【クリスマス番外編】きらめけ!クリスマスマーケットの怪・5
振り返ってみると、この件は柊ちゃんが目をつけたとおり、曽根崎案件としての括りに入るものだった。犯人は怪しげな術を使って自らの目を魔法陣から魔法陣へと生きながら移動させることができ、“好みの女の子に呑まれそうになる体験”を繰り返していたのだという。
……嫌な性的趣向だな。残った目玉は大事にしてほしいものである。
「でもま、これでクリスマス・マーケットに安寧が訪れたってことだし!」
次の日の事務所にて。柊ちゃんは大ジョッキを片手に言った。
「最高ね! 今日はここでクリスマス・パーティよ!」
「別にうちの事務所でなくてもいいだろ」しかし曽根崎さんはしかめっ面である。「帰りなさい」
「断るわ!」
「君は暴君か何かか?」
「見てのとおり絶世の美女よ!」
そしてここにはもちろん阿蘇さんと藤田さんもいる。阿蘇さんは大量の揚げ物を大皿に乗せて運んでいるし、藤田さんはケーキを切り分けていた。
だけど、ナイフを手にする藤田さんの横顔はどことなく寂しげで……。
「なあ、景清……。オレってさ、かわいげのない彼女だったかな」
「はい」
「すぐ肯定されてびっくりした! 否定しろよーっ!」
「見た目はすごくかわいかったですけど、中身は本当にだめでした……」
「そこまで言う!? こんなに露骨に落ち込んでるんだから慰めろって!」
「見た目はすごくかわいかったです」
「見た目“は”!? 中身もかわいいだろうが!!」
興奮する藤田さんだったが、通りすがりの阿蘇さんから後頭部にデコピンをくらい、ソファに昏倒してしまった。阿蘇さんはそのまま僕の近くまでくると、フライドチキンの欠片をトングでつまみ、「あーん」と言って僕に差し出した。
口でフライドチキンを受け取り、咀嚼する。肉汁が口の中いっぱいに広がって、幸せな気持ちになった。
「ありがとうございます。おいしいです、阿蘇さん」
「そりゃよかった。このたびはお疲れさん」
「はい。でも、僕じゃない人に被害が出ていないようでよかったです。やっぱこれ以上怖い思いはしてほしくないし……」
「優しいな、君は。まあ兄さんはある程度君が狙われることは想定済みだったようだけど」
「え?」
曽根崎さんを見る。だめだ、視線が合わなかった。わかっててこっち見てねぇだろ、あいつ。
「……阿蘇さん、それ、どういう意味ですか?」
「被害に遭った女性の写真をよこせって言うからさ、褒められたもんじゃない手段を使って集めたんだよ。そうしたら兄さんが『今回の餌は柊ちゃんでも直子でもなく、景子だな』って」
「!?」
「人の気持ちは無視するくせに犯罪者の好みを一発で見抜くのは、我が兄ながらキモかった」
「聞こえてるぞ、忠助」
曽根崎さんが阿蘇さんに一言突っ込む横で、僕はなるほどと納得していた。最初から、僕が犯人をおびき寄せる一番の囮だったわけだ。
でも不思議と悪い気分はしなかった。こんな僕でも役に立てると思ってもらえたのだ。女装はもう勘弁だけど、もし必要なら今後も協力するのはやぶさかでは……
「あらっ! 利用されたっていうのに景清がぽやぽや喜んでるわ! 誰よ、お酒飲ませたの!」
「私はウイスキーボンボンしかあげていない」by曽根崎
「オレもカシオレしか飲ませてない」by藤田
「てめぇら!」by阿蘇
「とりあえずお水飲ませましょ。少し落ち着いてくれば原初の怒りを思い出すでしょ」
柊ちゃんにコップを口にあてがわれ、ごくごくと飲む。頭はぼんやりしていたが、なんだか心地よかった。
クリスマス・イブは僕の誕生日でもあったのだけど、思い出すのは家族との冷たい食卓ばかりだ。だけど今は、こうして賑やかな人たちと何の憂いもなく大騒ぎができる。
そして今日、クリスマスは曽根崎さんの誕生日。
メリークリスマスと言うべきか、ハッピーバースデーと言うべきか。それはまあ、もう少し後で考えよう。
僕らの時間は愉快なままに過ぎていく。外は、ちらほらと雪が降り始めていた。
~きらめけ!クリスマスマーケットの怪・完~





