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初恋を成就するために~フィリア視点~

フィリア視点です。

実はフィリアも結構ヤンデレちゃんですので好き嫌いが別れるかもしれません。

蛇足だったかも?とちょっと不安になってます。

 ファル様に初めてお会いしたのは私が12歳の時でした。

 弱冠20歳ながらノース公爵家の当主となったファル様は大人で格好よくてとても優しい人でした。


 ファル様の名前は正式にはヒュファル様といってとても言い辛いです。

 最初にお会いした時に噛んでしまい落ち込んでいた私にファル様は気にしなくていいときさくに笑いかけてくださいました。

 今まで男の子達に意地悪ばかりされていた私はその一言で心臓を撃ち抜かれてしまい、その後一緒に話している間にすっかり恋に落ちてしまったのです。


 とはいっても私は12歳、20歳のファル様からしたら子供です。それにこんなに素敵な方ですから恋人、いえ婚約者がいてもおかしくありません。

 私は震える心を叱咤してファル様に質問してみました。


「あ、あの……ファル様は、こ、恋人とか婚約者とかはいるの?」

「いないよ」


 私の問に若干食い気味に否定してくださったファル様に驚きが隠せません。

 本当⁉︎ 本当に⁉︎ こんな素敵な人が売約済みじゃないなんてすごい奇跡! 神様ありがとうございます! 私、生きていて良かった‼︎

 それじゃあ遠慮なく畳みかけることにします。

 狙った獲物は逃がさない! 好きになったら猪突猛進! 母が私に教えてくれた好きな人をゲットする方法です。それでもダメならお薬を! って言っていたけどこれはまだフィーには早いわねって苦笑していましたがお薬って何でしょう?

 ともかくまずは自分の気持ちを伝えなきゃと勇気を振り絞ってファル様へ告白します。


「あのね……今日初めて会ったけど……私、ファル様のお嫁さんになりたい」


 私の言葉にファル様が呆けたように目を見開いています。

 ああ、やっぱり私のような子供では相手にされないのでしょうか? それとも会ったその日に求婚なんて呆れられたのでしょうか? それでも諦められない私はファル様に縋るような視線を向けてしまいました。


「……ダメ……ですか?」


 ファル様は溢れそうになる涙を堪えていた私の肩を掴むと爽やかな微笑みを見せて答えてくださいました。


「ダメじゃない。嬉しいよ」


 マジでございますか⁉︎ やりました! やりましたよ! お母様!

 しかし母の顔を思いだしハッとします。男性の「嬉しい」というのは全くアテにならないということを。息をするように「可愛い」「嬉しい」「ごめん」を振り撒く男が世の中にはごまんといるらしいです。確実に言質を取っておかないと泣かされるのは女性だとベッドの上で青白い顔をしながら懸命に話してくれた母を思い出し、なるべく無邪気に見えるようににっこりと微笑みます。


「本当⁉︎」


 本当に本当⁉︎ ここ大事です! 子供だからって誤魔化されません。絶対言質を取ります!


「ああ。リアが15歳になったら正式に婚約してそれから結婚しよう? だからそれまで俺を好きでいてくれる?」

「うん! 私、急いで大人になるから! だからファル様、ちゃんと待っていてね」

「急がなくても大丈夫だよ。リアは今のままで十分魅力的だ」

「でもファル様は大人で……素敵だから、早くしないと誰かに獲られちゃう……」

「俺にはリアだけだよ。可愛い……俺のリア」


 そう言って微笑むファル様。素敵です。

 うふふ。言質を取りましたよ。もう逃がしてあげませんからね?

 私が心の中で黒い笑みを浮かべたことなど気が付かずにファル様は優しく私の手を握ったのでした。ファル様の少し冷たい手は気持ちよくて思わず咥えたくなっちゃうのは我慢しました。



 さてファル様の気が変わらない内に外堀から埋めてしまうことにします。

 こういうことは先手必勝ですから。

 父親の姿を見つけた私は早速ファル様と結婚すると宣言しました。

 案の定お父様は唖然としつつもファル様を睨みつけています。お父様は私を溺愛していますから仕方ありません。

 ファル様はというと困ったような微笑をお父様に向けていてちょっとだけムッします。女の子ははっきり言ってほしい時があるんです。お父様の圧になんか負けないで!

 しかしここでとんでもない事実を聞かされました。

 それは私もファル様も1人っ子で公爵家を継がなければいけないから結婚できないという衝撃の事実でした。

 愕然とする私は泣きそうになるのを堪えるのに精いっぱいで、この後のファル様達の話は内容が一切入ってきませんでした。


 ふとファル様がこちらを見たような気がして顔を上げるとお父様が少し興奮気味で語りかけてきます。

 お父様の話に私の心臓がドキドキと高鳴ります。ファル様が打開策を考えてくれたことが嬉しくて、だってそれってファル様も私と本気で結婚したいと思ってくれているってことですから。

 もうダメ。やっぱり絶対に逃がさないとばかりにファル様の頬にキスをします。

 誰にもあげない。私のものって印。本当はちょっとだけ噛みついちゃおうかなんて考えたけれど、引かれたくないので我慢しました。



 結論から言うとファル様の打開策は成功しました。


 ファル様が処方したお薬を飲み始めて数ヶ月、病弱だったお母様がみるみる元気になっていく様子に私と使用人達のテンションも上がります。

 当然、ファル様の評価もうなぎ上りです。

 領地から頻繁に訪れるお父様も会う度に元気になっていくお母様の様子に浮かれっぱなしです。しかし、やはり領地と王都の往復は大変らしく疲労の色が隠せていません。折角お母様が元気になってもお父様が元気でないと赤ちゃんが出来ないと聞いた私は閃きました。ファル様が父に栄養剤だと言って渡していた薬を少し多めに紅茶へ混ぜることを思いついたのです。

 1日1回のお薬だそうですけど、ファル様にそれとなく確認した所たくさん飲めば飲むほどある意味とても元気になると聞いた私は父が王都へ滞在している間は毎日その薬を午後のティータイムと晩餐の後の紅茶へ混ぜるようにメイドへ指示を出しました。容量は3倍にして。用法・容量は正しくご使用くださいなんて言葉は知りません。

 しかし私が父の紅茶へ薬を混ぜるようになってから父も母も翌朝は決まってグッタリするようになり心配になった私はこっそりファル様へ相談しました。

 私の相談を聞いたファル様は漆黒の美しい瞳を見開いたあと、少しだけ頬を染めて「心配ないよ」と言って頭を撫でてくれました。

 それでも尚不安そうな私に「うーん」と唸ると困ったような笑顔を見せます。


「きっともうすぐリアに弟か妹が出来ると思うよ? リアが俺と結婚したらその理由を教えてあげる」


 そう言ってファル様は私の額にキスをしてくれました。


 そしてファル様の言葉はすぐに現実のものになりました。

 お母様が懐妊したのです。

 もう嬉しくて嬉しくて、すぐにお父様に婚約の話をしたのですが無事に産まれてくるまでは待ちなさいと窘められて、いじけた私にファル様が初めて唇へキスをしてくれました。

 空も飛べるほど舞い上がった私がぎゅっとファル様の上着を握ると唇を離したファル様が「天使」と呟いて上を向いてしまいました。

 ファル様には目に見えない者まで見えているのでしょうか? 天使、私も見てみたいです。ともかくも天を仰いだファル様も素敵でした。


 その後、無事にお母様は男子を出産し私とお父様は手を取りあって大喜びしたのでした。

 齢の離れた弟は小っちゃくて可愛くて両親と私はたちまちメロメロになりました。

 勿論ファル様とは即行で婚約しました。お父様は少し渋っていらっしゃったようですがお母様の鶴の一声であっけなく陥落されました。



 そして持ちに待ったファル様との正式な婚約の日がやってきました。

 その日ファル様から贈っていただいたファル様色の黒いドレスを着た私は朝からご満悦で、国王へ謁見を済ませ正式に婚約を承認され足取りも軽く王宮の回廊を歩いていました。だってもう我慢しなくていいんですよね? ファル様に触ったり、舐めたり、匂いを嗅いだりするの遠慮しなくていいんですよね?

 手始めとしてコテンッと自分の頭をファル様の肩へ乗せてみます。うん、すごくいい。このままグリグリ擦りつけてファル様の匂いを堪能して、ついでに私の匂いをマーキングしたいです。


 そんな変態チックなことを考えながら回廊を進み、前方の人影が視界に入った私は身体から急激に温度が下がり始めるのを感じました。


 人影は2人、イースト公爵家とサウス公爵家の嫡男で私の幼馴染のランスロッドとリュナンでした。

 2人が押しかけてきていた数年前のあの頃を思い出し私の胸がギュッと掴まれたようになります。


 同じ4大公爵家の子供だからという理由で王都の我が家へ遊びにくるようになった2人を私は心底嫌っていました。

 大嫌いな虫の幼虫を箱いっぱいに贈りつけたり、泥遊びをした汚い手で髪を引っ張られたりスカートをめくるのに引っかかったと言ってドレスを破かれたり、やめてとどれだけ言っても聞いてくれない2人に何度自室で泣いたことか。

 どんなに言葉を尽くしても全く意思疎通が図れない彼らが私は怖くて仕方がありませんでしたが公爵家の惣領娘として我慢し続けた苦い記憶が甦ります。

 ちなみに幼虫の箱を開けたメイドは失神し、私の髪やドレスをなおしてくれたメイドは皆、般若の形相となり蛇蝎のごとく彼らを嫌っていたのですが、相手は公爵家の嫡男で追い返すわけにもいかなかったのです。

 そんな時リュナンが我が家の鯉に毒を与えたのです。幸いすぐに解毒剤を飲ませたので無事でしたが、とうとう執事がブチキレて父へ緊急連絡をしてくれました。

 事情を聞いた父が領地からふっ飛んで来て事を公にしない代わりに2人を出入り禁止とし私を領地へ連れていくようになって彼らと会うことはなくなりました。

 でも私は2人のせいで領地でも男の子へのトラウマが残り極力接触を控えてきたのでファル様をエスコートした時は本当に緊張したものです。


 そのトラウマの2人が今、私の目の前にいて相も変わらず好き勝手に喚き散らし挙句に私の下着を見たことを暴露したのです。


 子供の時とはいえ下着を見られ色まで暴露された私はもうどうしていいか解らずに気が付けば涙を零していました。

 ファル様に嫌われたらどうしよう……。

 頭に浮かぶのはただそれだけです。考えただけで胸が苦しくて自分という存在を消してしまいたくなりました。


「もう……やだ……」


 思わず私が呟くとファル様の顔から微笑が消えました。


 そこからはもう怒涛の出来事で、気が付けばランスロッドもリュナンも虫の息で(あ、リュナンったら大好きな虫とお揃いで良かったですね)転がっていました。

 これ、ファル様がやったんですよね? 自分の目で見てたけど信じられないです。リュナンはともかくランスロッドなんてファル様より縦も横も大きいのに……。はう! イケメンで優しくて強いなんてどんだけハイスペックなんですか⁉︎

 初めて見た無表情のお顔も冷たい笑顔も全てがもうカッコよくて自然と顔の熱が上がってしまいます。もうだめ! 今すぐ抱き着きたい! それなのにファル様は私の方を見ると不安そうに謝ってきました。


「リア……ごめん、怖かった?」

「……え?」

「リアは暴力とか脅しとか嫌いだろ? 嫌なところ見せてごめん……」

「っ‼︎ いいえ! いいえ! ファル様は私を守ってくれました! 本当のファル様はとても優しいのにこんなことさせてしまって申し訳なくて。でも……戦ってるファル様は……かっこよくて、その……見惚れちゃいました」


 恥ずかしいけど本音です。だからファル様、不安そうな顔しないでください。どこまで優しいの? どんだけ紳士なの? はっ! でも待って‼︎ こんな素敵なファル様に私は守られてばかりでいいの⁉︎ 否‼︎ 良くないわ! そう奮い立つ私にファル様はどこまでも甘い言葉を投げてくれます。


「リアは俺の婚約者なんだから君を守るのは当然だろ?」


 もう! そうやって私の手を取り首を傾げてくるの反則です。囚えたのは私の筈なのに一生、囲われていたくなっちゃうじゃないですか! でもダメです。私は過去と決別するんです! ファル様に相応しい女性になるんです!


「……でも……ファル様を見て思ったの……逃げてばかりじゃダメだって。私、もう逃げない!」


 決断した私はトラウマを克服するべくまだ呻き声を挙げている2人に立ち向かいました。


「私が結婚するのはファル様! 私が大好きな人はファル様だけ! 貴方達とだけは絶対に結婚しない! 2人ともずっと大嫌いだった。今も大嫌い! 二度と近寄らないで! 変態‼︎」


 ビシッと言い切りファル様を見上げると労うように頭を撫でてくれて私達はそのままノース公爵邸へ帰還したのでした。



 帰還する馬車の中、私は下着を見られたことが頭をよぎり終始俯いていました。ファル様はそんな私を横抱きにすると自室のソファに腰かけました。

 恥ずかしいことにお姫様抱っこは継続中です。嬉しいです。けど恥ずかしいです。でもそれよりも幻滅されてたらどうしよう? もしかして嫌われてたらと思うと泣きたくなります。ファル様の優しさと愛情を疑うわけではないのですが恐るおそる聞いてみました。


「……ファル様、私のこと嫌いになった?」

「へ?」

「男の子に下着見られたことがあるとか……幻滅した? あの時ファル様舌打ちしてたし……」


 そうなんです。確かにランスロッドの言葉を聞いたときにファル様は舌打ちしてたのです。私がここまで不安な気持ちになってしまったのはあの舌打ちがあったからなんです。勿論ファル様は舌打ちさえも素敵でしたよ。洗練されたさりげない舌打ちでした。

 私の言葉を聞いたファル様は一瞬瞳を瞬かせた後、私の髪を掬い口づけをしてきます。


「そんなこと気にしてたの? 舌打ちも聞かれていたのか……恥ずかしいな。嫉妬しただけなんだけど……」

「嫉妬?」

「俺だって男だからね。好きな人の下着を見たなんて他の男が言ったらヤキモチやくし怒りもするの!」


 いつもの紳士的なファル様らしくない子供っぽい言い分に私は目をパチクリさせてしまいます。あーもう! 子供なファル様も可愛い。また新たな発見です。もうどんどん好きになります。好きすぎて怖いです。それに今、嫉妬って言いました? 嬉しい! 嬉しいです!


「ファル様、大好き(もう一生離さない! 逃がさない!)」

「俺もリアが大好きだよ」


 ファル様の端正なお顔を両手で包み込むように持ち上げて漆黒の瞳を覗き込み囁きます。

 その瞳のように私のことを黒く染めて塗りつぶして離れられなくしてほしいです。

 もう我慢ができなくて深い深いキスが始まります。お尻に硬い何かがあたって気になったので手で触れようとするとファル様が手を絡ませてきて益々キスが深くなります。時折自分ではないような声が漏れてしまい恥ずかしかったのですが、私が声を出すと何故かファル様のキスが激しくなります。それが嬉しくて私の拙いキスに応えてくれるファル様が愛おしくてもっともっとと求めてしまいました。


 ファル様とのキスは甘くてやめられない媚薬のようで私は絶対にこの人を逃さないと心に誓ったのでした。


これでおしまいです。

ご高覧いただきまして、ありがとうございました。

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