櫻木双葉3
はい、続きです。
はい、短いです。
と、勇人君に声を掛けるまでの経緯を話し終えると、勇人君は眠ってしまっていた。話の途中から船を漕ぎだしていたから、余程眠かったのね。私の話がつまらなかったのかな? ううん、あれだけ衰弱してたんだもん、きっと疲れが残ってたのね。ゆっくり休ませてあげよう。
ちなみに、バイト先から勇人君の家にまでついて行ったことは話していない。だって、ストーカーとか思われたくないもん。
勇人君に声を掛けてからいろいろなことがあった。
男子トイレに連れ込まれたり、お弁当食べさせてもらったり、自転車の二人乗りをしたり、トンネルに閉じ込められたり、悪霊に襲われたりと目まぐるしい一日だった。どれも信じられないような出来事で、そのすべてが私にとって初めての経験だった。昨日一日の出来事だというのに、生きていた時と比べても、かなり濃い一日だったと思う。
まさか三葉があんなことになっていたなんて思いもしなかったし、もし勇人君に声を掛けていなかったら何も知らないまま三葉は……。そう思うと、背筋がゾッとしてしまう。でも、勇人君だったらきっと一人でもトンネルに向かっていたと思うし、助けてくれていたと思う。
それにあの祓い屋さん。あの人たちもいたから、きっと三葉は助かっていたに違いない。
そう言えば、一つ、ううん二つほど気になることがある。
一つはあの白骨死体。警察の人の話には出て来なかった。つまり、あそこに白骨死体はなかったという事。例の有毒ガスの影響で幻覚を見ていたのかとも思ったけど、祓い屋さんが回収していったのかもしれない。でも、そんな事してもいのかな? 法律はよくわかんないけど、発見されていないものはないも同然なのかな? 私達、勇人君が言わない限りその存在は知られないだろうけど、でも言っても信じてくれるか怪しいわね。幻覚を見たんじゃないかって言われるだけかもしれない。そう思って勇人君も言わなかったのかもしれない。私は何も言えないしね。
まあ、それはいいとして。問題はもう一つの方。それは、あの時の勇人君の反応。トンネル内、Sトンネルの辺りから何かを見ている風だった。私には何も見えないのに、勇人君はジッと何かを見ていた。特にあの部屋を見つけた時、見ていたというより凝視していた。そこに何かがあるのが見えているかのようだった。そして、その視線の先にあの白骨死体があった。偶然見つけたんじゃなく、そこに何かがあると確信して行動していたような気がする。そしてあれに触れ、未練を残して亡くなったと言っていた。どうしてそんなことがわかるのだろう? 私の事も見えるし、何か特別な力があるのかな? でも、勇人君はどう見ても普通の高校生、悪霊にも何の対抗策もなく襲われていた。それなのに、どうしてあんな危険なマネをするんだろう? 祓い屋さんも言ってたけど、勇人君って自分から危険に首を突っ込んでる気がする。勇人君の何がそうさせるんだろう?
これはあくまでも私の勝手な見解だけど、このままだと勇人君が遠くへ行ってしまいそうで、心配で放っておけない。私に何かできるとは思わないけど、危ないことに首を突っ込まないように止めることはできると思う。私の成仏問題に協力してくれるんだもん、そのくらいしてあげなきゃね。明日にでも、ちゃんと聞いてみよう。隠してるみたいだから話してくれるかはわからないけど……。
それにしても、気持ちよさそうに寝てるなぁ。
スース―と勇人君の寝息が聞こえる。
(……意外と可愛い寝顔してるのよねぇ)
こんなに無防備に寝られると、悪戯したくなるわね。ちょっと突いてみようかな。
私は勇人君の頬を指で突いてみた。
ぷに
『んふっ』
ぷにぷに
『起きない起きない』
ぷにぷにぷにっ
『あはっ、口が変な形に曲がって変な顔』
勇人君は「ふがっ」と言って頬をポリポリ掻いている。突いたところがむず痒いのかな?
一瞬起きちゃうかと思ってドキドキしたけど、再び穏やかな寝息が聞こえて来た。
……勇人君には秘密だけど、本当は私、勇人君に触れることができる。
どうして? と聞かれると困るんだけど、まあ、幽霊だからじゃない? 私が触れたいと願ったから? じゃないかな。トンネル内で悪霊から逃げる時、勇人君が手を伸ばしてくれて、私もその手を掴もうとした。悪霊に襲われたとき、勇人君が飛び込んで来てくれて、私も勇人君に縋り付いた。私がそれを望んだから、そこに私の意思があったから。だから触れられるんじゃないかと私は思ってる。正確なところはわからないけど、響子さんならわかるのかな? ちゃんと聞いておけばよかった。あの時、随分無駄な時間を過ごしていたと、今更ながらに本気で反省している。あんな男への憎しみなんてさっさと忘れて聞いておくんだった。ていうか成仏の方法を聞いておくんだった。でもそれだと、勇人君と再会できなかったんだけど……。
ジ―――ッ
こうしてじっくり見ると、まあまあ整った顔立ちしてるわよね。イケメンとまではいかないけど、うん。
……
……ん? 誰かに似てるような? でも誰だっけ?
……
…………ん~思い出せない。気のせい、かな?
……
……だよね。
……………………あっと、いけないいけない、ボーッとしちゃった。
私は勇人君の寝顔を見るのに夢中になり、かなり顔を近づけてしまっていた。これで起きちゃったら気まずくなるところだ。危ない危ない。
それよりもあれよ。そう、お礼! 三葉を見つけてくれたお礼をしなきゃ。何がいいかな? 私があげられるもので、勇人君が喜びそうなもの。ん~この間はミサンガをあげたけど、ちょっと微妙だったよね。他といっても、今の私にはあげられるものなんて何もない。生きてたらどこかに遊びに連れていくこともできたのに……そ、それって、デ、デートみたいね。……ま、まあ、私とデートして勇人君が喜ぶかはどうかはわからないけど。それは置いておくとして、何か好きな物をプレゼントすることはできるわね。
とはいえ、死んでるからそれも出来ないんだけど……。
今の私にできることで、勇人君が喜びそうなこと、か…………ふむ。
私は勇人君の寝顔を見ながらしばらく考えた。
考えた末、これしかないと思い到った。
勇人君、玲奈ちゃんとはまだ付き合ってないみたいだし別にいいよね? このくらいなら許されるよね?
私は誰ともなく言い訳をし、決意を固めた。
『よし、やるぞ!』
私はそっと、勇人君の寝顔に顔を寄せ、
チュッ
その頬にそっとキスをした。
嫌がられたらショックだから寝てる間にしちゃったけど、私にしてはかなり大胆な行動だったと思う。勇人君が寝てたから出来たことだ。起きてたらこんなこと絶対無理。恥ずかしくて死んじゃう。あ、もう死んでた。
でもこれってお礼になるのかな? 勇人君寝てて気づいてないし。ううん、きっと勇人君はお礼なんていらないって言うよね。でも、それじゃ私の気が収まらない。気付かれないうちにお礼をしたのは正解だったはず。勇人君も気にしなくて済むし。
もし起きてるときにしたいって言うなら、玲奈ちゃんと付き合ってから好きなだけすればいい。やっぱりこういうことは好きな子同士でした方がいいと思うし。
……やっぱり二人はいつか付き合うのかな? 好き合ってるんだもん当然よね。
恋人かぁ、いいなぁ。私も恋人作りたかったなぁ、幸せになりたかったなぁ。
どんなに願っても、それはもう叶えられない。死んでしまった私には叶えられない幸せだ。
(もし、私が生きてたらどうなってたかな?)
私はもう一度勇人君と出会えてたかな? ナンパ野郎の印象はなくなってたかな? 今みたいに親しくなれてたかな? ひょっとして、二人の恋のサポートとかしてたりするのかな? 恋人がいなかった私に、そんな役目が務まるのかは疑問だけどね。
勇人君の寝顔を見ながら、私はそんな妄想をしていた。
もし生きていたら―――そんな未来があったのかもしれないと思うと、私の胸は高鳴った。
でも、それと同時に悲しくもあった―――。
というわけで、ストックが無くなってしまったので、続きは書け次第更新していきます。




