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愛の理由  作者: 桜井雛乃
出会い
10/46

出会い 弐 ☆

「義経、その言葉を信じる。私が兵を挙げたら、私のところへ、源頼朝のところおいで。話は以上だ。あの人はなぜだか私の応援をしてくれるけれど他はそうじゃない。平家の人に監視されている私だから、あまり長居すると怒られてしまうのだよ。だから今日中には帰らせてもらうね」

 そう言っておれの顔をきれいな手でなでると、かなしそうな表情をして歩いていく。

 どうやら、兄さまは秀衡さまのいるほうへと向かっているらしい。

「あなたが頼朝殿ですか。義経をお願いしますね」

 秀衡さまがいる部屋まで俺が案内した。そして兄さまが戸を開けると、秀衡さまはそれを予測していたかのようにそう言った。

 わかっていたんだ。秀衡さまはわかっていたんだ。

 おれが兄さまのところへいくことも、わかっていたんだね。

 ごめんなさい、秀衡さま。だけどおれはやっぱり、この国のために兄さまについていきたい。

 ごめんなさい、となりにいられなくて、ごめんなさい。

「藤原秀衡殿、貴殿には感謝しております。あと少しでしょうが、義経を幸せにしてやってください。私の戦に巻き込むことになってしまうでしょうから」

 かなしそうな声色だったけれど、そのわりに兄さまはかなしそうな表情をしていない。それどころか、笑みさえも浮かべていた。

 兄さまのこの表情は、どういう意味なのだろうか。

「うぅ、わざわざありがとうございます。今日は兄弟で観光を楽しまれるのでしょう? 行ってらっしゃい」

 一方の秀衡さまは、うしろを向いてうつむいて、まったく顔を見せてはくれない。

 ふたりはなにを思っているんだろう。

 考えても見当もつかなくて、おれはなんだかかなしくなった。そしてかなしくなっている、自分がなにを思っているのかもわからなくなった。

 せっかく兄さまが迎えにきてくれたのに。とてもうれしいのに、どうしておれはかなしんでいるんだろう。

「それじゃあ義経、案内を頼めるか。観光とは言っていないけどね」

 部屋を出ておれに微笑みかけてくれた兄さまだけど、その表情は優しいけれどどこかこわいとも思った。

 わからないよ。兄さまが考えることが、まったくわからないよ。どうしておれは、なにをこわがっているんだろう。

「観光をするのではないのですか? そしたら、なにを案内すればよいのでしょう」

 ふしぎに思い訊いてみると、兄さまはふわりと花のような笑顔を浮かべた。

「私のことを案内してほしいのだ。義経、生きていてくれてありがとね。私のことを案内してもらえるかな」

 なんて美しい笑顔を浮かべるんだろう、この人は。

 さっきはあんなにこわかったのに、不意にこんなにも美しい笑顔を浮かべて、この人はなにを考えているのだろうか。

 おれはなにを考えているのだろうか。

「義経、貴殿しかいないのだ。私にはもうだれもいないのだ。これから先もずっと、私についてきてくれるのかい? 強がってたけど、義経に会えて、義経がいてくれて、本当に安心した」

 すてきな笑顔が見えて、きれいな声が聴こえて、そして――。

 それが近づいてきたと思ったときには、おれと兄さまの唇はかさねられていた。

 やわらかい。秀衡さまも愛がたくさんで気持ちよかったけど、兄さまはもっとやわらかくてふんわりと気持ちよかった。

 抱きしめられて、花の香りが漂う髪に顔をうずめて、おれは幸せをかみしめていた。

 秀衡さまと平和に暮らしていた。いきなり戦と言われて、それにおれは耐えられるのだろうか。

 この幸せは平和な生活がおわること。そう思うとちょっとだけくるしくなって、兄さまの服をぎゅっと握っていた。

 背中をさすってくれる兄さまの手は、優しいけれどやっぱりどこかかなしそう。

 だからそんな兄さまを離したらいけないような気がして、おれたちはしばらく抱き合っていた。

「ありがとう。ありがとう、義経。ちなみに義経は、魔術を学んでいるのだろうか」

 手を離して微笑むと、兄さまはそんなことをおれに問いかけてきた。

「今の義経がどれほどまでの力を持っているのか、今日は私に見せてほしい。武勇や知識も披露してほしいものだが、やはり魔術の能力を見せてもらいたい」

 補足してもらって、やっとおれはどういうことだかわかった。

 つまり練習の成果を兄さまに見せろ、ってことだよね。

「わかりました。おれががんばってきたこと、ぜんぶ兄さまに見てもらいたいですもん」

 はしゃぎすぎたかなとも思ったけれど、兄さまは優しそうに微笑んでいてくれた。

「そうか。義経の努力、全部見てあげようじゃないか」


挿絵(By みてみん)


 いつもの練習とそこまで変わることをしていないのに、兄さまが見ているというそれだけで、なんだかとても楽しかった。

 そして兄さまが帰ってしまってから、おれは気がついたんだ。

 泣いていた秀衡さまに、去ってしまった兄さまが残した香りに、おれは気づいたんだ。

 これは兄に対して抱くべき感情なんかじゃないんだと、おれは気がついたんだ。

 秀衡さまのことばの意味もわかる。

 これが兄さまとの、


 ――出会い。

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