第一話 観測の始まり
第一話!
はじめまして。
魔法という理不尽が支配する世界で、科学知識だけを武器に立ち向かう少年の物語を書き始めました。
楽しんでいただければ幸いです。
意識が覚醒したとき、最初に感じたのは不可解な粘膜と肺を焼くような酸素の刺激だった。
(……心拍数上昇。呼吸不全か。いや、これは――新生児の初声か)
不自由な肉体に閉じ込められた私の意識は、激しい落差に混乱していた。視界はぼやけ、焦点も定まらない。だが、鼓膜を震わせたのは、明らかな「恐怖」と「絶望」が混じった、人間たちの悲鳴だった。そのあと僕はカイと名付けられた。
数ヶ月が経ち、視界が解像し始めたとき、私はこの世界の残酷な構造を理解した。
(……この世界の人間には、エネルギー操作の権限、つまり『魔法』が一切与えられていないのか)
かつての記憶にある「知識」に照らせば、それは絶望的な格差だった。魔物は物理法則を無視した出力を自在に操り、人間は火を起こすのにも石を打ち合わせるしかない。魔法という『ブラックボックス』を持たない人類は、ここではただの「捕食対象」に過ぎないのだ。
(いいだろう。奇跡が魔物の独占物だというのなら、私は『法則』でそれを引きずり下ろすまでだ)
私は、成長を急いだ。やはり人生を一度経験しているだけあった。
一歳で言葉を理解し、二歳で村の土壌を分析し、三歳でガラクタから「道具」を作り始めた。
周囲の大人たちは、泥をこね、奇妙な計算に没頭する私を「少し変わった子」として扱ったが、彼らもまた、魔法という暴力の前で思考を停止させていた。
そして、五歳の誕生日。
その夜、空が青白い炎に染まった。
知性を持つ上位魔族が、単なる「間引き」として村に降り立ったのだ。
家々が砕け、魔法の氷柱が大地を貫く。人間たちは祈りながら、なすすべもなく屠られていく。五歳の私は、焼け落ちる家の中で、自分を見下ろす魔物の瞳をじっと見つめていた。
「……ほう、泣かぬのか。魔法を使えぬ猿の分際で、その眼は何だ」
魔物が傲慢に笑う。その指先には、次の獲物を屠るための高密度の熱量が収束していた。
だが、私は恐怖など感じていなかった。魔法は神の業ではない。特定のエネルギーによる物理現象だ。ならば、必ず「攻略法」がある。私は魔物の指先で励起する術式のパターンを、冷徹に脳内の計算機へ記録していた。
(……美しい? 笑わせるな。お前のそれは、洗練されていない。ただの出力過多だ。デバッグしてやるから、首を洗って待っていろ)
魔物は私の不気味な笑みに微かな嫌悪を見せ、「魔法も使えぬ無能が、この惨状で生き残れるはずもない」と吐き捨てて飛び去った。
灰と化した村。両親の亡骸。
私は静かに立ち上がり、煤だらけの服で、自作の方位磁石を取り出した。
「観測は終わった。ここからは、攻略の時間だ」
私は「カイ」という名の五歳の孤児として、最初の目的地である「貧しい町」へと歩き出した。
魔法を持たぬ人類が、知恵という名の鉄槌を握るための第一歩だ。
ご覧いただきありがとうございます。
5歳にして全てを失ったカイですが、彼の中にある「知識」だけは奪えませんでした。
次話、5歳のサバイバルと「貧しい町」への到着。タイトル決定ではありませんよ。




