ex密会2と3
「今年の新入生の話はもうお耳に?」
「噂ぐらいですが。当日は外出していたので」
深夜、王立学院の一角。
かすかな月明りだけが届く人気のない場所に二つの影があった。
「それは惜しいことを。たいそう愉快だったというのに。
この学院が始まって400年ほど経つそうですが、その歴史の中で複数のマルチユースが同時に入学するなんてことは滅多になかったでしょうよ」
「それはそれは」
少女は呆れたような口調だった。
「私の記憶が確かなら去年もマルチユースがいたはずですけれど。貴方も含めて複数ね。それは学院の歴史の中でも滅多になかったことではないのかしら?」
「そうでした。十年に一人どころか二十年に一人の逸材が入学していましたね。
もっとも、それも過去のものになってしまいましたが」
「それはつまり……そうですか。そこまでとはさすがに思いませんでしたよ。
そうですか。ふふ、そういうことですか……」
女子生徒が口元に手を当てて忍び笑いをする。
「その顔は美人にあまり似つかわしくないのでやめておいた方が無難かと。純情な下級生が今の貴方の顔を見たら恐怖のあまりに失禁しかねない……」
茶化すような態度の男子生徒を、鋭い目つきで女子生徒が睨みつける。
「おっと。さらに怖い顔ができるだなんてこれは予想外でした。すみません、悪気はないんですよ。ただ事実ってやつを指摘しただけですから」
「余計に性質の悪いことを」
背筋が凍るような雰囲気がわずかながらに緩む。
だがいまだに氷柱を背中に押し当てられているかのような緊張感は残っていた。
「他には何か?」
「我らが同志も無事に入学をしています。残念ながら寮は別室ですが。
いずれ接点はできますし慌てる必要はないでしょう。悟られたら計画が台無しになってしまう」
「結構です」
少女は壁に預けていた背を離し、歩み去ろうとする。
「愉快な話をご入り用ではないと?」
少女の足が止まる。
「……あの者たちがマルチユースだったという以外に何かあるのですか?」
振り返った少女は怪訝そうな顔をしている。
マルチユース――それもフォーユース以上の話があるというのだろうか。
「もちろんありますとも。なにしろ、あのカーモリア=アナディールによる物見の儀ですら正体が読み取れなかった者がいたわけでして」
「まさか……」
現在の学院長であり、歴代学院長でも最も能力が高いと言われるカーモリアの方術師としての実力は超が付く一流である。
特に物見の儀については、この国でもトップクラスのジュリウス、ジンバルクですら彼女には及ばないという存在だ。
その彼女の物見の儀ですら正体が読み取れなかったというのは確かに興味深い。
「その者の名は?」
「サダーシュ。サダーシュ=シュラインベース。ブレイドらしいとのことです。
貴方とどちらが強いんでしょうね?」
「本物の実力者なら対抗戦に出てくるでしょう。そこで実際に戦えばわかります」
「でも出場予定はありませんでしたよね?」
少女は何も答えない。
「楽しみにしていますよ。その日が来るのを」
※ ※ ※
別日。
深夜、王立学院の一角。
かすかな月明りだけが届く人気のない場所に二つの影があった。
「珍しいこともあるわね。前の接触からそんなに経っていないというのに。
頻繁に会うのは避けるべきと言ったのは貴方ではなかったかしら」
「いかにも、その通り。けれど会うべき用件がある時にはいつでも声をかけるように言われたこともまた事実」
男は飄々とした態度で少女の舌鋒をかわす。
「用件を。あの者たちに動きがあったのですか?」
「いえ」
少女は眉を曇らせる。
「例の正体不明の方です」
「ああ。学院長が能力を読み取れなかったという。それが?」
「ニシキーンが空席になっている央国五剣に推薦すると言ったそうですよ」
少女が目をすがめる。
「……冗談ではないようね」
「残念ながら」
ふぅと少女が小さなため息を吐く。
「それほどの存在?」
「直接は見ていませんからなんとも。ただ同志によると、それに相応しいだけの実力はありそうだということです。
なにしろブルガの黒い狂戦士がその正体だそうですから」
「……バケモノの類か」
その名前は少女も耳にしている。
方術師であればディープティールの森で魔獣を狩る謎の剣士について興味を持たないはずがない。
「それだけの力の持ち主……妖人族の可能性は?」
もう一つの人類である妖人族は人間族よりすべての面で優れていると言われる。
地上世界への侵略を虎視眈々と狙う妖人族は全人類の敵であった。
「不明です。大きすぎる不確定要素は早めに排除すべきかと思いますが?」
少女は右手の指先を顎に当てて考え始める。
目的、状況、進捗。あらゆる可能性を考え、整理し、まとめる。
「そろそろ対抗戦のチーム決めのタイミングだったわね」
「ええ」
「私たちもチームを組みます」
「いいんですか? 目立つのは避けるという方針でしたが」
「あくまでこれは様子見ですから」
少女の凄絶な微笑みに男は背筋を震わせた。
ブックマーク等、よろしくお願いします。




