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授業:ガード



「ふわぁぁぁぁ~~~~~ふぅ。むにゃむにゃ……」


 イーサに方術の先生になってもらって勉強を始めることになった。

 まずは方術の基礎を知っておくべきだと言われて、過去にイーサが使っていた本を借りて読んでいたんだけど……。


「決めた範囲をちゃんと覚えているかどうかテストするって言うんだもんなぁ」


 覚えが悪い私はなかなか許してもらえず、結局、寝たのは夜と言うよりは朝に近い時間になっちゃったんだよね。だからとっても眠い。


 でもね、収穫はあった。それも大収穫!

 どうやらイーサの言っていた先天的に方術が使えない人がいるっていうのは事実らしいんだけど、それも人間に限れば40%程度なんだって。

 つまり四人に三人は方術の素養があるってこと。これは確率の高い賭けだと思うんだよね! 私、算数は苦手なんだけど!


 方術は習熟していくことによって成功率も高まっていくそうだから、本当にこれからの努力次第で使えるようになるかもしれないのがわかったのはすごくうれしかった。うれしくて思わずイーサに抱き着いちゃったし。


 今は方術全盛の時代。

 方術印とコマンドワードと方術の知識と触媒である発動体を持っていて、素養があれば誰でも方術が使える。


 もっとも方術印なんて簡単に手に入るものじゃないから、素養があっても一般の人はそう簡単に方術は使えないんだってさ。ちょっと残念だよね。


 理由は簡単で、使い捨てになる方術印の生産性があまり高くないから。

 方術印は技術の集積物。方術の知識と技術、それから読み書きができて初めて描かれるものだから、そう簡単に量産できるものではないんだって。

 つまり方術印はそれなりに高価なもの。これは耳よりな情報だよ。


 いくつか例外はあるそうなんだけど、方術印は基本的に方術師にしか描けない。

 だから世の中には方術師として大成することを目標とせず、筆写師として生計を立てている人もいるんだってさ。


 さっきも言ったけど、方術印はそれなりに高値で取引されている。

 発光みたいな初歩の方術をはじめとして、もっと有用な――例えば戦闘で使う攻撃方術や防御方術、ステータスアップの補助方術とかは冒険者の需要が尽きないみたい。


 それに効果が特別高かったり、独自の効果を持つ方術印はさらに高額で取引される。

 つまり需要のある方術印が描けるというだけで収入が望めるってこと!

 これは大事なポイントだよ!


 そういうわけで方術師という職は騎士の次に目指すべき目標にしてもいいかなって思ったぐらいだし。


 でも騎士が一番なのは変わらない。

 なんといっても騎士は定額収入が得られる。家族といっしょに暮らすことを考えたら、これは大事だよね。


 一発当たれば大金持ちになれるかもしれないけどいつも危険と隣り合わせの冒険者にはありえない安定した生活。やっぱり私は騎士を目指したい。

 一獲千金を夢見て敗れた冒険者をいっぱい見てきたからね。


 さっきの方術印を描ける例外の一つに方術の使える騎士があるの!

 つまり方術印の執筆は方術が扱える騎士の有力な副収入源ってこと。安定収入に加えてアルバイトでも収入が期待できる。もう将来はこれしかないよね!


「そんなデカい口を開けていたら、こっちから拳をぶち込むぞ」


 呆れるような目で私を見ているのは、左手に艶のない黒色の長手甲(ガントレット)を装備したトゥシスだ。

 手の甲から肘の先までをカバーしていて前腕をがっちりと守っている。しかも手を握ると拳の部分で殴れるようになっていた。

 ガードユースでありブロウユースでもあるトゥシスならではのオリジナル装備だ。

 ワンポイントで朱色も入っていておしゃれにも気を配っている。


「ほらほら、いつまでもイチャイチャしてないで。サダーシュちゃんはトゥシスちゃんをばばーんと攻撃なさーい♪」


 ガードのケントール=フィルマウス先生のしゃべり方って慣れないなぁ。

 なんであんなに体をクネクネさせるんだろう。2メートル近い体格でああいう動きをされると、なんていうか、その……キモいよね。言葉遣いもなんかヘンだし。


 今はガードの授業中だ。

 そして私とトゥシスは訓練場の中央で対峙している。


 ガードは人の姿をした盾として身分の高い人の近くに仕えることが多いユース。まさに護衛することに特化している。

 通常は頭から足まですっぽりと覆うフルプレートだとか、全身が隠れてしまうぐらい大きな盾を持つことが多いんだって。


 でもトゥシスはブロウユースでもあるから攻防一体の武具をということで長手甲に落ち着いたんだそうだ。

 以上、イーサ情報でした。


 物見の儀でトゥシスはガードのダブルだというのをみんなが知っている。

 ダブルは同じ属性の武印を二つユースだ。トゥシスの場合はガードを二つ持っているわけ。

 ちなみに武印のアザがどこにあるかは教えてくれなかった。


 じゃあ、このダブルってどれぐらいすごいの?って話になるのは当然だと思う。だって珍しい存在なんだし。


 数字に例えるとおよそ二倍になると考えればいいんだって。

 ただし人によって数値は上下するし、相性のいい武具を使う場合はもっと高くなったりもする。


 例えば武印が一つなら+10として、それがダブルだと+20って感じかな。これだけでもどれほどすごいかわかるでしょ。


 目安として+1はユースじゃない普通の人が何年も訓練をして至る力量だと考えればいいかな。

 だから+10は何十年もの鍛錬の結果たどり着けるかもしれない領域になる。+20なんて普通の人ではとても踏み込めないレベル。


 というわけで、トゥシスは同じガードユースでもゲンザール君やマーサさん、シュンタークス君よりも一段も二段も上の実力を持っている。


 そうしたらトゥシスがどこまでやれるか見たいってケントール先生が突然言い出したんだよね。

 そこまではいい。私もどれだけ強いか見たかったし。


 ガードユースの能力を見るには実際に攻撃を受ける必要がある。

 そしておあつらえ向きなことに、このクラスにはうっかり央国五剣に推薦されかけたおマヌケなブレイドユースがいるからってことで私に白羽の矢が立ってしまった。


 言っておきますけど、その推薦はきっぱり断りましたからね?

 剣だけで生きていくのが大変なのは知ってるし、私の目標はあくまでお給金がいい騎士になることなので! できれば方術が使えて副収入が得られるような!


「おい、いつまでそうやっているつもりだ。本当にこっちから仕掛けるぞ」


「今やろうと思ってたの。っていうか本気出していいの?」


 ニシキーン先生との時はそれなりに気を使っていたんだからね。

 魔獣以外と戦ったことないし、どこまでやっていいかわかんないから。


「この手甲で守りに専念すれば央国五剣すらしのぎ切れる自信がある」


「ほっほっほ。これはまた大言を吐くものですね。先生、その鼻っ柱をぽきって折りたくなっちゃうわ♪

 そして傷心のトゥシスちゃんを慰めてあげるのよ。もちろん二人きりのベッドの中でね」


 あ、トゥシスの額から汗が流れ落ちてる。


「……来い。頼む、来てくれ」


 トゥシスの懇願とか珍しいなぁ。気持ちはちょっぴりだけわかるけど。


「じゃあ、サーベルウルフぐらいの想定でいくからね」


 私は魔獣としか戦ったことがなかったから、どうしても魔獣基準で考えるしかない。


「もっと上を想定してもいいぞ」


 そんなこと言うけど、中位危険種のサーベルウルフって十分強いんだからね。熟練の冒険者なら討伐できるってレベルなんだし。


 これまでの授業でトゥシスの動きを見ていて目がいいのは知っている。

 目のよさっていうのは戦う時はとても大事なことだ。

 見えていないと相手がどう動くつもりなのかわからないからね。


「はっ」


 前へ。

 フェイントもせず、まずはトゥシスの左側――手甲のある方へ攻撃。


「ぬるい!」


 ガツンという衝撃があったかと思うと、あらぬ方向に剣が弾かれていた。

 慌てて距離を取る。トゥシスはその場から動いていない。


「びっくりした。器用なことするんだから」


 今のは互いの武具が触れ合うタイミングをズラしてカウンタ気味に剣を迎撃された。やっぱり目がいい。


「そんなナマクラだと俺の体に届きすらしないぞ。真剣にやれ」


「言ってくれるわね。泣いても許してあげないんだから」


 と、その前に。


「せんせー! 自前の武具が壊れたら、学院のお金で直してくれますかー?」


「もちろんよー。だから遠慮なく戦ってちょうだーい♪」


 よし、言質は取った。ちょっとだけ本気出すよ!


 ぶらりと下げた剣を小刻みに揺らしてリズムを取っているフリをしつつ、足の動きは微妙にタイミングを変える。普通に歩きながら距離を詰めていく。

 ちょっとした違和感を視覚情報に与えることで混乱を誘い、意識のズレを強制的に作って攻撃を仕掛ける。


 剣の届く距離になった瞬間、上段から斬りかかると見せかけるために大きく剣を振り上げる。

 大振りだから普通はフェイントを警戒する。でもそのまま振り下ろす。


 トゥシスは左足を下げ体をひねって斬撃をさける。

 手首を返して振り下ろす軌道を強引に横凪ぎに変える。高さは首の位置。


「ちっ」


 左腕の手甲で受けようとしたので、剣の軌道をさらに変えて首の高さから腰の高さへ。


 トゥシスの肘が下がって剣を受け止める――と思わせた時には剣を引いて右回りに旋回しながら剣の軌道を再び首の高さにして振り抜く。


「ふっ」


 右腕には手甲がないのでガードは間に合わないと判断したのか膝を曲げてやり過ごそうとしている。

 ちょうどいい高さに顔があるので回転の勢いそのままに左足の膝を叩き込んだ。


「いったぁぁい!」


 狙いはバレバレだったみたいで、手甲でしっかりガードされてた。

 足一本でけんけんしながら距離を取る。

 うぅ、膝小僧が割れちゃったかと思ったよ……。


「な、何が起きたんだ?」


「サダーシュが歩いて前へ出たと思ったら剣を振り上げてグルって回って……ええ?


「ふっ。涙目になったのはそっちだったようだな」


 あ、今のはカチーンときた。

 絶対に後悔させてやるんだから!


ブックマーク等、よろしくお願いします。


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