212.鍵
婚約者たちとの夜の戦いや、フィーリアの突然な突撃などがあった日々から1ヶ月か経った。
俺はあの後にランウォーカー辺境伯領に戻ってきたジークに会い、フィーリアの事を話した。フィーリアが学園を卒業する時に考えが変わっていなかったら、俺が娶る事を。
ジークは当然ながら、頭を抱えてしまったが、どこぞの馬の骨に渡すよりかは良いかと、納得してくれた。1発思いっきり殴られてしまったが。それも仕方ないか。
よくよく考えれば、俺も人ごとではないのだから。今はまだ考えた事は無いが、将来生まれた子供たちが俺と同じ事をしないとは限らない。その時も俺はジークと同じ立場になるのかなぁと、思ったりして、勝手に悩んだりして。
その日は初めてジークと晩酌をした。前世でも出来なかった晩酌だ。少し緊張しながらジークと話していたのだが、酔ったジークは、色々と愚痴を言ってくるだけ。
でも、その中には俺が滅多に顔を出さないから心配だとか、婚約者を増やしまくっているからちゃんとみんなを相手に出来ているのか心配だとか、俺に関する事ばかりだった。……そんなに心配かけていたんだな。
時折エリスが聞いたら怒られるような事、シワが増えたとか、少し腰回りが柔らかくなったとか、普段はキリッとしているけど、ベッドの上ではとても甘えん坊とか、息子に聞かせるような話ではないものまで話していた。
それほど気分が良かったのだろう。その後はぐっすりと眠ってしまった。俺も久しぶりにゆっくりと話せて良かった。
そんな日々から、1ヶ月が経った今、俺は王領の屋敷の執務室で座っている。手に持っているものを眺めながら。
「そろそろ、確認しなきゃな」
俺の手の中で転がっているのは、15センチほどの鍵だ。これだけ聞けばただの鍵のようだが、放たれる光は神々しい雰囲気を発し、そこにあるだけで周りを威圧する。
これを出した瞬間、ゴロゴロしていたエクラとクロンディーネはびっくりして部屋を出て行ったきり戻ってこないほどだ。他の侍女たちも部屋に入ってこなくなった。多分これに耐えられるのは
「従兄さ〜ん、来たよ〜」
「レイ、入るわね」
ちょうどやって来た。扉が開かれ入って来たのは、俺と同じ女神アステルからの加護を持つキャロと香奈だ。この2人も恐る恐るだが、部屋に入ってくる。そして、俺の手に持つ鍵を見て、ウッ、と顔をしかめる。
「……その鍵が原因ね。エクラたちが涙目でやって来たのは」
「エクラちゃんもクロンちゃんもメイちゃんに抱きついたまま離れなかったよ。従兄さんが怖いものを持っているって」
そこまでだったのかこれ。俺は少し何か出ているなぁ〜、ぐらいの感覚しかなかったのだが。俺自身が女神の加護を複数持っているからかな?
「多分その認識で間違い無いと思うわ。私たち以外の婚約者は、ここに近づくのを嫌がったもの。私たちも多分女神の加護を持っているから、耐えられるわけで」
「クロナちゃんとか従兄さんに近づきたいのに近づけないって、息を荒げながら言っていたよ……ちゃんとフォローしてあげてよね」
……クロナが変な性癖に目覚める前に仕舞っておくか。俺はアイテムリングに鍵を仕舞う。これで良いだろう。キャロたちを見ると、2人とも息を深く吐いて深呼吸をしている。
それから、数分もしないうちに、ドタドタ! と廊下が騒がしくなって、扉が開かれる。まず入って来たのがエクラだ。俺の顔を目掛けて一直線で飛んで来た。それから、アレクシアたちも入ってくる。
エクラが落ち着くまで撫で回してから、鍵についてみんなに話す。以前、女神アステルから鍵を貰った事は話していたが、こんな力を放つ物だとは思わなかったらしい。
「それじゃあ、今から」
「ああ、女神アステルが言うには竜王に聞けばわかるらしい。教えてくれるかはわからないと言っていたが、だから今から会いに……」
「必要ねえよ」
俺がみんなに話をしていると、入口の方から声がする。その方を見ると、レビンさんとアニマさんが立っていた。これは……
「不倫ですか?」
「ばっ、お前何言ってんだよ!?」
俺のなんとなくの言葉に慌て出すレビンさん。そして、当然それに反応するのが
「ギュルウゥ」
「ま、まて、エクラちゃん。小僧が言ったことは間違いだ! 偶々出会っただけだ! ほら、婆さんも黙ってないでなんとか言えよ!」
そんな事を言われたアニマさんは俺たちと慌てるレビンさんを交互に見て、ニヤリと悪そうな笑みを浮かべる。そして
「そうなのじゃ〜、レビンが妾の事を熱く求めてのおぅ〜」
「ば、ババア! なんでそんな嘘をつくんだよ! エクラちゃん、嘘だからな! 俺はそんな事はしねぇ! そこの節操無しと違って、俺はヒルデ一筋だから、な!」
節操無しとは失礼な。俺はみんなが大好きだぞ。しかし、レビンさんの懇願もエクラには届かず
「ギュララァッ!」
エクラが光の球体を出現させる。そしてレビンさんに向かって放たれる。ドゴォン! と大きな音を鳴らして、扉が吹き飛んだ……家は壊さないでほしい。
◇◇◇
「ここじゃ」
屋敷でのひと騒動があってから2時間後。俺はアニマさんの背に乗って、大陸の外にある小島へとやって来た。レビンさんは未だに屋敷でエクラに弁解中だ。
他の婚約者たちも来たいと言っていたのだが、鍵の威圧に耐えられないものが近づくと命に関わるらしいから連れて行けないと、アニマさんが言うのでみんなには残って貰った。
俺は小島を見渡すが
「生き物がいませんね」
そう、この島には生物の気配がしないのだ。人や魔物は当然な事に鳥や昆虫までもが存在しない。あるのは肌色の山だけ。草木も生えていない。
「かすかに漏れる神威でも、普通の生き物は耐えられぬのじゃ。しかし、生きているものならおるぞ」
「えっ?」
誰かが住んでいるのか? そう思っていたら
「これは珍しい客人だ。それに久しぶりだな。アニマよ」
「ああ、ドモン」
目の前には茶髪を後ろでひとくくりにした老人が現れた。見た目は老人だが、がっちりとした筋肉に、鋭い眼光。この人は……
「こやつはドモン。ここにある神竜の門を守る土竜王じゃよ」
「初めまして、ドモンさん。俺の名はレイヴェルト・ランウォーカーと言います」
「カッカ、よろしくなレイヴェルトよ。神竜様から話があったがお前が鍵を持つ者か」
「鍵は女神アステルからもらったものですか? それなら俺ですが、神竜の門と言うのは?」
「うむ、それで正解だ。では、歩きながらでも、説明しようかの。ついて参れ」
そう言って先を歩くドモンさん。俺とアニマさんはドモンさんの後ろについていく。
神竜というのはおとぎ話どころか神話に出てくるような竜のことだ。以前竜種について調べた時に、名前だけ出てきたのを覚えている。
「その神竜様だ。あのお方は存在されるぞ。ただ、いるだけで生き物を殺してしまうので、自らこの島にいるのだ。儂はあのお方の門番だが、どちらかと言えば、外に出られないあのお方の話し相手だな」
神竜は、女神アステルの神の力を3分の1ほどに分けて、この世界に顕現させたのが神竜らしい。神竜は女神アステルでありながらも神竜個人だとも言う。
詳しくはわからないが、ドモンさんが言うには女神アステルと同じ記憶などは待っているが、意志として神竜らしい。
「ほら、ここだ」
そしてドモンさんに案内されて連れてこられたのが、全長10メートル程もある巨大な門だ。でも、確かにとんでもない威圧感だ。ドモンさんは慣れているようだが、アニマさんさえ顔色が悪い。
「この扉の向こうは儂でも知らない。ここを開けられるのはお主の持っている鍵のみだからな」
そう言ってドモンさんが指差す方には、この巨大な門に似つかない小さな鍵穴があった。ここに挿せば開くようだ。俺は深呼吸をして
「それでは行ってきます」
俺は鍵穴に鍵を差し込む。その瞬間視界が変わった。目の前にあった巨大な門は無くなり、辺り一面真っ白な世界へと変わったのだ。そしてそこには
「よく来ましたね、レイヴェルト・ランウォーカー」
と、微笑む女神アステルの姿があったのだ。
本日新作を投稿しました。
名前は「復讐の魔王」です。
以前打ち切らせて頂いた「召喚された……」のリメイク版です。
良かったらご覧下さい。
更新についてはこの作品が終わるまでは
転生少年 毎日
黒髪の王 毎日
復讐の魔王 不定期
となります。
この作品が終われば
黒髪の王 2日に1回
復讐の魔王 2日に1回
新作 2日に1回
新作 2日に1回
で行きたいと思います。この新作のうちの1作は「転生少年」の話の後の話を書きたいと思っています。主人公はレイではありません。キャラとしては既に出ていますが(笑)




