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手合わせ

今日はおまけがあります。

おまけは20時ごろに更新する予定です。


「ブルガの黒い狂戦士相手なら少しばかり本気を出しても大丈夫だよな。

 頼むから間違っても死ぬなよ?」


 ニシキーン先生の口元が楽しそうに歪む。

 だからそういう物騒なこと言わないでくださいってば!


 拮抗していた鍔迫り合いの均衡が崩れる。

 先生が力を抜いて私の体が流れるのを誘ったのだと理解する前にあえて流れに乗って飛び込む。

 耳元をかすめる剣筋を見極め、地面に着地したらそのまま距離をとるために走る。

 訓練場の柵の際までおよそ8メートル。瞬き二つで届く。

 後ろから迫ってくる気配はなし。


 そのまま走って柵を蹴る。

 体をひねりながら先生が立っている場所まで跳んだ。


「とぉおぅぅ!」


 跳躍による高さと回転によるスピードを加えた一撃!


「そんな大技がそうそう決まるとでも――」


「ハァァァァッ!」


 気勢を上げて、委細構わず振り下ろす。


「――チィ」


 空気を震わせる鈍い音と振動と共に、訓練場の砂が大量に舞い上がる。

 手ごたえでわかっているけど、先生は剣で受けずに下がっていた。

 うん、それで正解です。

 手加減したとはいえ、あれを受けて無事でいられるのはハードロックタートルの甲羅ぐらいですから。


「ぺっ、ぺぺっ。

 うぅ……口の中に砂入った……」


 ザーというまるで大雨が降っているみたいな音といっしょに大量の砂が落ちてくる。

 力をセーブしていたとはいえ、訓練場の中央は大きく抉れて人が立って入れるぐらいの穴が開いている。

 これ、誰が直すのかなぁ。私じゃないといいなぁ。


「……なんて馬鹿力だ」


「んなっ!? バカじゃないです!

 っていうか、さっきから先生は私にひどいことばっかり言ってる気がするんですけど!」


「そうか? ブルガの黒い狂戦士に対する評価としては穏便な部類だと思うが」


 言いながら先生は剣を鞘に納める。


「だから私はその黒いなんとかじゃないですってば!」


 そもそもなんなのよ、そのへんてこな名前の人。


「ブルガの黒い狂戦士ですか……聞いたことがあります」


「知っているのか、ケインズ」


 マジックユースのケインズ君とトゥシスの会話が聞こえてきた。


「央国の北東の果ては魔獣たちの生息地となっているディープティールの森が広がっているのはご存じでしょう。

 その森に姿を見せる魔獣は最低でも中位危険種。一般人で立ち寄る者はまずいません。並みの冒険者では生存すら危ぶまれる地域です」


 私ってそんな物騒なところで暮らしてたの!?


「百年ほど前に軍が魔獣討伐に向かったことがあるのですが、その時は参加した兵士の八割が死傷するという散々な結果に終わっています。

 それ以降、央国は深碧(しんぺき)の魔の森に対して不干渉政策をとっているわけですが、わずかながらその森を目指す者たちがいます」


「そんな危険な森にどうして近づくんだ」


「あそこには希少な資源が大量に眠っているんです。それらは方術との相性が非常によく高値で取引されます。さらに魔獣から得られる素材も貴重なものばかりです」


 あの森でとれるものにそんな効果があったんだ。知らなかった。


「そして最近になってあの森の近くで暮らし、魔獣を専門に狩る剣士がいるという噂が流れてきました」


「それがブルガの黒い狂戦士というわけか」


「はい。千人単位の兵士たちですらかなわなかった魔獣を黒い剣一本で倒す剣士の話は知る人ぞ知る情報です。特に私のような方術師の間では有名ですね」


 ケインズ君の話が終わると、みんなの目が私に集中する。

 えっと、だから私はそのなんとかいう危ない人じゃないですよ?


「ハッハッハッ。しかし、なんてでたらめな戦い方だ。だが魔獣相手ならあのくらいの方がいいのかもしれないな」


 笑いながらニシキーン先生が私の背中を叩く。


「い、痛いです……」


 頭の上から砂が落ちてきた。

 早くお風呂に入ってさっぱりしたいなぁ。


「サダーシュ、入学式で学院長に言われたことは忘れてしまえ」


「はぁ? なにを言って……」


「貴様の剣の才は他の者とは次元が違う。おそらくユースではないな」


「違うんですか?」


「……まさか、アーツ!?」


 イーサの驚いたような声が聞こえた。


「わからん。イーンエーイと同じ存在ならお前の持つその剣がそうなるわけだが。

 とにかく槍だの方術だのと寄り道をせずに剣の腕だけを磨け。貴様にはそれだけで十分だ」


「え~。ユースじゃないのは困ります。騎士になれないじゃないですか」


 今どきの騎士はユースであって当たり前。その上でどれだけ多くの武具を扱えるかが評価のポイントになってるそうだし。

 それに方術も使えた方がなにかと就職に有利だっていう話もあるんだよね。だから剣だけは困るんですっ。


「なんだ、貴様は騎士になりたいのか。なんとも欲のない奴だな。

 なんなら私の名で空いている央国五剣の一席を国王陛下に推薦してやるぞ?」


「は? あの、ええぇっ!?」


 央国五剣って、この国で特に剣に秀でた人たちのことですよね? すべての剣士の憧れっていうあの。

 それに私を推薦って……ええぇぇぇぇ!?


「よし、全員との手合わせが終わったな。

 では次の授業までに練習メニューを用意して――」


 なんだか先生はすごく楽しそうだった。

 でも私はちっとも楽しくないんですよ!



        ※        ※        ※



 ブレイドの授業であんなことがあってからというもの、なんだか落ち着かない日が続いている。

 例えば食堂に入った瞬間だ。

 同級生だけじゃなくて上級生の視線も一斉に向けられる。それからヒソヒソという話し声。

 すごく落ち着かない。


「どうかしたの?」


「んー、ちょっと落ち着かないかなーって」


 お肉のソテーを口に運ぶ。

 はふぅぅ。こんなにお肉が柔らかくなるなんて……いくら噛んでも固いままだったこれまで食べてきたお肉とは大違い。

 学院の食堂で食べられるものはなんでもおいしくていいね。


「ブルガの黒い狂戦士――失礼。央国五剣の候補ともなれば仕方のないことだと思いますよ」


 にこやかに微笑みかけてくれるのはケインズ=サウスマウンズ君だ。

 ブレイドの授業でトゥシスと話してた人なんだけど、彼もイーサの知り合いなんだって。

 マジックユースとしてはかなりの実力者だとイーサが教えてくれたけど、私に関する誤解を広めた人でもあるんだよね。


「貴方のような方がいてくれたおかげで私たち方術師は新たな方術具を作成したり、他にも様々な利益を享受できていたわけです。感謝の言葉もありません」


 ケインズ君はわざわざ椅子から立ち上って私に頭を下げてくれた。

 落ち着いた物腰の人で、おまけに私のことをすごく持ち上げてくれて、それはとても嬉しい。

 でもこういう扱いに慣れてないから、どういう態度をとったらいいのかわからなくて困ってたり……えへへ。

 まぁ、どこかの誰かとは違って印象はとってもよいです。


「そう言われても私も知らなかったことだから……えっと、気にしないで?」


 預かり知らぬところで祭り上げられても困るしね。


 そもそも悪いのはニシキーン先生なわけで。

 気まぐれに私を央国五剣に推薦するなんて言い出すのがおかしい。


 さすがに断ったよ。

 実は別人でしたってオチになったら、私の就職に影響出かねないもん。


「サダーシュの剣の腕が央国五剣に匹敵するなんてすごいことです。

 これからはこんなに腕の立つお友達がいるんですって自慢ができます」


「やーめーてー……」


「その剣技、神のごとし、シュンザーイ=ピンカーウェル。

 近衛騎士を鍛える達人剣、ニシキーン=ネオビューズ。

 隻腕の剣豪、ハチリューン=イーガーデン。

 門弟三千人、ジョースター=サザンリーフ。

 それにブルガの黒い狂戦士、サダーシュ=シュラインベースが加わるわけか。まさに笑い話だな」


「だからやめてって言ってるでしょ! 性格悪いわよ!」


「俺は昔からこの性格だ」


 私とトゥシスの言い合いを、イーサとケインズ君は微笑ましいと言いたげに見守っている。

 あの、なんか勘違いしてないですか?


「サダーシュはあんなに強いのに、わたくしと初めて会った時はどうして戦わなかったのです? あの実力があれば助太刀なんて不要でしたでしょうに」


「王都では無暗に剣を抜いてはいけないっておじさんに言われてたんだもん。それに相手を怪我させたら悪いし……」


 魔獣相手ならまだしもね。


「そんな良識がお前にあったなんて驚きだな」


 むきー!

 あんたはいちいちまぜっかえさないと気が済まないの!


「あの子より剣に愛されている人がいるのは意外でした。でもあの戦いを見れば納得するしかないですね」


「ユースとして不安定っていうのかあれは」


「アーツの可能性はどうなんでしょう」


 三人が私のわからない会話をしている。

 できれば私も話の輪に加えて欲しいなー、なんて。


「あのバケモノじみた動きは他の剣だとできないというのは本当ですか?

 ブレイドユースであれば刃のある武具はどれも上手く使うというのが一般的な認識なのですが」


 ケインズ君もさりげなく「バケモノじみた」とか言わないで。悲しくなってくるから。

 私だって女の子なんだよ? 今の女の子に言う言葉だと思う?


「むしろ、いろんなことに詳しそうなケインズ君に私が聞きたいぐらいだよ。なんで私って他の剣だとさっぱりなの?」


 ニシキーン先生との手合わせを全員が終えてから、学院が用意している様々な剣に触らせてもらった。

 愛用の剣に似た形の剣もあったんだけど、それだとピンとこないだよね。

 長さも形も様々な剣を触らせてもらったのにどれも似たり寄ったり。つまり使い物になりそうになかった。


 それを見ていたニシキーン先生は笑いながら「貴様はそれでいい」なんて言ってくれたけど、剣一本しかまともに使えないとか今どきの騎士として失格じゃないですか。


「どんな剣でも戦えるようになりたいんだけどなー」


「ひとつの武具と心を通わせるのも大切なことだと思いますよ」


 うーん、そういうものなのかなぁ。

 私にはちょっとわからないや。





 その夜のこと。


《……》


 なんだろう。

 心がザワザワする。

 誰かに呼ばれている気がする。


 お風呂の時も食事の時も。

 ずっと呼ばれている気がした。


おまけ 密会2と3……2017/07/15 20:00ごろ更新予定


叫び声は某航空巡洋艦リスペクトで。


ブックマーク等、よろしくお願いします。


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