王弟派と国王派
離宮に用意された部屋に行く。長椅子で寛いではみるが、なんとなく落ち着かない。
僕は老婆に見せられた過去の光景を思い出してみる。おそらくあの中に色々なヒントが隠されているはずだ。
コンコンコン。
部屋の扉を叩く音がした。
「パトリス、いるんだろう?」
この声はチェスターだ。僕は扉を開けた。チェスターの隣にはアビゲイルが居た。
「二人ともどうしたんだ?」
二人の後ろには男女の護衛騎士達がいる。
城の中とはいえ王族だからね。護衛騎士は自室にいる時以外はいつでも側にいる。ちなみに僕にも護衛は付いている。なかなか気が利く奴で、いい感じに空気になっていてくれるのだ。
護衛達には部屋の外で待ってもらい二人を部屋に入れた。
「アビゲイルが言ってたんだ。パトリスが何か知っている気がするって」
「お父様と会っている時のパトリス、何か考えがある顔をしていたから」
アビゲイルはいつも人の目を気にしているからだろうか、鋭いと思ってしまった。
「君たちどこまで知ってるのかな?シャーロットが眠りについた時のこと」
「塔の上にある部屋で糸車に触れたら急に眠ってしまった。そしたら城壁付近にある茨が急激に伸びて城全体を覆ってしまった、ってくらいかな」
「それは事実だな。だが、実際は茨に巻き込まれて閉じ込められた者と城から弾き出された者がいる。僕は後者だ。シャーロットの一番側に居たのにもかかわらず城から出された」
僕は荷物の中から紙を取り出した。城下の宿屋からこちらに連行された時、荷物を勝手に持ち出されたので気になっていたが、幸い没収はされなかったようだ。
「これは城に閉じ込められた者と出された者のリストだ」
チェスターに渡すと彼は言った。
「これ俺も見たけど、明らかに閉じ込められているのが国王派なんだよね」
現国王は「賢王」と呼ばれていてその政治は安定している。その現国王及びその後継である王女シャーロットを推しているのが国王派だ。だが王の政治は利権の獲得などに厳しく清廉潔白過ぎると一部の高位貴族から反感をかっている。彼らは兄王に対抗意識を燃やしている王弟を次期王に推しているのだ。それが王弟派だ。
「あの日は翌日の宴の準備で王弟派の何人かも泊まりがけの仕事があったはずなのに一人もいない。偶然とは思えないよね」
僕は返答に困った。この二人は僕の友人ではあるが、王弟の子どもだ。どこまで話していいものか。
「やっぱりパトリスは素直よね。考えている事が分かっちゃうもの」
アビゲイルが笑いながら言った。
「私たちが王弟派だと思ってるんでしょ? 残念ね、私たち二人とも親は国王夫妻だと思ってるのよ、実の親がどうであれね。と言うよりあの人達と関係なんて持ちたくないのよ、本当は。つまり私たちは二人とも」
二人合わせて言う。
「国王派だ」
双子だけあって見事なハーモニーだ。語尾まで合っている。
「だから安心して欲しい。俺達は国王夫妻やシャーロットを救うため、出来る事はなんでもする」
チェスターはあまり口数が多い方ではないのだが、その口から発せられる言葉は信じられる。
「王弟派の探りだってするわよ」
赤くなった目で笑うアビゲイルからはその言葉が本心である事が窺える。
「分かった。じゃあ情報連携しよう」
「まずは今のあの人の動向だが」
チェスターが口を開く。あの人というのはもちろん王弟の事だ。
「王室の3名はもう目覚める事は無いと踏んでいる。もちろん自分が次の王になるつもりだ。ただ今すぐってわけにはいかないので、一年後に即位式を取り行う予定みたいだな」
一息ついてからチェスターが続けた。
「あと、自分の妻を王妃にするつもりは無いみたいだ」
「離婚するってこと?」
僕は尋ねた。
「世間体があるしそれはしないだろうな。じゃどうするかというと?」
「不慮の事故とか?」
僕は半ば冗談で言ったのだが、チェスターは真面目な顔をして頷いてから言った。
「そうだね。病死の可能性もある」
自分の父親が自分の母親を殺すかもしれないというのに、傷ついたり恐れたりする気配も無い。他人事のようだ。
「だってね、滅多に会うことのない人達よ。母親なんてこの年になるまで数えるほどしか会ってないのに、家族だと言われても実感ないわ」
「そうだな。母親が例えば他の人にすり替わっていても気付かないね。うちの城にあった彼女の肖像画は全て片付けられたからどんな顔してるのかよく覚えてないから」
なんとも言えない親子関係だ。
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