凍土と鮮血の武道大会(1)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋と仲間達の変化の物語。
平成18年8月22日。ロシア上空を飛ぶヘリコプターの中に、龍と大牙の姿があった。理由はもちろん依頼である。
「そういえば、久々にきたね。大牙君への依頼」
「そんな皮肉っぽいこと言わないでくださいよ。しゃーないっしょ。素手が武器である俺を、依頼人達が選んでくれないんすから」
彼の言葉が示すとおり、今回は実に2ヶ月ぶりの大牙がメインの仕事である。
それだけに腕が鳴る大牙とサポートとして同行した龍がそう言ってると、今回の舞台である沖縄の3分の1ほどの大きさのロシア領の島に到着し、島の中央にある建物からスキンヘッドの中年男性が出迎えてくれた。
「ようこそオーストラフクローフィへ。私がここで行われているコンバットデスマッチの主催者・イワン=ドルバチョフです。以後、お見知り置きを」
礼儀正しく挨拶する彼に、2人もキチンと挨拶しかえすと、イワンは丁寧な口調で会場を案内してくれた。
イワンによると、この島はかつて罪人の処刑場だった歴史があり、その時代背景からソ連解体で使用されなくなった今でも存在を抹消されているいわく付きの島らしい。
そんな島で彼らが始めたのは、唯一残った収容施設をコロシアムに改築し開催した何でもありの武道大会・コンバットデスマッチ。
ルールは簡単。時間無制限の1本勝負。相手がダウンなどで再起不能になるかギブアップしたら勝利。武器は使用不可だが、相手を殺してもペナルティーは一切ない。まさにこの世で最も危険な格闘技の大会である。
にもかかわらず、参加者や賭けに興じる観戦者が後を絶たず、その数は年々増えている。
それらを説明してもらいながら、会場を案内された2人は、当日イワンも利用するVIP観戦室に通された。するとそこには、2メートルを超える白髪の大男と10歳ぐらいの日本人の少女がいた。
「おや。こちらに来ていたのですか。あぁ、ご紹介します。彼女があなた方を招待した不知火琴音さん」
「はじめまして。来てくださってありがとうございます」
「そして彼は、私がスポンサーを務め、何年もかけて鍛え上げた最強の男・ムルタです」
そう紹介されて、龍と大牙は王龍よりデカい彼に驚きつつも挨拶した。
「して、琴音さん。何故彼らをこの大会に?」
「あなたのところのムルタに勝つためです。彼らは日本屈指の強者で、特に出場者である白虎さんは、白虎流護皇死神拳の最終継承者なんです」
琴音がそう言うと、裏稼業に精通しているイワンは興味を示し、大牙の実力がどれほどのものなのかと期待した。一方でムルタは、チャンピオンとしての自信からか、大牙にそこまで期待していなかった。
「ふっ、廃れた拳法に負ける俺じゃない」
「言いやしたね? あとで吠え面かいても知らないっすよ?」
「それはこちらのセリフだ」
そう言って火花を散らせたあと、ムルタは退室し、龍と大牙と琴音も3人だけの話をするために琴音が宿泊する客室に移動した。
オーストラフクローフィは直訳すると『血の島』となり、その由来は本文で述べたとおりです。




