第21話 リーダー・ダン
食料を分けてもらうために訪れた家で出迎えたのは、エイダ。
太陽のように明るい彼女だが、村を取り仕切るダンの嫁だと言う。そのあまりの若さに驚くエーリンだったが――
エイダは私と同い年か少し下くらいに見える。村娘にしては肌が綺麗だし、大きくて丸い目は童顔そのものだし、体格が小柄なのもそれを後押ししているのかも知れない。……胸は結構大きいが……。
それが人妻、さらには先ほどの子供たちの母親だというのだから、たまげるのである。一体、いくつの時に子供を産んだのだろうか?
――子供は夫の連れ子で――と言われた方がまだ信じられるというものだ。
だが、そういうことじゃないらしい。
「エイダさん、若いですよね。なんでも昔は、村一番の美人と評判だったらしいですよ」
驚く私に、ラルが言った。それは紛れもない事実だろう。
「あらやだ! ラルったら! いつの間にか一丁前のこと言うようになって!」
「痛った!!」
照れながら豪快に笑うエイダさんの平手打ちが、ラルの背中に打ち込まれる。ダァン!とこれまた豪快な音を発したあたり、今頃背中は真っ赤になっているだろう。可哀そうに。
「そういう事は、一番いい人に言ってやんな。そんでもう少し逞しくなったら、ミミちゃんも意識してくれるかも知れないねぇ」
「ちょっと! 変なこと言わないでくださいよぉ!」
エイダは「うしし」とラルをからかう様に笑い、ラルは顔を真っ赤にしている。
おお? これはこれは、ひょっとして。
そう思った時だ。
「――おう、なんだか騒がしいじゃねぇか。ラルが来てんのか?」
奥の扉が開くと同時に、野太い男の声が響き渡った。
「あんた、お客さんだよ」
その声の方へ向かって、エイダが言う。そして男は大きな足音と共に近づいてくる。
「客か。ラルが連れてきた客だっつうなら、ちゃんともてなさないといけねぇなぁ。――けどよ」
男は首を撫でまわしながら、テーブルの前に立ち、こちらを見下ろした。
筋骨隆々。血管が浮き出るほどの逞しい体躯に、薄手の肌着が張り付いている。あちこちにある傷痕が、この男の気質を物語っている。そしてそれを隠そうともしない男の目が、私達に向けられている。
「客ってーのは、まさかこいつらの事を言ってるんじゃねぇよな? ――なぁ、ラル」
――ダン。この村を仕切っているという、男。
男の迫力は本物である。彼がその力を惜しみなく発揮すれば、私はおろか、オラリオさえもひとたまりもないだろう。無意識にこわばる体がその証左だ。私の生存本能はこの男に危険信号を発しているのだ。その圧は、ラルにも伝わっているようだ。
「そ、そうですよ、ダンさん。この方々は……」
ラルは明らかに気圧されている。すかさずオラリオが言う。
「急に訪ねてすまない。私は――」
「――あ? あんたらには聞いてねぇよ」
口を開いたオラリオを、威圧して遮る。拳は握られており、「これ以上話せば痛い目を見せる」と態度で示している。オラリオは一瞬眉間に皺|を寄せたが、何かを言い返すことはしなかった。
「ダンさん! やめましょうよ、ね? 話をしに来ただけなんですから」
ラルは立ち上がり、ダンとオラリオの間に割って入り、両手を振っている。それを見たエイダが言う。
「そうさ、あんたがそんなに凄んでたら、何も言えやしないじゃないか。まずは座んなよ」
エイダの元には、水を汲みに行っていた子供が戻ってきていたようで、その子は父親のただならぬ様子を感じたのか、エイダにしがみついている。エイダからは非難の視線がダンに送られている。
「はぁ。しゃーねーな」
ダンは分かりやすく溜息をつき、私達の対面に腰を下ろした。椅子が軋むほどの質量感に、思わず固唾を呑む。
しばしの沈黙のあと、オラリオが話し始めた。
「オラリオ・ジオフリンテ。この度領主に着任した。隣にいるのは妻のエーリン」
オラリオが領主と口にしたあたりで、ダンは分かりやすく目をそらし、舌打ちをした。
「さっそく話し始める前に、一ついいか?」
オラリオとダンの目が合う。
「――まずはその態度をなんとかしてくれないか。妻が怖がっている」
私は思わずオラリオを見た。そして気づけば、テーブルの下で彼の手を思いきり強く握りしめていたことに気づいた。手を緩めようとしても、こわばっていてなかなか動かない。
「それはあんたらの話次第じゃねぇのか」
再び両者の目線が合う。二人は瞬きもせずに、お互いに睨みを利かせている。
その間を縫って、エイダがお茶を出してくれたが、コップが置かれる間も、その二人は微動だにしていなかった。エイダがため息と共に空のお盆を持って竈へ向かうと、ダンは頬杖をつき、エイダのお茶をすすった。
そしてしばらくして、ダンが放つ圧が幾分穏やかになったところで、オラリオはまた話し始めた。
「今日はお願いがあってここに来た」
「ほう? 領主が領民に頼み事かよ。聞こうじゃねぇか」
「――食材を分けてほしい」
「食材? メシか。理由は?」
「急遽着任した我々には備えがない。故あって支援もない。現地調達する以外に道がない」
ダンは手にした茶を見つめながら言った。
「事情がある、ってことか?」
「――我々の任はアトラ領の再興だ。迷惑をかけるつもりはない。自活できるようになるまで、援助してほしい」
オラリオの言葉を最後に、沈黙が流れた。私は胸の前で両手を組み、懇願の体を示した。
ダンはそれを流し見たが、茶をすすりながら押し黙っている。
そしてしばしの沈黙のあと、全てを飲み干したダンが、コップを置いて言った。
「――できねぇな」
ダンが登場し、重々しい雰囲気の中食料を依頼するが、ダンから告げられたのは「できない」の一言。
ダンはかなり貴族を嫌っているようだが、オラリオとエーリンはどうするのか――
次回もお楽しみに!




