後日談.駄女神と冒険者ギルドへ
「さてと、何処へ行きましょうかね」
俺はキャロたちとの食事を終えた後は王宮の外に出る事にした。あのまま王宮にいても、手伝えそうな事が無かったからだ。キャロたちも食べ終えた後は神殿に戻ると言っていたし。ただ
「デート、デート、レイさんとデェート!」
謎の歌を歌いながら俺の後ろをついてくるアステル。午後は神殿を手伝わなくてもいいらしく、俺について来た。
「さてと、何処に行きます、レイさん? 私、上からは見ていましたが、歩いて見回るのは初めてなんですよね。だからビシッとエスコートして下さい!」
と、そんな事を言って俺の腕に抱き付いてくるアステル。俺はそんなアステルの綺麗なおでこにデコピンをする。アステルは「あうっ!」と言いながらおでこを押さえて
「な、何をするのですか! い、痛いじゃないですか! ひ、昼間からこんな人がいるところで私に襲ってくるなんて! 夜までまて……あっ、あぁぁぁっ! い、痛いですぅ!」
「お前は何を言っているんだ! お前は一体何を言い出すんだ!」
王宮の前なので、当然衛兵などたくさん人がいる。その人たちの前で、この駄女神は突然変な事を言い始めやがった。
こいつ、衛兵たちが白い目で俺を見てるじゃねえか! それはお前にとってはご褒美だろうが、俺にとっては不快感しかならないんだぞ!
アステルにアイアンクローをかますと、アステルは両手を振り悶える。ただ、初めは痛がっていたのだが、段々頰を赤く染めて息が荒くなって来た……ダメだ、こいつにはご褒美になってしまう。俺が手を離すと
「え、えへへ〜、レイさんの愛情表現が激しいですぅ〜」
と、俺が掴んでいた頭をさすりながらそんな事を言い出した。こ、こいつは……はぁ、まあいいか。目覚めてしまったものはしかたない。
「それで何処へ行くのですか?」
「あん? そうだな……ギルドでも行くか」
3年ぶりにでも依頼を受けようかな。そうなると、新しくギルドカードを登録しなければ。今は自分の名前がフルネームで書かれたギルドカードは使えないからな。
「依頼ですか。それは良いですね。私も興味があったんです」
ギルドに行くとわかってからウキウキした感じのアステル。へぇ〜、やっぱり神界から出る事が出来なかったから自由な冒険者に憧れているのだろうか?
そう思ったが、頰がだらし無く緩んでいるので、多分ロクでもない事を想像しているな。とんでもないほどの美貌なのに、なんか残念な表情になっている。
そんな女神を連れて冒険者ギルドまで歩く。周りは微笑むアステルに見惚れる。アステルに見ほれて人同士がぶつかって喧嘩したり、そのまま家の壁にぶつかったり、彼女に叩かれたりと、いろいろな事故が起きている。
「……? みなさん、ちゃんと前を向いて歩かないとダメですよね、レイさん」
自分のせいだと気が付いていないアステル。俺はそんなアステルを引き連れて、ギルドまでやって来た……のだが
「アステル、お前装備どうする?」
俺はアステルの方を見て尋ねる。よくよく考えれば、アステルはそのまま付いて来たので、服装が神殿の司祭服のままなのだ。自分を奉る神殿の司祭服を着ているのがおかしいのだが。
それに、今のアステルの能力はかなり制限されている。普通の人たちよりは断然強いが、万が一があってはいけない。だから装備をどうするか尋ねたのだが
「それなら、ありますよ」
と言って、体を光らせる。こ、こいつ、こんな場所で神力を使うじゃない! 周りもギョッとしてるじゃないか! アステルはそんな事御構い無しにとそのまま続ける。ようやく光が治ったら、目の前には
「これでどうでしょうか! 神界から持ってきました!」
鎧姿のアステルが立っていた。白銀の鎧を身に纏い、右の腰には剣をさして、左手にはバックラーを装備していた。右肩だけにマントがつけられている。神々しい雰囲気を放っているので、喋らなければかなりカッコいい。もう一度言うが喋らなければだ。
ただ、アステルが持って来た装備は、鎧も含めて明らかに普通じゃない。絶対神器とかいうやつだこれ。こいつ、なんて物を持ってくるんだ。
「ただ、今ので残っていた力を殆ど使っちゃいました!」
テヘ、とお茶目に舌を出すアステルを……
「あぁぁぁっ! い、痛いです! 痛いですよ、レイさん! あ、頭が、わ、割れるぅぅぅぅ!」
こいつ、なけなしの力をこんなところで惜しみもなく使いやがって! 周りから奇異の目で見られる中、美女を容赦なく掴む男と、痛がりながらも恍惚とした表情を浮かべる美女が、ギルドの前で目撃される事になった。
◇◇◇
「ぅぅぅ〜、頭が割れますぅ〜」
「もう勝手に力を使うなよ。それから、その神器は絶対に手放すなよ? それがこの世界に出回ると面倒な事になるから」
周りの人たちから奇異な視線を向けられながらも俺たちは冒険者ギルドの中に入って来た。昼間なのであまり人はいないが、それでも酒場で呑んだくれている冒険者などがいる。
その男たちは物凄く目立つ駄女神をジロジロと見ていた。すると
「レ、レイさん、あの男たちに物凄く見られると、背筋がゾクゾクしますね。あの舐め回すような感じ……あっ、でも、私が許すのは見るだけですからね。触ったり私の服の下を見る事が出来るのはレイさんだけですから!」
アステルが顔を赤らめてはぁはぁ言い出したと思ったら、そんな事を言ってくる。こいつはどこまで本気なのかが全くわからん。
俺はそのまま受付まで向かう。受付には青髪の綺麗な女性が座っていた。年は俺と変わらないぐらいだろう。
「冒険者ギルドへようこそ! ご用件は?」
「冒険者登録をしに来ました。俺と彼女の2人で」
「わかりました。代筆は必要ですか?」
「いえ、大丈夫です」
それから俺たちは登録用紙に必要事項を記載していく。俺の名前はそのままレイで、アステルの名前をアスナに変えて。
この世界の神であるアステルの名前を付けることは許されていないからな。本人です、と言うわけにもいかないし。
「……はい、これで大丈夫です。今から登録しますので、少々お待ち下さい!」
そう言って、受付嬢は裏に行ってしまった。
「ふふーん、レイさん、何を狩りに行きます?」
受付嬢を待っていると、アステルはウキウキした風にそんな事を尋ねてくるが
「いや、そんな嬉しそうにしているところ悪いが最低ランクの俺たちに選べる依頼なんて無いぞ。討伐にしても精々ゴブリンだろう」
「ええっー!」
俺の言葉に落胆するアステルだが、お前は一体何を狙っているんだよ。そんな風に呆れた風にアステルを見ていると
「それなら俺たちと依頼を受けに行こうぜ。Cランクの俺たちとなら良い依頼を受けられるぜ!」
そこに、ニヤニヤした男たちが5人やって来た……そういうテンプレは昔にやったからいらないんですけど。
「……こ、これは、ついて行ったら人気の無いところに連れていかれて、男たちに襲われる展開ですよね!? 想像したら……はぁ……はぁ……」
……お前はもう黙ってろ。




