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第二十三話 解析と毒煙

第二十三話!

次回から()の中に元素記号を全部入れていこうかな?

楽しんで!

倒れ伏したゴーレムの残骸。

そのクリスタルの破片に混じって、それは落ちていた。金属製のフレームに、漆黒のガラスパネル。

この世界には存在するはずのない、前世のスマートフォンを彷彿とさせるデバイスだ。

「……魔王の端末デバイスか。パスコードがかかっているね。」

 一歳のシンが覗き込むが、今の僕たちには解読に時間をかける余裕はなかった。神殿の奥から、ゴーレムの破壊を察知した次なる『警備装置』の足音が、重低音となって響いてきたからだ。

「零、次が来るよ。……今度は三体。アタカマの弾数で押し切るには、少し数が多いかも。」

 シンの警告通り、通路の先から大型のガーディアンが姿を現す。僕は青い髪を揺らし、足元に散らばったゴーレムの装甲――『魔導水晶』の破片を拾い上げた。

「……なら、この場にある素材で、一気に広範囲をデバッグしよう。」

「零、何を……」

「シン、鼻と口を濡れた布で覆って。……この水晶、魔素を安定させるために『フッ素化合物』が大量に含まれている。これを今ここで分解して、純粋な気体として解き放てばどうなると思う?」

 シンの瞳が、戦慄に大きく見開かれた。医学者である彼は、その物質の凶悪さを誰よりも理解している。

「……零、正気? フッ素ガスなんて、肺に入れば即死。皮膚に触れるだけで組織を破壊し尽くす、悪魔の気体だよ」

「魔法の障壁バリアも、呼吸までは止められないだろう?」


――リビルド


 僕は水晶の破片を掌に載せ、その分子構造を脳内の設計図(青写真)と照らし合わせた。


「いいかい、シン。普通、フッ素を単体で取り出すのは至難の業だ。化学反応性が強すぎて、容器そのものを腐食させてしまうからね。前世でもアンリ・モアッサンが分離に成功するまで、多くの化学者が命を落とした『化学界の暴君』だ」

 僕は、リビルドの能力を「抽出」と「分離」に集中させた。

 まず、水晶の中に不純物として含まれる『フッ化カルシウム(蛍石成分)』を特定する。これに、神殿の設備からリビルドした濃硫酸を反応させ、中間体である『フッ化水素』を生成させる。

「本来なら電気分解が必要だけど、この世界には便利な『魔素』がある。魔素を触媒にして、結合エネルギーを強引に引き剥がす……!」

 僕の掌で、パチパチと青白い火花が散る。

 フッ素原子が、他の原子との絆を断ち切られ、狂暴な『フッ素ガス(F₂)』として解放されていく。それは薄黄色の、どこか甘い、けれど死を予感させる独特の臭気を放ち始めた。

「……っ、零! 漏れ出してる! 反応を止めて!」

「大丈夫、気流は僕が操作する。……さあ、暴君のお出ましだよ。」

 僕は、掌に渦巻く黄色い煙を、リビルドで作った簡易的な送風ファンで通路の奥へと送り込んだ。


 通路の奥から現れた新たな敵たちが、逃げる間もなくその煙に包まれる。

 爆音も、光もない。ただ、沈黙だけが神殿を支配していく。

 フッ素ガスは、ガーディアンの強固な装甲を透過し、その内部の潤滑油や魔素回路と激しく反応し、瞬時に炭化させていく。物理的な防御など、この『最強の酸化剤』の前では無意味だ。

 ガーディアンたちは、内部から煙を吹き出し、糸が切れた人形のように次々と崩れ落ちた。

「……零、計算は合っているんだろうね? 濃度が少しでも上がれば、僕たちの肺もタール状に溶けるよ。」

 一歳のシンが、濡れた布越しにこもった声で忠告してくる。

 僕は青い髪を揺らし、精密な計算に基づいた換気ルートを指し示した。

「大丈夫だよ、シン。気流の法則(流体力学)は裏切らない。……それよりも、今のうちに『これ』を回収するよ」

 僕は崩れ落ちたガーディアンの足元に転がっていた、黒いデバイスを拾い上げた。指先に触れる冷たい金属の質感。デバイスの画面には、前世の言語――英語で一言だけ表示されていた。


『WELCOME, FELLOW SCIENTIST.』


「科学者……。魔王は、自分をそう定義しているのか」

 シンが隣で息を呑む。

 魔法が奇跡とされるこの世界で、孤独に「理」を突き詰めた先駆者の影。

 その時、神殿の奥から地響きのような音が響き渡った。

「……零、まずい。ガスで一時的にシステムを止めたせいで、施設全体が『自爆シークエンス』に移行したみたいだ。医学的に言えば、心停止前の最後の痙攣だね」

「、はは、手厳しいね。……行こう、シン。」

 崩落し始める天井。

 僕たちは、自分たちが作り出した死の霧を背に、出口へと全力で駆け抜けた。

 神殿の外へ飛び出した瞬間、背後で巨大な白亜の塔が音を立てて崩壊していく。

 

 六歳の工学者と、一歳の医学者。

 二人の手には、魔王の秘密が詰まった漆黒のデバイスが握られていた。

「……零。落ち着いたら、話したいことがあるんだ。」

 夜空を見上げるシンの横顔が、いつになく真剣だった。

 それは、この世界に転生してから一度も触れてこなかった、彼自身の「終わり」の記憶。

「……ああ。聞かせてくれ、シンの物語を」

ご覧いただきありがとうございます。

頑張って書きました!2078字です!この話を伸ばすのにフッ素ガス(F₂)の制作過程を書かなきゃいけなくて大変でした。

ここまで一回も調べてないし、終わるまで調べないで行こうかな?

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