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愛の理由  作者: 桜井雛乃
出会い
12/46

出会い 弐 ☆

「べんけーはさ、平家の悪行を許せる?」

 彼に愛らしさの余り、笑顔を零した某に義経は満足そうに笑う。

 そして、其の様な事を問うて来た。

 某はかなり話題になって居ただろう。其れならば、其れを倒したとあらば、其の話は直ぐに知れ渡ったのでは無かろうか。

 今ならば流石に大丈夫であろうが、外に平家の者が居たならば如何する心算か。

 又、平家の者では無くとも悪行等と言っているのを聞き流しはし無いだろう。

「悪行か。義経が悪行と言う其れは何なのか、教えては貰えぬか。某を悪と言わぬお主は、何故平家を悪と申すか」

 某程の悪人を悪で無いと言う義経が許せぬ悪行とは、平家は何を行って居るのだろう。

 良い噂は聞かぬが、其れ程悪い噂も聞かぬ。興味が無かっただけなのかも知れ無いが、まあ、某にとっては何方でも良い事。

 義経がそう言うなら、某は着いて行くのみだから関係無い。

「おれの勝手な話なのかもしんないけど、平家のやつらはずっと……おれの兄さまを……」

 某の質問に少し迷った様な表情もしたが、義経はそう返してくれた。

 兄? 義経は源と名乗ったか。まさか、源氏の生き残りだと言うか。其れで平家を許せぬと彼は言ったのか。では兄とは……。

 御世辞にも其れを優しさとは言え無いが、人を苦しめて居る事が確かならば、平家を正義とも言え無いのだろう。

 言葉を聞けば、其の兄は未だ生きているのか。

 仇取りでは無く、人助けと考えれば、義経を正当化する事も出来よう。

「そうか。義経の兄を苦しめ続けた、平家を許す訳には行かんな」

 明るかった義経の表情が、徐々に暗くなって行く。此れ以上そうはさせない為に、某は返答した。

 きっと苦しむ兄の事を想ったのだろう。

 具体的にどの様な目に遭っているのか、其れ処か苦しんで居るとさえ義経は口にしていない。

 其れでも彼の暗い顔、一瞬だけ浮かべた悲しそうな表情。義経に其の様な顔をさせるのだから、余程の事をしているのだろう。

 しかし義経は悲しそうなだけで無く、何かを見ていた。

 悲しげな瞳の奥に憧れや愛しさが輝いて居る様に見えて、某は少し寂しく思った。

 其の瞳に映る物も、某が寂しさを感じた理由も、理解をする事が出来なかった。

「それじゃあ、平家と戦える? つらい戦いだと思うけど」

 戸惑い考える某に、更に惑わす様な事を義経は言って来る。

 某の覚悟を測っている様な言い方。艶やかで誘惑する様に、桜色の唇からそう紡がれる。

 変な言葉を言っている訳でもないのに、如何して彼が言うとこんなにも美しく、色っぽいように感じるのだろう。

 ああ、如何したら此の想いは止まるのか。

 某はただ、義経に着いて行きたいだけなのに。

 義経の隣で戦って行く為に、某は生きたいのだ。義経を守り、自分の力が役に立つ、戦の中で某は生きて行きたいのだ。

 美しいのは本当だが、其れに惑わされる意味とはどういう事か。某は何を考えている。

 抑々、義経は如何見ても”美しい男”ではないか。其れに某は何を抱くか。

「ああ。何れ平家は某を討伐する心算であっただろう。敵対する事に異存は無い」

 強い決意を込めて言った某に対し、義経は嬉しそうに笑顔の花を咲かせ、有ろう事か某に抱き着いて来た。

 其れで胸がときめいている某とは何なのだろう。

 そして其処だけに注目しては、某の体は鈍ってしまうだろう。

 だって義経が某に勝る事を改めて見せられた訳だから。

 義経は某の目の前に座って居た筈だった。其れなのに、何時の間にか某の後ろに回り、抱き着いて来て居たのである。

 其処迄の動きが、某には全く見えなかった。

 彼がその気であったならば、もう殺されていた事だろう。

 気付かない内に背後へ回っているとは、流石は義経としか言い様が無い。

「ありがと。じゃあべんけー、よろしくね。ははっ、安心したらちょっとねむくなっちゃった。おやすみ」

 本当に眠たそうにそう言っている義経。

 ただ耳に掛かる甘い声や欠伸の息、無意識なのか某の胸元を滑らせている美しい指。義経の何もかもが某を誘惑している様で、我慢をしているのが限界であった。

 否、反対かも知れぬな。

 義経の美しさには、固まって居る事しか出来なかった。

 微動だにせず正座したままで、義経の指が動くのを――。

「いひゃっ」

 其の指が硬くなる某の乳首に触れ、情けなく高い声が漏れてしまった。

「どうしたの? べんけー」

 不思議そうに聞いて来る声は無邪気其の物だけれど、耳に掛かる息がまた某を誘惑するのであった。

 此処迄無意識でやっているのだとしたら、源義経と言う男は本当に物凄い男だ。

「何でも無い。疲れたし時も時だし、某も眠くなっただけだ」

「そっか。べんけーだって、ねむいよね」

 言い乍らも、義経は既に眠りに入っている様であった。

 寝息が愛おしい。

 けれどずっとこうして居る訳にも行かない。義経の腕を解き、布団は用意出来なそうなので畳に寝かせた。

 そして襲いたい欲望を何とか抑え其の隣で某も眠りに付いた。

 此れはきっと新しい自分との、義経との


 ――出会い。


挿絵(By みてみん)

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