授業:ブロウ
要するにトンファーです。
キックの威力が高いらしいです。
今日のブロウの授業ではサイドハンドルバトンという打撃と防御に使える武具を練習している。
肘の長さぐらいの棒を左右の手にそれぞれ持って使うんだけど、棒の片方の先端近くに取っ手が垂直に付いているちょっと変わった形の武具だった。
取っ手の部分を握って棒を回転させて殴ったり、リーチを伸ばして突いたり叩くのが主な使い方。
防御の時は取っ手の部分を持って籠手のように肘を覆って相手の攻撃を受け止めることができる。
この手の防御と打撃を兼ねる武具だとトゥシスは本当に生き生きする。
授業中なのに「あははははははは!」みたいな楽しそうな笑い声が聞こえてくる気がするほどに。
もちろん本物のトゥシスは笑顔なんか見せないで、いつも仏頂面だけど。
容赦なく打ち込んでくるから、実は血も涙もない妖人族なんじゃないかと密かに疑っているんだよね。
「あたた……もう、本気でやるんだもんなぁ。チームメイトなんだし、ちょっとぐらい手加減してくれてもいいのに」
でもトゥシスの性格で手加減なんて無理かと思い直す。
っていうか、なんでいつも私が相手をしているんだろう。トゥシスぐらいの実力なら他の人とやった方が得られるものも多いと思うんだけど。
授業中は怪我をしないように要所を覆うプロテクターを身に着ける。
それには防護の方術が付与されているんだけど、叩かれたらやっぱり痛いし、プロテクターがないところに当たると悶絶するぐらい痛い上にアザにもなる。
学院に入学してからというもの、玉のようなお肌が斑になってるんだよね。
こんな体だけどお嫁にもらってくれる人はいるのかなぁ。
「なあ、ちょっといいか?」
「なに?」
同じチームのハヤード君はストラトなのでブロウの授業は苦手にしているのがわかる。
でもどんな武具でも前向きに取り組んでいて、その熱心さはゴウローン先生も認めるほどだ。
「お前の体格ならもっと短いヤツにした方がいいぞ。バトンを回す時に自分の体に当たってただろ」
「そうなんだけどリーチが欲しくてね。あとトゥシスが肘まである方がいいってアドバイスしてくれたんだけど……あ、もしかして騙されてた!?」
「それはないだろ。あいつは肘まで覆ってる長手甲を使っているからそれの延長でこいつも考えているんじゃないか」
そういえばそうだった。そしてそれをボロボロにしたのは私でした。
私たちの武具の修理費は学院が出してくれることになっていて、代表を決める試合までには戻ってくる予定だと聞いている。
ただちょっと調べたいことがあるから時間がかかりそうだって言われてるんだよね。
あの剣じゃないと足を引っ張ることしかできないから早く戻ってきて欲しいなぁ。
「リーチ不足の不利を埋めることを考えて長めのもアリと思ったかもしれないけど、こいつはリーチよりも回転力とか攻防の素早い切り替えに利点がある武具だから根本から考えを変えた方がいいかもな」
「そっか。アドバイスありがとう。今度は短いのにしてみるね」
「なんか俺以上に苦戦してるみたいだったからさ。同じチームの人間としては見ていられなくてな」
「苦戦してるのはこれだけじゃないんだけどね。いろんな武具を試してるんだけど、どれもさっぱりで……自信なくしそう」
愛用の剣が手元にないことを前向きに考えて、チーム戦の練習ではさまざまな武具で参加するようにしてるんだよね。
ブレイドなら刃のついた武具とは相性がいいはずだからリーチを稼げるロングソードやグレイブのような長柄のものから、思い切って大鎌――サイズまで試してみた。
結果は……なんの成果も得られませんでした!
練習試合が終わるたびにトゥシスから冷たい目で見られるんだよね。
おかげで胃に穴が開きそうで……うぅ。
「なるほど。練習試合で長めの武具を選んでいたのはリーチを気にしてのことだったのか」
「うん。私ってあの剣じゃないと動きの遅いただの素人でしょ。
基本リーチがある方が有利だから、この体格でもなんとかなるぐらいの長い武具を試しているんだけど、これっていうのが見つからなくて」
「その考えは悪くないな。でも残りの時間はそうないし、試す種類を絞ったらどうだろう。どっちかというと長柄の武具より普通の剣の方が向いているように思うんだが」
「やっぱりそう思う? 自分でもハルバート系とかはダメかなって思ってたんだよね」
普通のブレイドならそんなことはない。
初めて手にした武具でも属性が一致していれば、まるで何年も扱っていたかのように自在に操れるものだから。
そう考えると、私って本物のブレイドユースなのか怪しくなっちゃうよねぇ。
「リーチを考えるとツヴァイハンダーあたりか? あとは……」
「なんのお話をしているんですか?」
私とハヤード君の間に割り込むようにイーサが座る。
「今日の訓練はもういいの?」
「ええ。こう見えてブロウユースでもありますから」
ふふ~んって声が聞こえてきそうなほど自慢げですね。
あと背筋をそらして見せつけるのはやめてください。その胸は私に効きます。
「何やら興味深いお話をお二人でされていたようですけれど?」
「私の武具についてちょっとね。チーム戦の練習試合でいろんな武具を試しているけど、それの種類を絞り込んでみたらっていう話をしてて」
「そういうことなら私にも意見がある」
今度はハージェシカさんが近くに腰を下ろす。
「サダーシュをフォローしないでいいのなら、私はもっと自由に動ける。現状、私とサダーシュがコンビを組んでいる意義が薄い」
毎回ミスをする私のフォローでハージェシカさんは思うように動けてないもんね。
ごめんなさい……足を引っ張ってばかりで。
「前衛がばらけると俺たちのフォローはどうすればいい。担当を決めて援護をするのか?」
「視界が悪いフィールドだと、位置的にわたくしはフォローしきれない可能性がありますね」
試合会場は訓練場だけではなく、ある程度の広さがある森林や岩場、街並みを模した場所なんかがあって直前までどの会場で戦うかはわからない。
だから各フィールドでの動き方、戦い方を連日連夜話し合う必要があるんだよね。
このあたりも経験値が多い上級生が有利なポイントだと思う。新入生の私たちはひとつひとつを手探りで進めていかないといけないから。
「思い切ってハージェシカさんが単独で王へ向かって、私がハヤード君の護衛につくっていうのはどうかな? それでハヤード君はハージェシカさんへの援護に専念してもらうの」
最近のハヤード君は弓以外に短めの槍も使うようになった。
弓で狙撃ができない場合は槍を持って前に出て戦う。その形の時はチームの攻撃力が明らかに増加する。
でも彼が一番得意としているのは弓だから、そっちに専念してもらった方が効率的な気がするんだよね。
「気持ちは嬉しいが、サダーシュの護衛はなあ」
あ、不安ですよね、わかります。
自分で言ってて、この案はダメだなって思ったもん。
「サダーシュの剣が間に合うかどうかで作戦が決まらないのなら、最初からないものとして進めるべきだと思う。不確定な要素は省きたい」
「それは一理ある。だがサダーシュのあの戦闘能力は惜しい。ギリギリまで検討すべきじゃないか」
「剣がある時はシンプルな戦術でいい。例えばサダーシュだけ前衛で残りは王の護衛に専念する。それで問題ないはず」
「単独でサダーシュに攻撃を任せるのは賛成できません。せめてツーマンセルにすべきです」
「待て待て。剣があるなしを前提で話をするのはやめようって言ったのはハージェシカだ。話を戻そう」
「それは正確ではない。私は最初からないものとして作戦を練るべきだと言った」
こういう白熱した議論を私たちはよくするようになった。
議論をするたびに私たちは互いのことを知り、絆が強くなっていく気がする。
「お前ら、俺がいないところでそういう話をするなって言ってるだろうがっ」
「「「「……あ」」」」
腕組みをしたトゥシスが私たちの背後に立っている。
「どんな時でも他のチームが聞き耳を立てているのを忘れるな。自分たちから手の内を晒して何をするつもりだ、まったく。少しは考えろ。
だいたい今は授業中だ。先生にどやされないうちに戻れ!」
なんだかんだ言って、私たちのチームはトゥシスがいないと始まらないんだよね。
いろいろと言いたいことはあるけど参謀役としては一番の人材だった。
※ ※ ※
「特別授業ですか?」
ジンバルク先生に呼び出された時は、これはもしかして成績不良で退学なのかもってガクガク震えていたけど、違っていたのでほっと胸をなでおろす。
「サダーシュ君がボクの基礎方術の授業や、ジュリウス先生のマジックの授業を真面目に受けているのは知っています。
もしかしたらそれ以外にも勉強をしているんじゃないですか?」
「同室のイーサに教えてもらってますけど……」
「それはいいことです。君はよく頑張っています。方術に対する認識はかなり進んでいるでしょう」
「じゃあ、私にも方術が使えますか!?」
勢い込んで聞いたけど、先生は困ったような顔をする。
「それなのですが……サダーシュ君が暮らしていたという魔の森周辺では方術の効果が表れにくいという報告があるんです」
そうだったんだ。だから冒険者の人たちは方術をあまり使わなかったのかな?
私に方術を教えようとしてくれたお姉さまも首をひねってたし。
「なんらかの作用を森が及ぼしている可能性があるのですが……そこで暮らしていた君の体にも影響が出ているのかもしれません」
「じゃあ、私は方術を使えないんですか……?」
さーと目の前が真っ暗になる。
方術が使えないってことは騎士になるのも難しくなる。
必須ではないけど推奨されるものだから。
ダメだ……終わりだ……。
どうやって故郷に帰ろうかな。
いっそのこと王都で生活拠点を……と考えていた時だった。
「どうでしょう、サダーシュ君。魔法使いの弟子になる気はありませんか?」
これ以上ないドヤ顔をジンバルク先生はしてた。
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