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負け組夫婦の僻地ライフは意外にも快適です  作者: ゆあん
第二章 アトラ領調査 食料問題編
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第28話 良い夢を

相変わらず緊迫した雰囲気のオラリオとダン。

二人の間に何があったのか、知る由もないエーリンだが、一方であまり元気のないラルの様子も気になるが……?

「なんの話ですか?」


 二人のやり取りが(かも)し出す雰囲気は、言葉以上の含みがあるような気がしてならない。


「いや、君が気にすることじゃない」


 いつもの冷静な表情に戻ったオラリオは、空いている方の手でオラクルを直した。


「そうですか」


 それは余計な心配をかけないように、という配慮なのかも知れない。しかし私としてはいまいち面白くない。せっかく二人で頑張っていこうと約束した後なのに、距離を取られているようで心持ちが良くないのだ。


 オラリオの判断力は信頼できる。なんにでも首を突っ込もうとする性分がどんな損を生むのかは、マクワイヤ家で味わってきた。ここは引くのが良い局面だろうとは理解はできるのだ。


 とはいえ、気になることは気になるのである。


「ラル様、お加減がよろしくないのですか?」


 先ほどから私の視界に見切れる彼だが、明らかに覇気がない。まるで目覚めの悪い夢でも見た後かのように、げっそりとしてしまっている。


「え、ああ、はい、大丈夫です」


 そう頭を掻く彼だが、口元に対して目が笑っていない。一体、どうしたのだろうか。


「ああ、それだがな」


 そこにオラリオが割って入った。


「彼は昼から何も食べていなかったらしい。私達の食料を用意してくれたことが、仇となったようだ」

「まぁ! それは大変!」

「ええ、ああ、はは、そうなんですよ、もうお腹ぺこぺこで」


 確か私達がここに訪れた時、ラルはロン村長の家で集会に参加していたはずだ。早朝から行われていたのだとすれば、昼下がりもとうに過ぎ、かなりの空腹に襲われているだろう。


「彼はよく働いてくれた。夕食の準備もあるだろうし、きっと明日も早いのだろう。早めに帰った方が良いかも知れないな」


 そういうオラリオがラルに目くばせすると、ラルは雷にでも撃たれたかのように姿勢を正し、首を上下に振った。


「そ、そうなんですよ! いやぁ、今日はお会いできてよかったです! それではお二人とも、それとエイダさん――また!」


 ラルは早口でそう捲し立てると、慌てた様子で扉を開け、片手をかざしてから風のように消えていった。


「……元気はあるようですね」

「あのくらいの歳の者なら、体力は無尽蔵さ」


 彼の身軽さに思わず呆気にとられた。それにしても、その様子は急用を思い出したと言うよりは、まるで何か恐ろしいものから逃げるような、そんな雰囲気を感じるのは、私だけだろうか。


 ――それにしても、である。


「お腹がすきましたね」


 思い返せば、昼食を食べていないのは私達も同じである。おなかをさすれば、小さく唸っている。


「帰るか」


 その様子を愉悦の表情で見下ろすオラリオだった。


「エイダ夫人」


 オラリオは一瞬でいつもの真面目な顔に戻り、私の腰に手を回してから言った。


「そろそろおいとましようと思う。今日は突然の訪問にも拘わらず、理解、もろもろの協力、感謝する。受けた御恩は必ず返そう」


「困ったときはお互い様、ですから」


 仁王立ちして、からっと笑うエイダの足元には、子供たちがしがみ付いている。逞しい母の鏡のような女性だ。



■■■



 ダンの家を出る。


 辺りはまだ明るいが、傾いだ陽は夕暮れの気配を醸し出している。歩き出せば、風が心地よい。日差しは暖かく、まるで高級羽毛に包まれているかのように心地よい。そして砂利が踏みつけられて弾ける音や、麦が風にたなびく音が、先ほどまで緊張し通しの神経を柔らかに解いていく。


「んん―――………ふぅ」


 いっぱいに息を吸い込めば、新緑と潮の香が鼻をくすぐる。まるでさっきまで呼吸をしてなかったのではないか、と錯覚するほどの解放感だ。


「疲れたか?」


 思わず伸びをする私に、オラリオはからかうような視線だ。


「ええ。緊張しました」


 見知らぬ土地で、見知らぬ相手と折衝(せっしょう)の連続。一歩家を踏み出せば、これほどの波乱が待ち受けているとは。


「さすがに肝が冷えたぞ」


 見上げれば、オラリオが眉間(みけん)(しわ)を寄せていた。


「……申し訳ありません」


 彼が指摘するところは、おそらく、(たかぶ)っているダンの前に出たことだろう。実際、ダンが激昂した時には覚悟もしたものである。


「とは言え、助かったのも事実だ。礼を言う」


 彼の顔を見れば、先ほどまでの眉間の(しわ)はもうない。差し出された手を取り、畦道(あぜみち)を登っていく。


 村の(そば)を通り過ぎれば、村人たちの姿がある。来たばかりの時は、逃げるようにして家の中に隠れていた住人達であったが、今はそれほど気にはしていないように見える。どうやら、危害を加える敵ではない、と理解してくれたらしい。


 ダンの気性が村に知れ渡っているのであれば、あのダンの家から帰ってきた――ということが、その証左になっているのかも知れない。


「……よかったですね」


 ふいにそういうと、オラリオは不思議そうにこちらを見たが、私の目線がその手元の麻袋にあるとわかると、「ああ」と言って、遠く領主館を見つめた。


「これで数日はどうにかなるな。それに村の協力も取り付けた。これで次の段階に進める」

「次の段階、ですか……」


 そういって、思わずため息がでる。令嬢生活に甘んじていた私にとって、この先にいったい何が待ち受けているのか、何をせねばならないのか、見当もつかない。


「そう気落ちすることはない。生きるか死ぬか、に考えを縛られなくて良くなったんだ、これから先のことは、これからゆっくり考えればいい」


 そうはいうものの、いつまでも村人から施しを受け続ける訳にもいかない。彼の気遣う言葉とは裏腹に、実際にはそう悠長にはしていられない現実があるはずだ。


 しかし。


「人は空腹になると負の感情に囚われる。まずはいっぱい食べよう。そしてよく寝る。何かを検討するなら、それからで十分だ」


 私を引くその手は力強く、迷いがない。彼の中では、次につながる一手がもう見えているのだろう。


「……そう、ですね」


 ならば、私はそれを信じよう。私は彼の妻なのだ。

 

 そうだ、晩御飯は腕によりをかけよう。

 そして願うのだ。

 彼が良い夢を見られるように、と。

 


やっと家に帰ることが出来た二人。

食糧も確保し、いったんは落ち着いたものの、エーリンは不安が拭えずにいた。

迷いのなさそうなオラリオだが、彼の内には一体どんな秘策があるのか――


更新お待たせして申し訳ありませんでした。

次回、第三章のスタートです!

引き続き、よろしくお願いします!

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