降りてくる。綺麗にキャトルという生徒の前に着地をする。

「何だよ…っ、お前も何か言うのかよ……!」

『言わないけど、ぶつけてみる?』

「は?ぶつけるって……?」

『貸して、』

ノートを持った男子生徒から、ノートを渡しもらう。

『ここに書いてある魔法、とか。』

「…は?!何で、知ってんだよっ?!」

少し頬を赤らめ、一歩後ずさる。

『見てた、練習してるとこ。』

「見てたぁっ?!だったら、言えよ!」

『逃げる可能性あった』

「……うっ、それは………… 」

キューは続けて付け加えで言った。

『絶対逃げない保証はあった』

最後の語尾に?をつけるように喋る。

「……ない。絶対に。」

『だよね。じゃあ、今の気持ちは』

「き、気持ち?」

キューは、男子生徒の方へ振り向くと言った。

『コイツらに何を思った』

「…何を…………」

『何を思ったんだ』


少年は、口元を緩ませた。緩んでしまった口元を隠すように左手で口元隠し、言った。

「ぶっ潰してー…位に憎い……。」

『そうか、それ、ぶつけてみないか?』

少年の目の前に立ち、キューはノートを地面に落とした。

『そこに、書いてある魔法を。』

「……まさか、あんたに……?」

『ああ、とりあえず、ここでやらないとあと怖い。あんたが断った場合、弱虫……とか言われるからな。あんたが。』

それを真に受けた少年は少し焦ったような喜びを含んだような顔で「やってやるよ」とキューに叫んだ。

『そうか、じゃあ来い。』

キューは右を向き、木陰から出た瞬間。

「«フレイムアクセス»」

突然だったが、キューは地面を蹴ってジャンプをし、中を舞う。

炎の糸がキューに向かって来たのだ。よく見ると、その糸は少年の足元から出ている。

『そいや、あんた名前は?』

「キャトルだ。」

『真名』

「……キャロット・ネイシー。」

顔を別の方向へ向けたまま、両手の掌を叩き合わせた。

「瞬け、豪雨。«レイン・レス»」

雨が降り始める。キューは、地に降り立つと上を見上げる。

(あま)の水よ、重しとなれ!«レイン・グラビティ»!!」

雨で濡れた場所から重くなる。だが、キューの足はそんなにヤワでは無い。

地面を這うように素早くキャトルの所まで走り、腹をぶっ蹴る。

「…あっぶ、……え、あ、……成功っ?!」

キューがぶっ蹴ったキャトルから声は聞こえず。辺りを見渡すと、斜め右後ろの少し遠い所にキャトルが肘をついて口元に手の甲を当てながら目を見開いていた。

 すると、集まってきた生徒がこそこそと何かを言っている。

「あんな魔法、教科書にあった…?」

「ないよ!あんな野蛮なの!!」

「でも、キャトルは何で…そんなのを?」

 それを聞いたキャトルがニヤケながら叫び上げる。

「…俺、俺が作ったからだよッ!!お前らは、教科書で見た魔法しかしない!!!

でも俺は、違う!自分で編み出した魔法を使う!!基礎魔法より扱いやすく、尚有効しやすい奴をな!!!」

『そんなのいいから、まだ戦いは続いてる。』

刹那の速さで、キャトルの頭上に移動した。そして、その頭に向かって右足の踵を行き良いよく降ろす。

「«ブロック»!」

と、唱えた瞬間。キャトルの頭上に四角い透明な物が現れ、キューの踵落としを防ぐ。

『へぇ、やるじゃん。』

そして、キューは左足の裏でその透明な物を蹴るとキャトルと距離を取った。

「水の槽よ、創造されよ!«アクアリウム»!」

ちゃぽん、キューの身体が水に浸かる。

『あ、息できない。でも、息、止めるの得意。』

「チッ…」

その戦いは、キャトルが風の魔法を使えばキューも風に沿うように走り、炎を使えば風で煽る。キューの戦い方はその相手を煽るものだった。それ故に素早く本当に足だけで動いているのか、と思わせる程。

「少しは真面に面向かってかかってこいやぁっ!!!G(ゴキブリ)ヤロォー!!!!!」

 その途中から戦いを窓から見てたギュラは、窓に寄り添い、腹を抱えながら笑い始めた。

「ご、ゴキブリ……ッ……!」

『後で殺す』

「え、ごめんなさいぃぃぃぃっ!!」


そして、10時間後。まだ、2人の戦いは続いていた。キャトルは息切れはしているだが、キャトルの魔法を使う力は尽きていない。

「ねぇ、キャトルってあんなに魔力会ったの?」

「なかったくない?」

女子生徒が喋っていると、カイが口を挟む。

「バーカ。お前ら、馬鹿か。魔法を作るのには、時間かかるし。人並み以上の魔力が必要。つまり、アイツは無意識に鍛えてたんだ。」

「え?!つまり、魔法を作れば魔力上がるんですか!!?」

「んな、訳ねーよ。これは、中々ねぇ才能だからな。お前らには扱えねーよ。」

そう言うとカイはギュラが居る窓へと歩いていった。

「お前の相方、怪我癒えてねーのに。よくやるな。」

「え、癒えてないの!?」

「…あの怪我した状況で……まぁ大事には至らねーだろ。」

カイの言葉を半信半疑で聞いていたギュラだが、その言葉だけは真面目に聞いていた。

「そ、そうかなー……心配、だな……。」

と、キャトルとキューを見つめた。

「…それにしてもさ、キャトルって子凄いね。他の子が使ってる魔法とは大違い。」

「……だろうな、俺も思っていた。………もしかしたら俺より強いかもな…………」

後半と言葉は少し小さくて聞こえなかったが、カイはギュラの返事を待たずに他の場所へと足を運んだ。

「……何だったんだろう、でも………そろそろ終る…の、かな?」

ギュラは、頭を掻きながらまたキャトルとキューを見た。

キャトルはもう地面に倒れそうになる身体を右手で支え、左手をキューに向けていた。キューは汗はかいているが、息切れはしていない事が肩の動きで分かります。

「……G(ゴキブリ)って、本当………殺虫剤かけたら死ぬ?……はぁ、……はぁ……だったらかけるけど。」

『先ず、あんたが死ぬんじゃないか。疲れてるし、ギブアップか』

「す、する訳ないだろ!する意味が無い!!

やるならとことんやろうよ…ねぇ、G(ゴキブリ)野郎さん。

轟音よ、鳴り響け!«ロマンチックルート»!!」

キャトルの指先から、ピンク色の糸が出るとその糸はキューの足を狙ってきた。瞬時に地面を蹴ると宙で一回転をする。

キューは、戦いの中でキャトルの魔法を見て分かったがキャトルの魔法は1点や線に纏まっている。でも、線は糸になっていて、風に吹けば揺れ止まれば止まる。

想定内の動きをすれば、想定内ではない動きをする。

『本当、まどろっこしい糸だ。』

そのまま、行き良いよくキャトルの頭に向かって左足の踵を落としにかかる。当たる瞬間、キャトルが「しまっ…」と声を上げて避けようとしたが反応が遅れ、顔面に踵落としを食らった。

『やりすぎた、まぁ良いか。』

すると、負けたキャトルに見ていた生徒達が口々と何かを言い始めた。

「あんなの、私達だったらすぐ避けれたわ!キャトルは、やっぱり駄目よ!!」

『あんた、嫌われてるんだな。』

キューは、倒れたキャトルを見るとため息を吐いてその生徒達に静かに近付いた。だが、唐突に飛び上がり、生徒の顔スレスレに強烈な踵落としをする。踵落としをした場所から円を描くように壊れ、破片が飛ぶ。

「……え……?」

『避けれるんだよね、今のも避けれんじゃないの。』

それだけを伝えると、キューはすぐさま校舎へ入り、ルイがいる本が沢山ある部屋へと駆け込み、床に倒れた。

「……見てたわ、痛むでしょ?無茶して、………」

ルイは、窓の外を見て机から立ち上がり、キューを見た。

『そんなの、良いからさ。』

立ち上がったルイは、キューを自分のベッドへと引きずると隣へ座り、杖を手元へ引き寄せる。

「ほら、…キャトルは、他の子達が運んでくれたから……。」

それを聞くと、安心したかのように少し俯くと目をつぶる。

『そうか、なら良かった』

そして、眠る。

「……貴方、来てくれてよかった………こんな社会(かんきょう)を変えてくれるの。部外者だけだもの。」

と杖を振り、足に1回目かけた治癒魔法より強い治癒魔法をかける。


 キャトルは白い本当に白い部屋、医務室のベッドで目を覚ました。

目だけを動かしながら、左手を動かした。そのまま、詠唱をした。

「時、我に見せろ。«クロック»」

自分の左手位の光るのデジタル式のような時計を出現させた。

その時計には、曜日と日付と時間が映されている。

「……あ、あれ…から、1日経ってんのか。…まだ、真面に体が動かない………。魔力は……完全回復してるな。

弱強、«ヒートビット»」

己の体に強化魔法をかけ、上半身を上げる。

「…出てみるか、……」

壁をつたって医務室から出ると、カイと出くわした。

「……まだ、安静にしてろ。」

「嫌です、俺は……」

と言いながら、壁から離れる。

「あの人にお礼を言いたいから、……今度こそ……お礼を言わなくちゃ、気が済まない。」

「…ほう、そのふっらふらな体でか?」

「…っ、それはそれ!これはこれです!」

小さな声で「よく言えたもんだ」と言うと、カイは杖を取り出し、キャトルに向ける。

「«ヒール»」

「……あ、…………」

「んだよ……医務室に戻されるとでも思ったか?……思ったよな、…………あ、あーそうだわ。お前がお礼を言いたいっー奴…今からここ出るぞ。」

目を見開いたキャトルは玄関に向かい、走り始めた。全力疾走で。


「よぉーし、張り切って行きますか〜!!」

伸びをしながら歩くギュラは、その伸ばした手で生徒達に手を振った。

『疲れた。足は完全回復したがな。』

「でも、キャトル凄かったな!」

『それは同意。』

ギュラとキューは、一歩ずつ魔法院から離れていく。

すると、後ろから大声で引き止めてくる声が聞こえ始めた。

「ちょっ、ちょっと待ってくださいっ!!」

2人は同時に振り向いた、声の主はキャトルだった。

「ど、どうしたんだよ?!しかも、お前、まだあ……あん……大人しくしてなきゃダメなんじゃないのか?」

「そんなの、どうでもいい!なぁ、キューさんよぉ!!俺は、あんたのお陰で変われた〜…っーか!本性を出せた!!」

『出した、だろ。勘違いすんな。』

「とりま、あんたのお陰!!それでさ、織りいってお願いがある……俺も、俺も同行させてくんないか?!」

キャトルの言葉にギュラがキューをちょくちょく見ながら慌て出す。

『良いんじゃない、此処とは違う社会に出会えそうだし。あんたは、どうなの』

と、キューはギュラを見る。

「え、あ、その……俺の里帰りなんだけど、…俺が帰った後どうすんの……?」

「恐らくですけど、キューさん連れて他ん所に行きます。里帰りまでですよね?」

『そうだな。ついていければ行く。』

「行かせます!」

『それ、少し楽しみにしてて良いか』

キューのその言葉にキャトルは大きく頷く。

『そうか、準備は』

「このノートと、チョークだけで充分ですか?」

『お前の魔法なら大抵の事は自分で出来そうだもんな。』

「はい!やろうと思えば作りますし!!安心してください!!」


また1人、厄介者が増える。

人を喰う事を恐れる人喰族、

拘束具だらけの不可思議少女、

そして───────ちっぽけな魔法院の創造者。

また、歯車(ものがたり)が動き始める。

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