第一話「朝六時四十五分の青き鼓動と、不滅の管槍(くだやり)」
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第一話「朝六時四十五分の青き鼓動と、不滅の管槍」
「僕は、あの人が乗る、少し古びた緑の自転車。――翡翠の車輪。昨夜からの暖かい雨をその身に受けて、毎朝ずっと待っているんだ!」
聖暦二千十二年四月二十五日。寒さが和らぎはじめ、世界に春の息吹を優しく感じる爽やかな朝、霧深き緑の都シルヴァ・ヴェールの駐輪場で、一台の自転車が嬉しそうに車輪を鳴らしていた。
持ち主は新卒サラリーマンの青年ルイ(父)。彼は生まれつき「肺胞蛋白症」という息切れのひどい病気を患っており、少し動くだけでも苦しい呼吸に悩まされていた。しかし、雨降りの朝は違った。雨が空気中の塵をすべて洗い流し、驚くほど澄み切ったおいしく湿度の高い空気が満ちていたからだ。
「今日の空気は、特においしいや! 全然、息切れがしないぞ!」
ルイは満面の笑顔でペダルをグイグイと踏み込み、走りやすいように整備された私道をサイクリングしながら、一人で大はしゃぎしていた。いつもなら苦しく荒い呼吸になるはずが、どんな吸い方をしても気持ちの良いくらい、全く苦しくない。
彼がここまで必死に健康状態を維持する努力を重ねていたのには、ある絶対的な理由があった。それは、同じ会社で一生懸命に頑張る女の子、シフォン(母)への「一目惚れ」の恋心だった。
「――おやおや。実に見事な、至高の恋心の型でございますな!」
物陰から、完璧な黒スーツ姿で現れたのは、ルイの年の離れた頼れる親戚のおじさん、アルヴィンだった。彼は東方の伝統的な『カッチン起座(かかとをくっつけてブレずに立ち上がる型)』の如く、無駄のない所作で眼鏡をシャキーンと直して微笑んだ。
「ルイ君! 一目惚れの恋をハッピーエンド(完全勝利)へと導くなら、まずは相手の立場に立ち、彼女が一日一日をどう過ごしているかを知る『勉強』が必要不可欠でございます。ガハハ!」
「わ、分かっているよ、アルヴィンおじさん! でも、いざ彼女の前に立つと頭がパニックになっちゃって、スムーズにお話ができないんだよ!」
「ヌハハ! ならば手順をノートに書き留めるのです!」
ルイは自室に戻ると、一冊の真白き手帳『コンプリート・ノート』を開いた。
「彼女は普段、どんなことを考え、どんな一日を過ごしているのだろう。そして、どんな友達を作って周りを笑顔にしているのだろう。よし、まずは仲良くなるための会話の手順をこのノートに書いて、大真面目に猛勉強だ!」
シフォンの天真爛漫な笑顔を思い浮かべながら、少年のように純粋な青年の熱い挑戦がテンポよく幕を開けた。
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