213.失いたくない物
俺が、神竜のいた小島から戻ってくると、屋敷の応接室にティターニア女王が座っていた。隣にはむすっとした表情を浮かべるドワーフが座って、その相手をアレクシアとキャロがしてくれていた。
「ティターニア女王。これは失礼いたしました。待たせてしまったようで」
「うふふ、良いのよ。私が勝手に来ただけだから。それにあなたの用事も聞いたもの。会えたのかしら?」
ティターニア女王は会議の時にはもったいなかった扇で口元を隠してクスクスと笑う。でも、俺が神竜に会いに行った事を知っているって事は、アレクシアたちが話したのか? まあ、別に隠しているわけでは無いから良いのだが。
「ええ、会えましたよ」
「私もアニマのお婆さまから存在する事は聞いていたのですが、そうですか。何をお話しされたかお聞きしても?」
と、ティターニア女王が尋ねてくる。隣に座るアレクシアとキャロも聞きたそうに俺を見てくる。だけど
「申し訳ありません。神竜から話さないように言われているもので」
「それは……私たちにも?」
「……悪いな」
俺は苦笑いしながらみんなに謝る。ティターニア女王は仕方ないかといった風だが、アレクシアとキャロは諦めきれていないようだ。だけど、今聞いても答えないのがわかっているのか、それ以上聞いてこない。
悪いな。この事は誰にも話さないつもりなんだ。
「それで、今日はどのような用事で来られたのですか?」
「あっ、そうそう、あなたに頼まれていた武器ができたのよ。ほら、テュギャベルさん」
「おう。あんたがシルフィードの弟子か? 俺の名はテュギャベルだ。昔にシルフィードの大剣も作った事がある」
「では、あなたが俺の武器を?」
「ああ。ただ、お前の武器は、シルフィードの大剣以上に手強いぜ?」
そう言いテュギャベルさんが自分のアイテムポーチ、俺のアイテムリングのポーチ版から取り出したのが、青紫色に輝く槍だった。
「名前は雷竜槍ガラドルグだ。能力は雷魔法に特化している。雷魔法の強化に、耐性、槍自体が雷属性を持っていて、常に中級ほどの雷魔法を付与している状態になる」
久し振りに良いものが作れたぜ! とテュギャベルさんは物凄くご機嫌だ。
「テュギャベルさんが鼻歌を歌いながら作っていたのは久し振りに見ましたからね」
「うるせいやい! だが、この槍は持ち主を選ぶぜ。まず持つのに雷魔法の耐性が無いと持てない。さっきも言ったが、常に中級ほどの雷魔法を付与されているからな」
成る程ね。まあ、その点は大丈夫だろう。俺は躊躇わずにガラドルグを持つ。手にピリッと痺れがくるが、それも直ぐに無くなった。
「ちょっと、外で振っても良いですか?」
「お、おう、構わねえが、何ともねえのか?」
「始めだけピリッと来ましたがそれだけですね」
俺がそう言うと、テュギャベルさんは驚きの表情を浮かべる。
「こりゃあ、とんでもねえ奴だな。俺の弟子がその槍を持とうとしたら、全身に電気が回って1週間は動けなかったからな」
テュギャベルさんも普通の状態では持てないと言う。らそれなら盗難防止になるな。まあ、持ち運ぶ時はアイテムリングに入れるからあんまり関係ないのだが。
それから庭に出てガラドルグを振るう。縦に振り、下から振り上げ、薙ぎ払い。突きを何度も放ち、雷魔法を追加で武器付与。おおっ、武器付与の威力が普通の槍より上がっているのがわかる。これは良い。
「ありがとうございます、テュギャベルさん。とても良い武器です」
「おう、そうかい。それなら良かった。さてと、ティターニアちゃんよう。俺は1週間徹夜して眠いから帰るわ。後で酒でもくれや」
「わかりました。それではレイさん。失礼しますね」
そう言って、ティターニア女王とテュギャベルさんは転移魔法陣のある屋敷へと向かっていった。俺も見送ろうと思ったが、ここで構わないと言われたので、ここでお別れだ。
俺は手に持つガラドルグを数回程振ると、アイテムリングに直す。これなら俺が限界まで武器付与しても耐えられるだろう。
それから俺は部屋にこもりある作業をする。これをしないと、みんなに怒られてしまうからな。しかし、久し振りだ。前にやったのはエクラの時か……良し、準備は出来た。さあ、やりますかね。
◇◇◇
「……レイさまぁ〜、ご夕飯の準備が出来ましたよぉ〜」
恐る恐る扉を開いて入って来たのは、クロナだった。もうそんな時間だったのか。作業に没頭し過ぎて気がつかなかった。
「ああ、クロナ。直ぐに行くよ。今日はフィーリアも来ているか?」
「はい、フィーリア様も来て……ああ、成る程ですね!」
クロナは俺の手元にある物を見て、ニコニコと微笑む。俺はそれらをアイテムリングに入れて、クロナ頭を撫でネコミミを満喫しながら食堂へ向かう。クロナははふぅ〜と言いながらも、頭を俺の手のひらにスリスリと寄せてくる。可愛い。
食堂に辿り着くと、既にみんなが席についていた。後は俺とクロナだけだ。
「もう、遅いじゃない、レイ。お腹空いちゃったわよ」
「ごめん、エアリス。少し作業に集中しちゃって。それじゃあ食べようか。いただきます」
『いただきます!』
それからみんなで食事を食べる。みんな各々で話をして楽しそうだ。新しく入った香奈や麻里ちゃん、マーリンさんも特に居心地悪そうにはしていないし。
フィーリアもみんなに認められて楽しそうに混ざっている。良い光景だ。この光景を絶やしたくないな。
貴族として優雅に食べるアレクシアにキャロやヘレン。ワイルドだけど綺麗に食べているフェリスとエアリス。メイちゃんたちの世話をするプリシア。お箸の扱い方に苦戦するマーリンさんに、優しく丁寧に教える香奈と麻里ちゃん。メイちゃんと楽しそうにご飯を食べるエクラにフィーリアとクロナ。
「レイ、何笑っているのよ?」
俺がそんなみんなを見ていたら、アレクシアがそんな事を言ってくる。
「いや、みんなが楽しそうだって思ってな」
アレクシアたちは、何を今更といった風に首をかしげる。まあ、毎日こんな感じだものな。でも、今日は特にそう思ったんだよ。
それから、みんなが食事を食べ終えると
「そうだ。香奈、麻里ちゃん、マーリンさんにフィーリア。みんなに渡したいものがあるんだ」
俺はみんなを呼んで、それぞれに左手を前に出すように言う。4人は不思議そうに左手を前に出してくるが、この行為を知っている他の婚約者たちは、ニヤニヤと見ているだけだ。
俺はアイテムリングから取り出した、トゥルークリスタルの付いた婚約指輪を、みんなの左手の薬指にはめていく。
みんなの指より大き目に作ってあるから、はめた瞬間はぶかぶかだけど、自動で形が合うようになっているからそれで良い。
「これは、みんなと同じ婚約指輪だ。みんなが俺の女だって証だ」
俺がそう言うと、4人は目を潤ませながら抱きついて来た。喜んでもらえてよかった。
フィーリアにはまだ早いかもと思ったが、あの気持ちを聞いた後に、他の男にやるのは嫌だと思ったら作っていた。嫉妬深いようで女々しい感じはあるが、これで他の男も手を出さないだろう。
俺は彼女たちを失いたくない。そのためなら、どんな力を使ってでも奴を倒す。
◇◇◇
「バロン様、お体はいかがですか?」
「……ああ。ようやくこの体に力が馴染んで来た。準備は?」
「全て整っております。後はバロン様の命令次第です」
「クックック。待っていろ、アステルよ。お前が大事に思うこの世界を消し去ってやる!」




