ex若者たち
みんな、とても仲良しです。
ロウマインド流の若者たちによる親睦会は賑やかなことこの上なかった。
「だから言ってやったんだよ。そこは引くとこじゃなくて押すべきところだったんだってさ!」
「若い奴らは根性がないんだよな。女なんて押しに弱いっていうのに。男なんだから押して押して押せばいいんだよ。稽古の時みたいにな」
お酒が入って気炎を吐く男性陣は固まって武勇伝を語り合っている。
その中心にいるのはスラストのレフターナ=フィルパディだ。
槍が得意な偉丈夫で、やや目元が垂れているのがチャーミングな男である。
豪胆な性格をしているが意外に後輩らの面倒見もよく、そのギャップにやられる女性も多いというのは本人の弁だ。
一緒に盛り上がっているブレイドのシンハース=ロンストアもレフターナに劣らない体格の持ち主だった。
無精ひげを生やしており、一見冴えない感じなのだが、剣を取らせると道場でも一二を争う実力者だ。
おそらく純粋な剣技においては王立学院に通う新入生の中でも一番であろう。
この二人は特に仲が良く、酒を飲みに行くのも女を買いに行くのもいつも一緒だった。
なお、「若い奴ら」と口いしているが二人も十分に若い。サダーシュの一つ上の17歳だ。
「女性に悪さをしていないだろうな。筋は通さなければいかんぞ」
二人の大声に顔をしかめながらも付き合っているのはガードのゲンザール=スプラウェルだ。
見た目からして老けているが、性格の方も落ち着いたというよりは老成した感じの人物である。
道場では一番の古株であり、イーサティアからの信頼もあつい。
今日も酒と女の話で盛り上がる若い二人を諫める立ち回りに終始していた。
三人とは別のネタで話し込んでいるのはトゥシス=アズウェイとケインズ=サウスマウンズである。
この二人は訓練のやり方や道場の方針などで昔からよく意見を交わしていた。今も他の新入生に対する評価を披露しあっている。
彼らはみなユースであり、学院に来るまではシェールグッド領にあるロウマインド流の道場でともに汗を流してきた。
シェールグッドは央国の東端に位置し、央国に組み込まれてからあまり時間が経っていない地域だ。
国境に位置するため争いが絶えないこと、領内に多数の魔獣が生息するディープティールの森を有していることもあって武術が盛んな地域である。
騎士に仕官する者や冒険者になる者を多く輩出しており、レフターナやシンハースもかつて騎士を出した家の血筋に生まれている。
ニアステリア家はシェールグッド領主の元で剣術指南役を代々務めてきた家柄である。
領主に教えるのは剣術のみだが、流派としてはユースの五属性すべてを指導している。
全属性を指導する央国でも数少ない流派であり、王立学院を除けば他にノースドラーン流、ガズウェイ流ぐらいしかない。
戦う者を育成することを掲げる流派であり、実践的な訓練を行うと有名であった。
今回、まとまった数の生徒を送り込んできたのには何か裏があるのではないかと央国内に緊張が走ったのだが、今のところは大きなトラブルもない学園生活を彼らは送っている。
「訓練の一環でダンジョンに潜ったことがあるってイーサに聞いたけどホントなの?」
「うん。でもそんなに危なくないからね。探索され尽くされたダンジョンだし、階層も少なかったし」
サダーシュと話をしているのはヘイステイシア=ウィスホールだ。
イーサティアを含めた三人の少女は男性陣の下品な話題や難しい話題から離れて会話に花を咲かせている。
「えー、でもすごいよ。ダンジョンに潜るなんてまるで冒険者みたいじゃない」
この世界にはいくつかのダンジョンが存在している。
ロウマインド流の道場の近くにも小規模のダンジョンがあり、訓練場所として利用されていた。
「ダンジョンでの戦い方って普段とは違うの?」
「通路とか狭い部屋だと武具を振り回せないから突きが中心になったりするかな。あとは壁を背にして背後に回らせないように立ち回るとか」
サダーシュとヘイズはすっかり意気投合していた。
もともと新入生に女子は少ない。だから着替えの時やお風呂場などで何度か接点はあったが、こうしてお酒を入れて話せばより親密になるのは道理であるだろう。
「それよりさ、サダーシュって強すぎない? もしかして妖人族だったりするなんてオチはないの?」
「ないよ、そんなの。あるわけないでしょ」
「でもブレイドっていう割に剣は使えてないじゃない。絶対おかしいって。ヘンだから」
「ヘンとか言わないでよー。私だって気にしてるんだし」
「そうなんだ、ごめんごめん。これで許してー」
ダバダバとカップにワインを注ぐ。
「おっとっとと。あふれるあふれる!」
「じゃあ、ぐーといって、ぐーっと!」
「んぐんぐんぐ……ぷっはー!」
飲み干したサダーシュはカップをテーブルに置く。
「サダーシュ、それはオジサンみたいだからやめた方がいいですよ」
そんなイーサの軽口にもケラケラ笑うことができる楽しい宴だった。
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