第七夜 白鳥座の少年(6)
僕達親子は、避難の途中で立ち寄った道の駅で食事を取ることにした。
昔々、スパルタという国に、それはとてもきれいな王妃さまがおりました。
彼女の名前は、レダと言いました。
神ゼウスは、たいへんな浮気者でしたが、王妃レダにも目を付けていました。
ある日、レダは水浴びをするために、侍女を連れて泉に行き、誰かが入ってこないように、侍女を泉の外に立たせて見張りをさせました。
それを天空から見ていた神ゼウス。
沐浴を始めたレダの裸に心を奪われ、なんとかレダに近づけないかと我慢できなくなりました。
都合のいいことに、スパルタの王テュンダレオスは、遠征に出掛けてしまって王国におりません。
そこで一計を案じたゼウス。
女神アフローデに、自分を白鳥の姿に変えさせ、アフローデは大きな鷹の姿になって、自分を追いかけるようにお芝居をお願いしたのです。
白鳥となったゼウスは、鷹のアフローデに追われるようにして、泉で沐浴しているレダの元へ逃げ込むフリをしました。
「まあ、大きな白鳥さんね。あんな恐ろしい鷹に襲われて、さぞ怖かったでしょう。」
白鳥ゼウスは怯えたフリをしてレダに近づき、レダはその白鳥の首を抱きました。
「ここにいれば鷹は降りて来ないでしょう。鷹がどこかへ行くまで、ここにいらっしゃい。」
レダが白鳥の耳元で優しく話し掛けると、ゼウスは魔法をかけてレダを眠らせました。
鷹のアフローデは、レダが眠らされたのを見届けると、不満そうに飛び去って行きました。
ゼウスは、しばらく白鳥のままレダを抱いて満足すると、バサバサッと、大きな音を立てて羽ばたきました。
羽ばたく音に気が付いた侍女たちは、見張りから慌てて戻ってきましたが、白鳥ゼウスは天空に向かって飛び去って行きました。
やがて王妃レダは、卵を産みました。
そして、その卵からは、二人の不死の子供、カストルとポルックスが生まれました。
人々は、再びゼウスにかどわかされることがないよう、天空に帰っていく白鳥の姿のゼウスを、星座に残すことにしました。
食堂は、さっきの土産物コーナーより照明が明るかった。外部に光が漏れないようになっているのだろう。既に避難してきた人達が、テーブルに着いて談笑したり、配膳された食事にありついている。
配膳された料理は、一枚のプレートに乗せられた自動調理の非常食ではあったが、スープと玄米、それから解凍された野菜も添えられており、避難民の心を温めるには充分なものだった。※防災備蓄食料を道の駅で管理している。
僕達三人も空いたテーブルに着いて、リュックを椅子に置いた。
「レイ、ユウ、お腹すいてる?お母さん、お腹すいたなぁ。」
母さんは、僕達二人に笑顔を振りまいた。
「僕オムレツが食べたい。」
「レイは何が良いの?」
「あ・・・、うん、母さんと同じものでいいよ。」
「もう・・・、遠慮しなくていいのよ。母さんはレイと同じものにしようと思ってたのに・・・。あんまりお腹空いてないの?」
「うん・・・、どっちでもいいよ。」
正直、僕は避難が始まってから緊張の連続で、お腹が空くどころではなかった。こんな時に鈍感な弟が羨ましい。
「シェルターに着くまでに、あとどのくらいかかるかわかんないから食べておこうね。持ってきたお菓子はとっておくのよ。」
僕は返事をしなかった。でも食べなければならない。
「じゃあ、母さんは、シチューにしようかな。レイもそれでいいの?」
「うん、それでいいよ。」
「ほかに食べたいものがあったら言ってね。時間もあるようだし。今の内に食べておきましょう。」
テーブルの端には小さなモニターがあって、〝いらっしゃいませ。注文をどうぞ。只今、無償で提供しております。〟と表示されている。母さんはモニターに向かって喋った。
「注文いいかしら?えっと・・・、オムライス一つと、クリームシチューが二つ。シチューは鶏肉が良いわ。サラダも付けてね。それから、食後にホットミルク二つと、カフェオレが一つね。砂糖はナシで。」
すると、モニターにコックが映し出されて、
⦅承知いたしました。只今から調理を開始しますので、5分30秒お待ちください。⦆
と、お辞儀をした。
⦅お待たせしました。ご注文の料理がご用意できました。⦆
しばらくすると、モニターのコックが頭を下げて、天井レールを辿って来た料理プレートが降りてきた。
運ばれてきた料理は暖かく、僕らを束の間ほっとさせた。母さんは、ユウの横について、「あわてなくていいのよ。」とか、「ほら、ゆっくり噛んで。」とか、「お水いる?」とか、いろいろと世話を焼きながら食事を取っていた。料理を平らげると、料理プレートはテーブルの下に飲み込まれ、それぞれホットミルクとカフェオレをすすった。
「ふぅ~、少しは落ち着いたわねぇ・・・。」
母さんが一息つくと、隣のテーブルの男の人が話しかけてきた。
「温かいもの食べたら、少しは落ち着きますね。」
母さんより年上の男の人だった。コーヒーらしきカップを持って座っている。向かいには若い女の人が座っている。女の人は震えているようだった。
「僕は、娘と一緒に逃げて来たんですが、嫁と連絡がつかなくて・・・。そちらはお子さんですよね。失礼ですが、旦那さんは?」
「あ・・・はい。夫とは、もうずっと連絡がつかないままなんです。自衛隊の宇宙航空の仕事についていたものですから・・・、機密事項も多いらしくて・・・。」
「あ・・・そうですか。すみません。辛いことを聞いてしまいまって・・・。無事、連絡がつくといいですね。」
「いえ、こんな時ですから・・・。奥さんと連絡がつくといいですね。」
なんとなく気まずいような会話がしばらく続いた。
僕ら子供には、よく分からない。
ただ、住んでいた町には、宇宙ナントカといった施設があちこちにあったのを思い出した。
他のテーブルでは、大人達が戦況に関する噂話をしたりしていたが、確かな情報を得る手段がなかった。
「ちょっと、表に出てみようか。」
母さんは、食堂での時間を持て余し、僕達を誘った。
冒頭のギリシャ神話は、ちょっと脚色しています。
「そもそも講談でも歌舞伎でも歴史小説でも大河ドラマも、みんな脚色してるんだから、いいんだい!」ってことで開き直りです。
しかし、この手の話しって、アダルト規制に引っかかりそうで怖い。
内容が、ひと昔前の淫獣エロアニメみたい(←なぜ知っている。)で、う~ん、昔の人も子供にどうやって話していいのか困惑したんだろうなあ・・・。
いっそのこと『本当はエロいギリシャ神話』とか銘打って官能小説にしたら売れるんじゃないかとらと思ってみたり。なろう小説じゃ無理なのかしら?




