対抗戦告知
「対抗戦ってなに?」
「毎年、この時期に行われる各学年1チームが出場するお祭りですね。
チームは五人編成で、王役を一人決めてその人を守り抜いた方が勝ちっていう競技です。武具は得意なものを持ち込んでいいルールだったかしら」
刃挽きや先を潰してない武具で戦うのは危ないんだけど、選手にはいつも使っているものより強力な防護の方術がかけられた専用の防具が配布されるから安全なんだって。
「でもそれって上級生のが有利なんじゃない?」
入学したばかりの私たちに比べて、先輩たちは少なくとも一年以上多く訓練を積んでるんだし。
「そうですね。毎年、最上級生のチームが優勝していますから」
だよねー。
上級生はたくさんの武具で訓練しているわけで、それぞれの武具が持つ長所短所を知り尽くしているんだから強くて当たり前。
つまりこの行事における一年生はやられ役ってことなのかな。
「五人一組って言ってたけど、どういう構成になるの?」
「普通は五つの属性をそれぞれ一人ずつ選ぶみたいですよ。その方が状況に対応しやすいですし」
奇手ではあるけどガードユースを揃えてガチガチに守るとか面白いかなーって思ったんだけどな。
「王は後方支援に徹することができるマジックユースに任せるのがセオリーだ。
それをガードがしっかり守り、ブレイド、スラスト、ブロウが相手の王を攻略するのがオーソドックスなスタイルだな」
そっか。相手の王を倒さないといけないならガード五人だと火力が足りないもんね。
「スラストが弓なら遠距離から狙撃するという手もあるが、ガードがよほどの間抜けでなければまず決まらない。だから往々にしてスラストは槍を選ぶ」
はいはい。
ガードがダブルのトゥシスを抜けるスラストなんてそうそういるわけありませんよーだ。
「あ、だったら複数のユース持ちってすごく有利なんじゃない? 相手の出方によって攻撃重視にするのか、守り重視にするか選択できるわけだし」
武具の持ち込み制限がないのなら、相手の出方によって獲物を変更できるマルチユースってすごく有利になる気がする。
特にフォーユースのイーサってチートレベルな気がするんだけど。
ダブルのガードでブロウとのツーユースであるトゥシスも強いだろうし。
「……なによ?」
トゥシスが驚いたと言いたげな顔で私を見ている。
「あ、言わなくていい。頭痛いからケンカしたくないし」
どうせ「お前でも少しは頭を使うことがあるんだな」とか言うに決まってる。
「メンバー選びは大事でしょうね。戦術の柔軟性だけではなく、勝てる実力のある人で固めること。そして互いに信頼できること。
それがあれば一年生にも十分勝機はあるのではないかしら」
そういう意味でもフォーユースのイーサ、ツーユースのトゥシスとハージェシカさんはメンバー候補の最有力だよね。
「代表となるのは各学年1チームだけですが複数のチームがあっても構いません。その場合は代表選考戦を行います。
これをいい機会だと考え、お互いのことをよりよく知って欲しいと先生は思います。声を掛け合って交流を深めてください。そしてチームでの戦い方を練習してください」
代表チームに私が選ばれるのは無理だよね。
ブレイドとはいえ愛用の剣以外はさっぱりだし、その肝心の剣は修理に出しちゃってるし。間違いなく候補外だ。
その分、イーサのチームを応援させてもらおうっと。
※ ※ ※
その日から、あちこちでクラスメイトたちが集まって話し合っている姿を見かけるようになった。
そして当然、フォーユースのイーサのところにもやってくる。
「俺のチームに入れ! 悪いようにはしない」
「僕と同じチームになってくれないかな。君が入ってくれれば戦略の幅が広がると思うんだ」
だけどイーサは一度も首を縦に振らなかった。
このクラスにはマジックユースが4人いる。
イーサ、ケインズ君、ヨシリアム君、ツグース君だ。
もっともイーサは他に3つもユースがあるからマジックにこだわる必要はないんだけどね。
それに必ずしもマジックが中心にならなくてもいいんだって。
戦い方によって編成は変わるし、そこも含めてどういうチームにするのかがポイントになるみたい。
ヨシリアム君たちは早い段階でメンバーが決まっていた。
ブレイドはユウリーンさん、スラストはジョアンナさん、ブロウがシントリアさん、ガードがマーサさん。
ヨシリアム君以外は全員が女の子で、各属性が一人いるオーソドックスな編成だ。
「でもケインズ君たちがちょっと意外だったかなぁ」
ケインズ君はマジックユースだからイーサがマジックを担当する場合は王候補が被ってしまう。
もちろん必ずしもマジックが王役をする必要はないし、イーサがマジック以外をやれば問題はない。
だからイーサたちはどうするつもりなんだろうと様子を見ていたら、なんとケインズ君はブレイドのシンハース君、スラストのレフィ君、ブロウのヘイズ、ガードのゲンザール君でチームを組んでしまった。
てっきりイーサは彼らとチームを組むと思っていたからびっくりだよ。
親睦会に誘ってもらって、親しい仲なのは知っていたし。
だからイーサが仲間はずれにされたみたいでちょっとかわいそうだと思っちゃったんだよね。
「ねぇ、ケインズ君。ちょっといい?」
我ながらどうしてこんなに腹立たしいのか理由はよくわからない。
「なんだい?」
「どうしてイーサを仲間外れにしたの?」
そうあって当然っていうのが違っていて許せないというか、しっくりこないっていうか……ああ、そうだ。
家族だ。ヘイズが言ってた家族みたいなもの。それがバラバラになっているのが私はイヤなんだ。
「もしかして対抗戦のチームのことかな?」
ケインズ君は私を見ながら優しい顔で微笑んでいる。
「あれはお嬢からの指示なんだ」
「イーサから? もしかしてイーサは出場しないつもりなの?」
「いいや。出る予定だそうだよ」
「だったらどうして同じチームにならないの? イーサたちがバラバラなんて私はイヤだよ。
ヘイズが言ってたの。イーサたちは家族みたいなものだって。家族っていつもいっしょにいるものじゃないの?
それにイーサとトゥシスがケインズ君たちとチームを組んだら上級生にだって負けないかもしれないのに……」
別に悔しくともなんともないけど、トゥシスのガードとしての能力はすごい。
だからトゥシスがイーサを守り続け、あとの三人で相手チームを攻略する方法を考えれば一年生だって上級生に勝てる気がする。少なくとも負けないと思う。
だってトゥシスのガードを突破するのは本当に簡単じゃないから。
「お嬢にも何か考えがあるんだと思うよ。もちろん私たちのチームだって簡単に負けるつもりはない。お嬢が作るチームに勝ってみろと発破をかけられたと思っているからね。
だから一年生代表の座は私たちがもらうつもりだ」
ケインズ君とヨシリアム君の2チームがすでにあるから、クラスの人数から最大であと2チームしか組めない。
イーサは対抗戦のチームをどうするつもりなんだろう。
※ ※ ※
寝る前はイーサに方術の基礎を教えてもらう。
残念ながら今まで一度も成功してない。でもイーサは私を見限らずに付きっ切りで教えてくれる。とても面倒見のいい人だった。
だから一日でも早く方術を使えるようになりたい。イーサに私が方術を使ってるところを見てもらいたい。
「……なんだか集中できていないようですね」
「そ、そうかな?」
いけないいけない。余計なことを考えてた。
今は方術に集中しないと。
「どうかしたんですか?」
椅子の後ろに立ったイーサが両手を私の肩に乗せる。
イーサの体温が手のひらから伝わってきた。
「んと、聞きにくいこと聞いてもいい?」
「もちろんですよ。だってサダーシュはわたくしの友達ですもの。遠慮なく聞いてください」
「じゃあ聞くけど……対抗戦のチームをどうするつもりなの?
ケインズ君たちはもうチームを組んじゃったし、残った人の中からメンバーを選ぶの? 大丈夫? 勝てそう?」
フォーユースで対応力があるイーサ、圧倒的な防御力を誇るトゥシス。
あとは攻撃力があるメンバーさえいれば上級生に勝てるかもしれないのに。
対抗戦はたくさんの人が見に来る。そこで活躍すれば騎士として採用しようと思ってくれるかもしれない。
ましてやイーサはフォーユース。英雄の資質すら持っている。
みんなが期待しているはずだ。この新入生はどんな戦いを見せてくれるのだろうかって。
私ならこんなチャンスを棒に振ることはできない。
「トゥシスに任せてあるから大丈夫よ」
なんでもないことのように言う。
でもね、もうそんなに人数は残ってないんだよ?
「トゥシスはハージェシカを誘いたいと言っていたわ。もう一人はハヤードになるのではないかしら」
ハージェシカさんはブレイドとブロウのツーユースだ。彼女なら攻撃役を任せるのに十分な実力があると思う。
ハヤード君はスラストの授業で弓が自慢だって言ってたな。
この二人が攻撃役なら上級生チームを攻略できるかもしれない。
「その二人がイーサのメンバーになるならきっと強いよね!」
本当に勝てるかもしれない。
「あと一人はどうするの? オーソドックスな五人編成でいくんでしょ?
イーサがマジックとして、トゥシスはガード。ハージェシカさんはブレイドとブロウの両方でいけるから……」
「ハージェシカにはブロウで加わってもらうつもりよ」
「そうなんだ。じゃあブレイドはどうするの?
あ、ハヤード君に弓をお願いして、もう一人スラストを入れるとか?」
オーソドックスにこだわる必要はないわけで、手持ちの戦力で最も強い構成を探るのは悪いことじゃないはず。
「いいえ、最後の一人はブレイドって決めているの」
ケインズ君のチームにシンハース君がいて、ヨシリアム君のチームにはユウリーンさんがいる。
あとブレイドで残っているのはエイザーン君と――
「あなたよ、サダーシュ。わたくしはあなたにブレイドをお願いしたいの」
――私だけだった。
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